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第9話 上手くいったわね(※レティシア視点)


「――は?」


 血飛沫と共に崩れ落ちる護衛たち。

 まさに一瞬の出来事だった。


「なんだ、ベルトーリ家の護衛って大したことないんだな」


 アルバンは拭い紙を取り出し、刃の血を拭きとる。


「上手くいったわね、アルバン」


「ああ、レティシアもいい演技だったぞ。あれなら大女優になれる」


「あら、お褒め頂き光栄ですこと」


 私はまだ演技を続けるかのように、余裕たっぷりに答える。


 でも、内心はあまり穏やかではなかった。


 ――想定通り。

 ここまでは想定通りなのだ。


 ……そう頭でわかっていても、やっぱり彼の剣技には驚かされてしまう。


 太刀筋がまるで見えなかった。

 気付いた時には、三人が同時に斬り捨てられていた。


 ――異常だ。


 私はかつて、王国騎士団の台覧試合を観たことがある。

 しかし、こんなに卓越した剣技を持つ騎士は一人もいなかった。


 たぶん比較にもならないだろう。


 これが努力の結果なのか、それとも才能の成せる技なのかはわからない。


 けれど明確に言えるのは、彼の強さは底が知れないってこと。


「こ、これなに? どういうこと?」


「な……なにをしているオードラン男爵!? 気でも触れたかッ!?」


 あまりに予想外の出来事だったのだろう。

 マウロとニネットは激しく狼狽し、事態を飲み込めていない様子だ。


「俺は正気だ。元々レティシアを殺す気なんてないってだけさ」


「き、貴様……俺を謀ったな……!?」


「謀る? 先に彼女を陥れたのはそっちだろうが」


 とても蔑んでアルバンは言う。


「お前だけは許さん。レティシアが味わった絶望を、お前も存分に味わえ」


 普段の彼からは想像もできないような、冷たい眼差しと声色。


 ……とっても怖い。


 彼は自分を”大悪党”だと(うそぶ)くけれど、私はそう思ったことはない。


 私にとってのアルバンは、温かくて優しい心を持つ夫。


 だけど……今この瞬間だけは違う。


 彼は紛れもなく”悪”だ。

 それも見る者を震え上がらせ、恐怖を植え付ける”巨悪”。

 

 妻の私ですら、恐ろしいと感じてしまう。


「ク……ククク……!」


 マウロは冷や汗を流しつつも気丈に笑う。


「まさかお前らが結託するとはなぁ! だが愚かだ!」


「そ、そうよそうよ! 落ちぶれ令嬢と男爵風情がマウロ様に歯向かって、タダで済むと思ってんの!?」


「ニネットの言う通り! これは立派な叛逆であり重罪だぞ!」


「ギャーギャーとうるさい奴らだな。そんなのわかってるよ」


「ならば――!」



「……ならば、アルバン様の立場を正当化できればよい、ですな」



 ――そんな言葉と共に、物陰からセーバスが現れる。


 同時に、彼の背後に立つもう一人の影。


 セーバスに負けず劣らず、真っ白な髪と髭を持ったお爺様。


 彼は片目を眼帯で覆い、竜の紋様が描かれたマントを羽織っている。


 その姿を目の当たりにしたマウロは、顔色を真っ青に染めた。


「あ……あ……あなた様は……!」


「控えよ、マウロ・ベルトーリ公爵。我が誰なのか、知らぬとは言わせぬ」


「お……王国騎士団・最高名誉騎士団長、ユーグ・ド・クラオン閣下……!」


 現れた人物、それは王国騎士団の中で最も高い階級”最高名誉騎士団長”の肩書きを持つクラオン閣下だった。


 彼の権力は国内でも有数。

 しかも彼には王家の血が流れている。


 立場的には、バロウ家やベルトーリ家よりもずっと格上だ。


「ど、ど、どうして、あなた様がこんな場所に……!?」


「いやな、我が戦友セーバスから”ぜひオードラン領へご旅行に”と招待されたのだが……」


 クラオン閣下は顎髭を撫で、ツカツカとマウロに近付いていく。


偶然も偶然(・・・・・)、とんでもないことを聞いてしまった。よもやバロウ公爵家のご息女を”殺せ”とは……」


「公爵家の人間を殺そうとするのは、例え同じ階級の者でも重罪ですな」


 クラオン閣下の言葉にさらりと言い加えるセーバス。


 ……凄いわね、この二人。

 白々しさを隠そうともしないわ。


「ち、違います! 俺は唆されただけで……全てアルバン・オードランの謀略です!」


「ほう?」


「クラオン閣下、ここにアルバン様とやり取りしたマウロ様のお手紙が」


 セーバスが懐から数枚の封筒を取り出す。

 流石に準備がよすぎないかしら?


「どれどれ。むむ、ベルトーリ公爵の手紙に”レティシアを始末するなら手を貸す”という一文を、さっそく見つけてしまったぞ?」


「これはもう決まりですな」


「む、むぐぐっ……!?」


 これも全部、アルバンが仕組んだこと。


 自らの物的証拠は何一つ残さず、マウロから証拠になりそうな文字と言葉を的確に引き出す。


 ちなみにアルバンがマウロに出した手紙には、殺害を示唆する直接的な文言を一切使っていない。


 私と二人で見合わせながら、意図的に回りくどい文章に調整した。


 もし見られても罪に問われることはないだろう。


 それと、彼の”殺せ”という一言をクラオン閣下に聞かせたのだってワザと。


 まるで誘導尋問である。

 本当、なんて悪い人(・・・)なのかしら。


「騎士たちよ、もう出てきてよいぞ」


 クラオン閣下が言うと、物陰に潜んでいた護衛の騎士たちがゾロゾロと出てくる。


 この方々を隠すためにこの倉庫を選んだのだけど、本当にバレなくてよかったわ。


 でもこれ、どう考えても旅行に連れてくる人数じゃないわよね。


「オ、オードラン男爵……! 貴様、ここまで全て計画して……!」


「さあ、なんのことかな?」


「……騎士たちよ、マウロ・ベルトーリ公爵を連行せよ」


 屈強な騎士たちがマウロを取り囲み、彼を連行しようとする。


 ――これで、全てが終わる。

 私はそう思ったのだが、


「け――”決闘”だッ!」


 マウロが、叫んだ。


「なに……?」


「こ、このマウロ・ベルトーリ公爵、名誉を回復するためアルバン・オードラン男爵へ決闘を申し込むッ!!!」


 ――思いがけない一言だった。


 きっと苦し紛れに、咄嗟に出た言葉なのだろう。


 だが、これは有効な手ではある。


 決闘とは、名誉を貶められた者が名誉挽回のために叩き付ける挑戦状。


 この場面においては、形式上有効となる。


 もしこれを受けねば、アルバンは臆病者の烙印を押されることになってしまうけれど、


「……あーあ、面倒だなぁ」


 アルバンは――なんとも悪っぽくニヤリと笑う。


「でも、その言葉を待ってたよ。これで正々堂々……お前をぶっ飛ばせる」


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