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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第5章 恋と乙女は一日にして成らず

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第95話 舞踏会は絶好のタイミング②


「ねぇ、ご覧になって……!」


「あの方がマティアス様の〝花嫁〟なの……!?」


「凄い……なんてお綺麗なんでしょう……!」


 執事のハインリヒに先導され、コツコツと僅かなヒールの音を奏でて歩く〝花嫁〟。


 その姿を見た貴族の女性たちは、一瞬で目を奪われる。


 会場に現れたのは――あの向日葵(ヒマワリ)のようなドレスをまとい、頭には白金のティアラを着け、淡い桃色の口紅がよく映えるメイクを施した――そんなお姫様のようなエイプリルだった。


「ほぉ……」


 俺も思わず感嘆とする。


 俺がエイプリルに持ってる印象は、何処までいっても〝等身大の少女〟だ。


 そう、女性というよりも少女って感じで、恋に恋する乙女、みたいな。

 ああいや、正確に言えばマティアスに恋する乙女か。


 だが今の彼女は、もう女性って印象を飛び越えて〝淑女〟って感じ。


 普段よりずっと大人びて見えて、「可愛らしい」よりも先に「綺麗」って言葉が出てくる。


 凄いな、こんなに変わるモンか。

 いつもの少女感とのギャップが凄まじくて、風邪をひきそうなレベルだわ。


 ――もっとも、俺なんかよりずっと驚いている奴もいるけど。


「――――」


 マティアスは花嫁姿のエイプリルを見て、完全に言葉を失う。

 感動でなにも言葉が出ないって顔してるよ。


 よかったなエイプリル。

 お前の旦那様……心の底から、お前の姿を喜んでるみたいだぞ?


 そんな、会場に入るなり一気に場の主役に躍り出た〝花嫁〟は、自らを落ち着けるようにスゥッと息を吸い――。


「今宵の舞踏会にお出での、紳士淑女の皆様方。我が夫、マティアス様の主催するパーティにお越し頂き、誠にありがとうございます」


 しゃなり、とお辞儀をするエイプリル。

 彼女は続けて、


「どうかこの場を借りて、皆様にご挨拶をさせてください。私の名前はエイプリル・スチュアート。マティアス・ウルフ侯爵の〝花嫁〟でございます。以後、よしなに……」


 舞踏会に訪れた貴族たちへ、なんとも上品に挨拶する。


 直後――ワッという歓声と共に沸き起こる拍手。


 貴族たちは完全に、〝花嫁(エイプリル)〟のことを歓迎しているようだ。


「おぉ、あなた様がマティアス殿の〝花嫁〟……!」


「これほどお美しい御仁だとは……!」


 貴族たちはあっという間にエイプリルのことを取り囲み、我先にと声をかけていく。


「エイプリル様、ぜひマティアス様との馴れ初めをお聞かせくださいな!」


「はい、私が城下町で困っているところを助けて頂いて――」


「とてもお若い方ですのね! ウルフ侯爵家の〝花嫁〟となればさぞご聡明な方と存じますが、なにかお習い事などはしていらっしゃるの?」


「ええ、経理・会計などを少々。マティアス様が当主となられた後には、ウルフ侯爵家の財務管理などをお手伝いさせて頂こうと思っておりまして――」


 エイプリルは明瞭かつ的確な口調で貴族たちの質問に答えていく。


 うんうん、レティシアとの特訓が功を奏してるな。


 ――今日の舞踏会に至るまで、レティシアはエイプリルに対しあれこれ指導を行った。

 財務などの知識、上流貴族の所作、言葉遣い等々……。


 お陰で今のエイプリルは、どこからどう見ても超上品な貴族のお嬢様にしか見えない。


 あのエイプリルをここまで鍛え上げるなんて、流石はレティシアだ。


 レティシア自身もご満悦な様子で「うんうん」と頷き、エイプリルのことを見守っている。


 そんな満足そうなレティシアも可愛いし綺麗だ……。

 エイプリルを見るレティシアを見て、思わず俺もご満悦。


 と、そんな時だった。


「――エイプリル」


 エイプリルの下に、マティアスが歩み寄る。

 群がる貴族たちは自然と道を開け、二人きりの空間が生まれた。


「綺麗だ。凄くな」


「あ、ありがとうございます……!」


「せっかくの舞踏会なんだ。一曲踊ろうぜ?」


 マティアスは〝花嫁〟に対し手を差し伸べる。

 エイプリルはゆっくりと、自らの手をその手に重ね合わせる。


 すると、狙っていたかのように円舞曲(ワルツ)が会場に流れ始める。


 それに合わせ――マティアスはエイプリルを優しくリードし、歩調を合わせて優雅に踊り始めた。


「へぇ……マティアスの奴、あんな風に踊れたんだな」


「とっても上手じゃないの。エイプリルも凄く嬉しそう」


 俺もレティシアも頬を緩ませ、舞踏会の主人公たちを見つめる。


 一歩、一歩と足取りを合わせ、曲の流れに身体と心を任せるように、お互いを見つめ合って踊る二人。


 そんな彼らの姿に他の貴族たちもすっかり魅了され、舞踏会は完全にマティアスとエイプリルの独壇場。


 そして曲が流れ終わって二人が踊り終えると――会場には拍手喝采が沸き起こった。


「マ、マティアス様……私、ちゃんと踊れたでしょうか……?」


「ん? あ~……〝もう少し頑張りましょう〟ってトコじゃね? ヘタウマってレベル?」


「そ、そんなぁ……」


「でも――楽しかった」


 マティアスは、エイプリルの手を両手で優しく握る。


「お前と踊れて本当によかったよ。俺はまだまだお前を知らないと思うけど……なんだか少しだけ、お前のことをわかってやれた気がするんだ」


「マティアス様……!」


「最高のひと時をありがとう――我が〝花嫁〟よ」


 そう言って――マティアスは床に片膝を突き、エイプリルの右手の甲にキスをした。


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