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2 婿探しは難航しています。(2)



 購買でホットドックのようなパンとコーヒーを買い、広大な庭の隅の低木に囲まれた場所で本を読みながらかぶりつく。柔らかな風が髪を揺らすのが心地よい。

 ゲームの舞台だからか、この学園は現代日本の高校と大学を足して二で割ったようなところだ。ほどよく自由で、ちょっぴり縛り付けられる。前世は交通事故により三十路手前で人生の幕を下ろした私からすると、人生の大半を過ごした学校生活は、今世でもなかなかに謳歌できそうだ。周りに人がいない場所限定だが。


 心地よい気温で読書がはかどり、ちょっと気持ちが上向いたところで予鈴が鳴ったので手早く片付け、教室へと向かう。

 人の往来が多い廊下に差し掛かると、再び刺すような視線にさらされたが気にしないふりをする。

すると横から声を掛けられた。


「あれ? 偶然だね。今日も君に会えるなんて、やっぱり僕たちは運命の糸で結ばれているんだね」

「…………」

「おや、ブリギッタ嬢。無視はひどくないかい? いずれは女伯爵になった君を支えるだろうこの僕に」

「……まあ、クランツ先輩。申し訳ございませんが全く気づきませんでした。それにしても、数日お目にかからないうちに妄想と虚言癖がひどくなったのではありません? お医者様に掛かった方がよろしいかと存じますけど?」

「おいおい、ポールと呼んでくれと言っているだろう? それに妄想でも虚言でもないよ。きっと君は僕を好きになるからね。あ、もしかして大勢の前で話しかけられて恥ずかしいから、そんな攻撃的な言葉が出るのかい? 安心してくれたまえ。僕は心の広い男だから、そんな天邪鬼なところも許してあげよう。二人きりでしか思いきり甘えられないのなら、今度の休日に僕の実家に招待するよ」

「おぞましいことをおっしゃらないでください。私があなたと休日を過ごすことはあり得ません。さようなら」

「あ、こら待ちなさい! ブリギッタ嬢!」


 私は貴族としてギリギリセーフくらいの速足で歩き、教室に入って安堵のため息を吐く。

 上級生ともいえども、気軽に他クラスの教室には入ってはいけない決まりがあるのだ。

 それにもうすぐ本鈴もなる時刻だ。追いかけてはこないだろう。


 あの心底気持ち悪い先輩は、クランツ子爵家の三男だ。学園中から遠巻きにされている私の寂しさにつけ込み、次期女伯爵の婚約者の座におさまろうとする輩だ。このようなはた迷惑な男は、あと二人ほどいる。いずれも下級貴族の次男や三男だ。

 爵位を継げない次男三男が、卒業後の自身の身の振り方を模索するのはわかる。それが玉の輿なら万々歳だろう。

 だが、さも「女なら甘い言葉をささやいていれば落ちるだろ?」と言わんばかりの歯の浮くようなセリフを並び立てられたところで不快なだけだ。彼らの方が年上で、しかも嫌われ者の私に「優しくしてやっている」という、こちらを見下した態度なのも癪に障る。

 最初はやんわり遠回しに断っていたのだが、それだと「遠慮しなくていい」だとか言って身体を触ろうとしたり、「そんなこと言わずにちょっとだけ」と強引にどこかに連れて行こうとしたので、以降は多少無礼でもきっぱりはっきり断るようにしている。

 衆人環境の中でしっかり意思表示しておけば、何かあった時に合意ではないとわかってもらえるだろうという保険も兼ねている。

 特にさっき声をかけてきた男は生理的に無理で、待ち伏せしていたのに「偶然」と言ってくるし、自分に都合のいいようにしか考えず話が通じないところが本当に気持ち悪い。

 前世も「オレに話しかけられたら嬉しいだろ? 恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」という態度で女の子にしつこく付きまとう男は見たことあるが、あれは自分に害が及ばないから「ぷぷー勘違い乙www」と笑っていられたのだ。自分が被害者になると、うっとおしいことこの上ないのだと実感した。


 私は空いている席に座り、重い溜息を吐く。

 この環境下で私が人との会話に飢えていようとも、相手によってはストレスしか溜まらないこともあるのだ。


 こんな感じで、私の婚約者探しは難航しているのであった。




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