美人三姉妹の真ん中は自分達を賢いと思い込んでいる人達を蹴散らして恋人と共に魔法と生きる。薬を買うのに追放しようとしたり姉や妹を囲おうとするなんてとても命知らずなんですね
美女な長女、平凡な次女、ほんわか美少女三女。
三姉妹は村に来たという余所者であるが、そんなものを感じさせぬ程オーラに満ちていた。
この三姉妹、秘密で溢れている。
例えば、この三姉妹は本当の血の繋がった姉妹ではないとか。
実は次女は魔法使いとか。
更なる秘密は、次女の召喚した使い魔が二人の姉妹だとか。
使い魔と知れて別に構わないと思うが、ある程度身動きが取れるように姉妹として生活している。
最近困っているのが、貴族が長女をお気に召してしまったことだ。
簡単に言ってしまえば使い魔である。
純粋な人族ではない上に、本当の姿ではない。
人型であるとこの地で動きやすいというだけの理由で変装している。
だから、結婚など物理的に無理である。
貴族の結婚は容易くはね除けられる。
ちょっと夜逃げすれば良い。
困っているのは、魔法使いの次女が村で変な立ち位置に立たされているからだ。
とある日、友人の魔法使いが家にやってきたので招き入れた。
「あら、セイディじゃないの」
美女と名高い長女が出迎える。
「よぉ」
セイディは使い魔二人を連れて部屋へ入る。
アルフガとランスイは人型になっているので、村に入るのもすんなりである。
アルフガの登場に、長女は嬉しそうにはにかむ。
「おれを差し置いて恋愛ドラマすんじゃねぇ」
アルフガにセイディの蹴りが炸裂する。
「酷い言い掛かりだ」
アルフガは涙目で反論。
「カーシャは今留守よ」
「何しに行ってる」
セイディは用のある人間が居なかった事で不機嫌になる。
「この村の人達に薬を売りに言ってるの。薄情な人達なんて見殺しにしておけば良いのに」
長女は猫を被り美しすぎて、心まで綺麗だと言われている真逆な事を述べる。
村は排他的故に、長女と三女がプロポーズをしてもハイと言わないのは、次女を可愛がっていて。
次女が結婚しないからではないか、という検討違いな事を噂し、次女をのけ者にしているのだ。
薬という村にとって貴重な人材だから完全に無視とはならず、空気で排除しようとしている。
八つ当たりだ。
「そうね、お姉さまは村人なんて捨てて、私達と逃げれば良いのよ。ふふ」
天使と言わしめ、全てを欲しいままにしている三女が紅茶ポットを持ってきて会話に参加する。
こちらも猫をかぶり真逆の思考を垂れ流している。
「お前ら怖いな相変わらず」
ランスイがそう言いながらも三女に熱い視線を送る。
それにセイディは素早く反応しランスイが座った椅子を真上から蹴り上げてランスイを椅子から浮かせる。
お尻が悲惨な事になっているだろう。
「痛い!」
「おれよりも先に甘い空気漂わしてんじゃねぇ」
「理不尽っ」
涙目である。
「あーら、セイディってばあの子が居ないから、オコなのかしら?」
「ネットスラング使ってんじゃねぇ、世界観壊れるだろうが」
魔法使い等は他の世界の知識も知っている。
「良いじゃない。この村面白いのよ?私達をまるで所有物と思ってるの」
何かあれば会いに来て、何かあれば頼ってくる。
好意を持って住んでいるのではないのに、都合の良いときには声をかけるのだ。
カーシャは流れるように薬を売るが、彼らが邪険にした場合売ってもらえなくなるとは考えないのだろうか。
バカなのであろう。
姉妹はこの村に住む必要もなく、用がなければとっくにおさらばしている。
「確か、魔石の採掘可能な所が近くにあるんだったよな」
「ええ。まだ少しかかると言われたわ。こんな辺鄙で何もない、人心さえも辺鄙な所なんてさっさと離れたいわ」
長女に三女が賛同する。
三人分のお茶が入れられて出される。
「そーよね、人が優しかったのならあと何年か住んでも良さそうなのに、本当、嫌になるわ」
セイディ達は出された紅茶と缶に入っていたが皿に出したクッキーを摘まむ。
サクサクと音を立てて二人の不満を聞く。
女のお喋りには口を出してはいけないと本能的に察している。
「たーだいまー」
呑気な声音に二人の女は喜びに染まる。
「まぁ!クソ村人達にはもう売ってきたの?」
長女は更に言葉を悪化させて問う。
「クソ村人…………」
ランスイは哀愁を漂わせる。
顔は最高なのにな。
「お姉さま!お客様が来ておりますわ」
三女がフォローするが、もっと違う場所をですね、とアルフガも内心思う。
お姉さまと呼ばれているカーシャ。
魔石の採取をメインに薬を売るのは、あくまでサブとしてやっている。
村人がどんな態度で買おうと別に気にならない。
魔石を採ったら薬など売らなくなる。
それどころか、村から出ていく。
薬を売っているのは村人が必要でお小遣い感覚になるかな、というもので始めたのだ。
村人が嫌そうに買っているのなら、逆に売らなくなる事は喜ばれるのではないか。
そう思考を漂わせつつ、客に目を向ける。
「セイディと二人、わざわざここまで良く来ようと思ったわね」
歓迎するが、ここまで来ようと思ったその根性に苦笑する。
ここは特に何もない村だ。
最近は三姉妹が有名になりつつあるから、その顔を見ようとやってくる観光客が居るくらい。
でも、姉妹は一日中外へ出ているわけではなく、寧ろ中で過ごす事が多い。
しかし、何を勘違いしているのか、村長が貴族が来た時に三姉妹のうちの二人に接客するように頼みに来るようになった。
それが、鬱陶しいなと思い始めた。
「そろそろ魔石も結構取ったし、出ていこうかと考えていたの」
他愛無いことだと、言葉を選びながら唱える。
「ふんっ、そりゃ都合が良い」
セイディは村人がカーシャを除け者にしようとしているという話を聞いたばかりで、どうやって村人を苦しめてやろうかと考えていたので、やる手間が省けそうだ。
一応村長に土地を借りていたので、最後のお別れくらいは言っていこうかと言うので、三姉妹は荷造りを始めた。
「お前らも手伝え。選択肢コマンドによって好感度上がるかもな」
手伝う
手伝わない
「みたいな奴な」
セイディが適当にものを言ったが、現実的に上がる可能性は否めない。
「もち、手伝うよな」
ランスイが得意気に三女の所へ向かう。
アルフガもシャナリシャナリと歩いていった長女へ向かうと、セイディはやれやれと溜め息を吐く。
「おい、おれをほったらかしにするとは偉くなったもんだな」
彼女の部屋へ突入し、ドアを叩かず無遠慮に彼女を後ろから羽交い締めにする。
尚、セイディは後ろから抱き締めているつもりなのだが、逆に見ると奇襲を掛けられているのだ。
急に絞まった体を捻りセイディと知ると、腕の力を緩めてくれと合図する。
十秒程絞められて、漸く緩められた力。
ちょっとは手加減するくらい学んで欲しい。
「追いかけてくるとは思わなかったから」
「お前が魔石に夢中なのは知ってた。だからここに来るっていうだけでも大分譲歩しただろ」
セイディが拗ねた声音で言うから、笑いそうになるのを必死に堪える。
笑うと更に不機嫌になるかもしれないのだ。
「そうね。ありがとう、それは」
追いかけてきて、しかも家にやってきてくれたマメさは素直に嬉しい。
荷造りを終えて村長にお別れを言う。
「というわけです。私達は故郷に帰ります」
「今までありがとうございました(このどくされ野郎)」
長女と三女が順に言う。
「お世話になりましたわ(ストレス製造人間達がっ)」
内心二人は、悪態を付きながら外面は完璧に儚げな笑みを浮かべる。
それを外から見ていたセイディ達は、戦慄していた。
「ううわー、相当ヘイト溜めてたなあいつら」
「この村人達の心がアレなせいで、仕方ない」
ランスイの言葉に、アルフガが頷く。
「ま、待ってくれ、いきなり何を」
慌てて、初耳だと言う人は勿論村長だ。
永久的にここに住むものだと思っていた彼は、村が活性している理由の三姉妹を見る。
「出ていく?どういう事だ」
「え?今の言葉聞こえてませんでした?」
次女と思われているカーシャは、そんな訳ないよね?と首を捻る。
可笑しいな、そろそろお年だから隠居すれば良いと思う。
「は?こ、この村を出ていくことは許しとらんぞ」
戦慄く唇を震わせて村長が言うと、三人はキョトンとなる。
何を言っているのだこの老害が、と内心言うのは長女だ。
美しい顏をふわっと傾げさせ、ほほほ、と笑う。
それに一時見惚れる村長。
村長の癖に見惚れるのかよ、と思うのは三女だ。
「あら、貴方に許可を貰うのは必要ありませんわ?」
「な、私は村の長であるのだ」
それに追撃するのは三女だ。
「ねえ様の言うとおりです。だって、帝より許可を得てここに住まいを構えていただけのこと。別に貴方を介して村から出ることを許可してもらう必要はありませんの」
村長の頭の中は、まさに訳の分からぬ事でぐるぐると回り意味が分からなくなっていた。
帝、とはこの地域を納める皇帝の事だ。
「ふふ。まさか、こんなとんでもない勘違いをしていたとは驚きました」
長女はおっとりと言う。
しっとりとした黒髪がさらりと肩を滑る。
村長はそんな事聞いていないと小さく呟き、それを聞いたカーシャが聞かれなかったので、と至極当たり前に言う。
絶句している村長をそれみたことかと言いたくなる程に顔をぽかんとさせている。
長女的には青ざめさせたい、後悔させたい。
きっと後からじわじわと後悔する事だろう。
なんせ、帝から許可を得て住んでいた女を除け者にしていたのだから。
「それでは、ごきげんよう」
にっこりと隙の無い笑みを浮かべて三女が腰を綺麗に曲げてうっとりさせる仕草で終わらせる。
慌てて後を追おうとしていたが、見えない壁に阻まれる。
混乱の極みで壁にぶつかる。
ドカッと鼻をぶつけて呻いている。
フッと息を吐き出すように鼻で笑う。
「身から出た錆、いいえ、自業自得ですわね」
扉から出た後に長女が村長の家を見る。
所謂、捨て台詞、いや、最終回の台詞だ。
これから村は最近観光客を得ていたが、姉妹が去る事によって有名どころを失う。
更にここは本当に辺境である上に凄く田舎なので、薬などを簡単に入手出来ない日々に戻る。
これで村は寂れた村に、元あった姿に戻るのだ。
それ以降の事は関係ない。
帝から許しを得て、土地を貸してもらっていたので村長にも村人達にも、恩も義理もない。
寧ろ、客が来る度に相手をさせられていた不要な労働に対して、後に帝の印で請求が来るだけだ。
今は、有名姉妹が居なくなるという事態しか飲み込めない村は、只報いを受けるだけ。
さて、と外へ出た三人を待っていたセイディ達。
「終わったか」
「待たせたね。行こうか」
この後、都会へと魔法で跳んだ。
跳躍したのではなく、転移という魔法で瞬間的に場所を移動したのだ。
久々の都会に、三女が嬉しそうに陶器を売っている店を覗く。
三女は可愛い陶器に目がない。
あげているお小遣いを陶器を買うためだけに使っている。
と、言える程。
「お姉さま、買い物しても良い?」
「うん。今まで我慢してたご褒美ね」
お姉さま呼びは姉妹という設定だからだ。
ランスイが三女と一緒に行きたそうにしている。
それを感じたセイディは面倒そうに「行きたきゃ行けば良いだろう」と言う。
セイディは放任主義だ。
ついでに、アルフガにも邪魔だからどっか行け、と、解散させる。
アルフガは先に行く長女を追いかけた。
長女は長女で、カーシャに買い物へ行きたいと言って、歩き出していた。
使い魔の恋愛事に、出し抜かれたセイディはしょうがねぇ奴等だ、と見送り彼女の元へ参じる。
「やっと二人になった」
「ふふ、そうだね」
二人を蹴散らしているようで、空気を読んで解散させたセイディの優しさに頬を緩める。
腕を絡めるくらいのサービスも厭わぬ。
「何か欲しいもんはねぇのか」
お、珍しい。
あんまりそういう事を言う人ではないので。
「そうね。うーん」
と、言っても魔石を取ったし、今欲しいものは無くなってしまったし。
三姉妹の予算もお金もある。
「バレッタはどう?」
髪に留められるもの。
「女っぽいもんだな。良いぞ」
オッケーらしい。
バレッタで魔法を込めてくれたら尚良い。
一回ポッキリな魔法でも良いから、と頼むと分かったと懐の財布を緩めてくれる。
同じ魔法使いは、恋人関係になるのが非常に難しいと言われている。
なぜなら魔法使いは基本的に学者肌が多く、己をも省みない人が多い、更に友人など関係を広げられない個人主義の人が多勢だ。
早速バレッタを買ってくれたセイディは、髪にぱちんと嵌めてくれる。
「似合う?」
尋ねると、そうなるように選んだのだと言われ、それもそうね、と返す。
こういうのを幸せと言うのだろう。
今頃、一緒に歩いている姉妹と使い魔のペアもお互いの親睦を深めている事だろう、と嬉しく思う。
目を合わせると二人はそっと手を握った。
姉妹達を応援してくれる方達も⭐︎の評価をしていただければ幸いです。