1話-1章- サクラの咲かない街
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
「技術は不可避的に発展し、人間はそれに適応するしかない。」
ージャック・エルール(技術哲学者)ー
月の重力は、静かに揺らめく。
錆びついた鉄の塊たち──役目を終えた衛星や破片は、108分ごとに軌道をなぞり、俺の住む月面コロニーすれすれに通過していく。
毎日決まった時間、校舎にひとすじの赤い光が走る。
日常の風景。誰も気にしない。俺にとっても、ただの風景──だった。
「月島くんっ! 今日は書類運ぶの手伝ってくれて、ありがと……またねっ!」
窓の外を見ていた俺に、ふいに声がかかる。
「あぁ……またな」
手を振られ、俺も軽く振り返す。
「……あいつ、絶対お前に気があるぞ」
それを見ていた悪友が、ニヤつきながら近づいてくる。
「いいかげんなこと言うな」
「いやいや、前からあの子、お前のこと見てたって。
ついにお前にも“春”が来たんだな……!」
「月には桜は咲かないぞ」
たわいもない会話だけ交わして、いつもの家路についた。
今日は──ネットで注文した“アレ”が届く日だ。
家の前、玄関横にダンボールが立てかけてあった。
《月島 拓海様》と伝票に書かれていて、思ってたよりでかいな……と思いながら、自分の部屋までいそいそと運ぶ。
「衛星社」と大きく印刷された箱は、品質に一定の基準を満たしたニホン製。
そこそこ高くついたが、このパーツがあれば──このジャンクも、きっと直る。
部屋に入り、机の奥。
右手の棚に転がる、まるで“顔”のような丸い物体──
それは、そこにあった。
初投稿となります。
今後は、SFを中心に物語を綴っていこうと思っております。
機械技術や力学・化学など、現実的な視点が欠ける描写もあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると嬉しいです。
未熟ではありますが、これを後書きとさせていただきます。