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とても良い銃

「へへっ、嬢ちゃん何処に居るんだい!?……あ?」


 少女を追っていた荒くれ者達の隊長の前に突如、予期せぬ者、ジーク・アルトが現れた。

 ゆっくりと両手を上げながら、近づいて来たジークの姿に一瞬男は面食らうが、直ぐに銃口を向けて威嚇する。


「な、なんだてめぇ、一体どこから……さては、あの嬢ちゃんの護衛の生き残りだな、死にぞこないが!」

「待ってくれ、俺は無関係者だ。

 ただの通りすがりだ。面倒ごとに巻き込まれないように、こうしたあんたらの前に出て来たってわけだ。元軍人で銃を持っているが、これは護身用だ」

「その訛り、リカール人だな?……まさか、リカール大隊の出身者か?」


 まさか、という風に尋ねられジークはそうだと答えた。

 男は一瞬真顔になった後、腹を抱えて大笑いした。


「……アッハハハハハハハハハァッ! おい、皆、来てみろよ! リカール大隊の英雄だってよ!」

「初めて見たぜ、詐欺師野郎!」

「こいつは傑作だ!」


 リカール大隊はかつての戦争の元凶として、前線の兵士の間で噂としてまことしやかに囁かれていた。

 だが、それを利用しようとした人間も多かった。

 自分こそはかの有名なリカール大隊、そう名乗ることで大きな仕事を得ようとした二流の傭兵が多発したのだ。

 結果的に、リカール大隊は詐欺師等の汚名を被せられていた。


 この荒くれ者達はジークがリカール大隊と名乗ることで自分達を威嚇しようとしているのだと考えた。

 爆笑した後、隊長は数人の部下達を整列させ、ジークに銃口を向けさせた。


「ハハハハハ……無関係って言ったな?

 なら、関係者にしてやるよ、俺様は臆病者が嫌いだ。

 誰を殺すかは俺が決める。殺してやるぜ。

 ただ、どうしようかな。金目のものを全部おいて、泣き叫びながら命乞いしてやれば……」


 隊長も自身の拳銃を向けた、その時だった。


「おお、その銃は良い。

 トカレフの33型、しかもアルタイル連邦の南部方面軍に配備されたばかりの最新型だろう?

 撃ちやすくて、当たりやすい、とても良い銃だ」

「……は?」


 慌てふためき、涙ながらに殺さないでくれと泣き叫ぶものだと思っていたら、予想外の返答が返って来たので敵の指揮官は困惑してしまった。

 確かにこれは数週間前に闇商人から買ったばかりの新品、まだ使ったことがなかったので、使うのを楽しみにしていたところだ。

 が、ジーク構わず、武器の解説を続行する。


「だが、それには一つ欠点がある。安全装置だ。そいつの安全装置だけは本当に良くない。

 勝手に射撃不可に入れられたり、銃口の下っていうやたら押しづらい場所にあったりで……」

「は?いや、何? 何なんだよ?」

「そう、連邦政府のお偉いさん方がうるさかったらしい。連邦陸軍銃火器取り扱い要領2202号に基づいて、メーカーに要求したが、それがどうも」

「頭がおかしいのか?」

「とにかく、安全装置が良くない。アンタのだって掛ったままだ」

「え?」


 安全装置……?そうだったか、そうだったような……と、その男は自問自答する。

 確かに武器商人はそんなことを言ってた気がする。

 どうせ、部下達もいるのだ。と、銃を裏返し、銃口の下にあるであろう安全装置を確認しようとした――。

 が、拳銃は地面へと落ちる。それと彼の片腕も。


「悪い、嘘だ。

 トカレフに安全装置は無いんだ」


 片腕を無くし、バランスを崩し、倒れ行く隊長が見たものは、まるでいたずらに引っかかった友人を見るように、楽し気な笑みを浮かべ、リボルバーを構えるジークの姿だった。


「これにも安全装置はない」

「た、隊長!――ぐわっ!」 「待ち伏せ……いや狙撃――!?」


 一瞬状況を理解するのが遅れた、部下たちは反撃しようとするが、一列に並んだ彼らは遠方からの狙撃、そしてそれに気を取られたところをジークに狩られた。

 残滅まで数分と掛からなかった。


「狙撃もうまくなったな、エリー」

「えへへー。……隊長さん、まだ生きてるみたいだけど?」

「や、やめろ。見逃してくれ!

 

 なんだ!?何が目的だ!?

 ああ、全部話すよ、俺はトリスタン王国の姫様を殺すことを依頼されたんだ!

 結局、殺せてねぇけど、なんでかなんて知らねぇよ!」


「ああ、そう」


「き、興味ないのか!?

 金か!? 根こそぎ持って行ってくれ!

 何だ、何が欲しいんだ!? 何をすれば――」


 パンと乾いた音と共にその命乞いは終了した。


「にしても……良い銃だな。

 このトカレフは。

 中が気になるな。後で分解してみよう」


「人のものだったの勝手にとっちゃいけないよー。

 ……で、あそこの茂みに隠れている娘は?」


 茂みがびくりと揺れ、その中から怯えた小動物のような少女が出て来た。

 いきなり現れ、全てを殲滅した男女に小刻みに体を震わしていた。

 が、それでも命の恩人に貴族のお辞儀、カーテシーをする。


「私はトリスタン王国の女王、シルヴィア・ウィン・トリスタンと申します……。

 助けて頂いてありがとうございます……。その、わ、私は助けて頂いたのですよね?」


 ジークはそのボロボロのドレスの少女の姿を凝視する。

 護衛も死んでしまったのか、彼女たった一人、それ程厳重な警備ではなかったようだ、外交にでも行っていたのだろうか?

 それにこの歳で王女。傭兵からの証言も合わせると間違っていない筈。

 可愛げのある顔立ちは恐怖で満たされている。襲撃の事だけじゃない、いろいろな何かが積み重なったような、過労死とかそういう言葉がよぎる。


 ジークは考えを張り巡らせ、結論を出した。


「……ああ、もちろんだ。

 困ってる人を見逃すなんて出来ないからな」


「本当ですか!?……良かった」


 心底安堵したようにシルヴィアはその場にへたりと座り込み、泣きじゃくる。

 それを眺めているとエリーが耳元でささやいて来た。




「ジーク君、正義の味方ごっこ? それとも……まさか、あの娘に一目ぼれ……!?」


 そう、ジークはどこか過去の不遇だった自分と面影が被る少女のことを憐れみ……。

 もちろんそんな筈がない。


「わかってることを聞くなよ、エリー。

 あの子からは戦争の匂いがするんだ、大戦争の」

「まぁ、そうだよね。

 ……次はどんな戦争になるのかな?」

 この男、いやこの二人は戦争の気配を察知したのだ。

 獣は獲物の匂いを逃がさない。



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