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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第4章 夫婦の危機

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第71話 〝最凶夫婦〟


《ヨシュア・リュドアン視点《Side》》


 ――ダンジョンにパウラ先生の声が木霊する。


 彼女の戦慄すら感じるほどハキハキとした明るい声が、クラスメイトたち六名の死亡判定を教えてくれる。


「…………嘘、だろ」


 僕の隣で、マルタンが呟いた。


 信じられない、あり得ないといった表情をしながら。


「なんでだよ……! どうしてアイツらが、こんなあっさりと……!」


「……そうかい。悪者(・・)は結局、駆逐される運命――か」


 激しく動揺するマルタンに対し、僕は思わず口元に笑みをこぼしてしまった。


 一抹の不安はあったのだ。


 もしかしたら――

 だが、あの二人なら――


 そんな考えがよぎる度に、自分で自分の心を誤魔化した。


 Cクラスを、クラスメイトの皆を信じよう。

 そう自分に言い聞かせて。


 それにオードラン男爵とレティシア嬢は例外としても、他のFクラスメンバーにCクラスメンバーが劣るはずがない――。


 今日という日まで、僕が直々に彼らを鍛えてきたのだから、と。


 しかし――とんだ思い上がりだったな。


「格下は僕たちの方だった。ただFクラスの一人一人が、僕ら全員より強かった――そういうことさ」


「お、おいヨシュア……」


「だがまだだ。まだ終わってはいない」


 ――試験(・・)の勝敗は決した。


 だが、まだ戦い(・・)は終わっていない。


「まだ僕たちが残っている。そうだろ、マルタン」


「! ……ああ、そうだ、そうだったな!」


 僕もマルタンも〝騎士〟という身分に生まれた。


 貴族騎士と職業騎士という違いはあれど、同じ誇りと志を持つことは変わらない。


 なら、僕らの取るべき行動は降伏ではない。


 〝死中に活を得る〟ことだ。

 

「……我ら騎士二名、これより打って出る。目標は敵陣、旗の奪取。――最後まで足掻こうじゃないか」


 敵陣に対しての突撃。

 騎士にとってこれ以上の(ほまれ)はない。

 軍馬があれば尚最高だったのだがな。


 それに――キミ(・・)もまだ終わっていないと、そう思ってるのだろう?


 なあ、オードラン男爵よ。


 僕とキミの決着が――まだついていないのだから。


 僕とマルタンと共に、Fクラスが守る旗を目指して進軍を始める。


 たった二人で、敗戦の軍靴の音を奏でながら。


 だが――僕らが動きだした、その矢先のことだった。



「――おい、何処へ行こうっていうんだ?」



 まるで示し合わせたかのように――そんな声が、僕らの前に立ちはだかった。




 ▲ ▲ ▲




「わざわざこっちから出向いてやったってのによ。すれ違ってから探すのなんて面倒だからな」


「! オードラン男爵……!」


 俺の顔を見たヨシュアはなんとも驚いた顔をする。


 そんなに意外かねぇ。

 〝(キング)〟が〝(キング)〟のいる敵陣へ乗り込むのは。


 俺としては、むしろ面倒な手間が省けて楽なんだけどさ。


「……嬉しいよ、キミの方から会いに来てくれるなんて」


「会いに行かなきゃ、どうせお前の方から会いに来ただろうが。それにこの戦いは、元から俺とお前の戦いだ」


 ――ああ、そうさ。


 Fクラス対Cクラスなんて大層な盛事になっちまったが、元はと言えば俺とお前のいざこざ。


 レティシアを巡った、アルバン・オードランとヨシュア・リュドアンの争いだ。


 中間試験なんてのは、ウィレーム公爵へ見せつける建前(デモンストレーション)でしかない。


 結局、俺とお前は決着をつけなくちゃならないんだよ。


 一対一、

 剣と剣、

 面と向かい合って、勝ち負けを決める。


 でないと、本当は納得なんてしないだろ?


 いや、できないよな。

 俺も、お前も。


「…………そうだね。確かに、これは一人の女性を巡った男と男の戦いだ。では――」


「ああ、ちょっと待て」


「?」


「一番大事な〝見届人〟がいなきゃ、やっぱり締まらない。……だよな、レティシア(・・・・・)?」



「ええ――二人の戦い、しっかりとこの目で見届けさせて頂くわ」



 背後から聞こえてくる、我が姫君(・・・・)の声。


 ――レティシア・オードラン。


 俺の妻であり、俺の愛する唯一の女性であり、俺の一番大事な人。


 そんな彼女が威風堂々と、護衛の騎士(レオニール)を召し連れて現れる。


「――! レティシア嬢……!? キミは自陣の中で旗を守っていたんじゃ……!?」


「あら、やっぱりそう思い込んでいたのね。アルバンは私を大事にする余り、旗の傍から動かさないだろう――旗の見張り役を任されているはずだ――って」


 彼女は俺の隣まで歩いてくると、


「残念ね。私は試験が開始してすぐに、レオニールを伴ってあなたたちの陣地――つまりここ(・・)へ向かっていた。それから今この瞬間まで、彼と二人で身を潜めていたのよ」


「……! そ、それじゃあキミは、ずっと僕たちのすぐ傍にいたというのか……?」


「そうよ。私とレオニールはあなたの手が届く範囲で、ただ待っていただけ。一切、なにもせずにね」


「つまり俺たちFクラスは、実質〝八人〟で旗を守ってたってワケだ。お前らCクラスよりも、さらに一人少ない状態でな」


 相手より大人数で戦いに勝っても、ちっとも面白くない。


 それにウィレーム公爵も認めようとしないだろ?

 〝勝ったのは人数が多いからだ〟なんて言われちゃ堪らん。


 だからレティシアはウィレーム公爵に見せつけるべく、ヨシュアの作戦を予想した上で〝理想的な勝ち方〟を考えた。



 ――まず一つ目、ワザと人数を減らして戦う。

 というよりも〝全く戦わない人員〟を敢えて用意した状態でCクラスに勝つ。


 それだけ余裕かつ完全な勝利を収めた、というアピールのためにな。


「レオもご苦労だったな。(レティシア)を護ってくれてありがとよ」


「礼には及ばないさ。〝キング〟の剣となるのが〝騎士(ナイト)〟の役目なら、〝王妃(クイーン)〟を護るのも〝騎士(ナイト)〟の役目だ」


 ニコリと笑ってレオニールは言う。


 ……実は、レティシアの護衛として〝なにもしない役〟を誰にするかはえらい迷った。

 ホント、すっっっごく迷った。


 本音を言えば俺がその役目になってレティシアと一緒にいたかったのだが、「それはダメ」と彼女に怒られてしまった。


 少しでも活躍して〝オードラン男爵は噂と違う〟というところをウィレーム公爵に見せないといけない、という理由で。


 当初レティシアは「シャノアがいいんじゃないかしら」と言ったが、俺が断固拒否。


 別にシャノアがダメというか、万々が一を考慮すれば、単独で彼女を守れる実力を持つ者でないと不安だったからである。


 妻の身を案じる夫の気持ちをわかってほしいよなぁ。


 夫ってのは常に妻のことを心配してるんだぞ?

 本当にマジで。

 心の底からマジで。


 ……で、話し合った結果「じゃあレオニールにしましょう」ということに決定。


 それはそれでなんだか不安だったが、レオの実力なら護衛という意味では満点だからな……。


 それにFクラス二番目の実力者がなにもしないって点もアピールになるし……。


 ま、こうしてレティシアをきちんと守護してくれたのだから文句はないが。


 ひとまず、終わり良ければ~ってな。



 ――次に二つ目、(アルバン)とヨシュアを必ず一対一で戦わせる。

 それもレティシアが見届ける状況で。


 取り合っている女性の目の前で、それも一対一で負けることなどあってはならない。

 それこそ面子に関わる。


 どちらが夫に相応しいのか?

 それを決めるにあたって、これ以上シンプルな方法もない。


 それにこれだけお膳立てされた状態でヨシュアが負ければ、如何にウィレーム公爵と言えども考えを改めざるを得なくなるだろう。


 ま、結局最後は腕っぷしってな。


 ヨシュアは心の底から驚いたと言わんばかりの顔をして、


「……まさかキミたちは、最初から全て予測して……この状況まで考慮に入れて……?」


「全てが全て上手くいったのは、Fクラスの皆が頑張ってくれたからだけれど。でも――」


 そっと、レティシアは俺に寄り添う。


「私たち〝最凶夫婦〟に不可能なんてない。(アルバン)と一緒なら、どんな苦難も完璧に乗り越えられる。――それを証明しただけよ」


 可愛らしく、美しく、それでいて不敵な笑みを、レティシアは浮かべる。


 そんな彼女を見て、俺も悪役らしく(・・・・・)口の端を吊り上げて笑った。


 そんな俺たち夫婦を見たヨシュアは、


「…………ハハ、ハ……本当に、嫉妬してしまいそうだよ、キミたちには……」


 呟くように、ポツリとそんなことを言った。


 その姿は、どこか心が折れたようにも見えたが――


「……抜けよ、ヨシュア。それでも闘う(やる)んだろ?」


「――勿論。このヨシュア・リュドアン、最期まで諦めたりはせん」


 腰の鞘から剣を引き抜く。

 俺も、ヨシュアも。


「マルタン、下がっていてくれ」


「あ、ああ……」


 彼の腹心らしき男が下がる。


 ――俺とヨシュアは剣を構え、レティシアが見守る中で相対する。


「「……」」


 静寂。

 ほんの短い間の。


 そして――俺たちは、全く同じタイミングで地面を蹴飛ばした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] きついのはわかっているけどそれでも続きを即出してほしいくらいこの夫婦好きすぎる。とりあえずあとちょっとで義父さんに認められそうでその時がとても楽しみです。
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