表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第4章 夫婦の危機

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/235

第66話 昔と同じと思うなよ!②


《イヴァン・スコティッシュ視点(Side)


「な、舐めやがって……!」


 チェルアーノはギリッと歯軋りし、怒りと焦りが綯い交ぜになった顔で得物を構える。

 他の二人も同様だ。


 ああ……あの時(・・・)の僕らもこんな顔をしていたのだろうな。


 やはり今ならオードラン男爵の気持ちがよくわかる。

 この三人の誰一人として、彼とは比較にならない。


 まるで――〝虫けら〟にしか見えないよ。


「どうした? 武器に〝恐怖〟が滲み出ているぞ?」


 僕は不敵な笑みを浮かべ、ワザとらしく彼らを煽った。


「黙れ! やるぞお前ら!」


「おう! 俺たちをコケにしたこと、後悔させてやらぁ!」


「ヒ、ヒヒヒ……!」


 一斉に襲い掛かってくる三人組。

 その動きは確かに連携が取れており、一見すると鮮やかな動作だ。

 だが――鈍すぎる。


「くたばれオラァ!」


 ギャレックが鎖を振り回し、思い鉄球を切り振り下ろしてくる。

 当たればタダでは済まないが、そんな大振りが当たるワケもない。


 僕とマティアスが軽く回避すると、


「ヒヒヒ――〔ダミー・ファントム〕!」


 フィアンカが魔法を発動。

 直後、ギャレックの背後から二人のチェルアーノ(・・・・・・・・・)が現れた。


「「アハハ! 本物はどっちかなぁ!」」


 ――成程、〝幻術魔法〟の一種だな。

 確かに一目見ただけでは、どちらが本物か見分けがつかない。


 そしてどうやら、チェルアーノの狙いは僕の方らしい。

 本物か分身か判別できないのは厄介ではあるが――


「――〔アクア・ウィップ〕」


 そんなもの、両方始末してしまえばいいだけだ。


 僕は片手剣を振るい、蛇腹のようにうねる水の刃を長く引き伸ばす。


 そして大蛇を操るかの如く水流の斬撃を放ち、二人のチェルアーノを同時に斬り裂く。


 ズタズタになった二つの身体だったが、そのどちらも霧散。


「残念! 分身が一つだけなんて言ってないよ!」


 いつの間にか死角へ入り込んでいた本物のチェルアーノが、背後から斬りかかってくる。


 ふむ、悪くない戦い方だ。

 厄介だと評されるだけはある。


 だが……避けるまでもない。


「アハハ! これで一匹――めッ!?」


 勢いよく間合いへ入って来たチェルアーノだったが、突如ガクッと体勢を崩す。

 まるで大蛇に足を搦め捕られたかのように。


 〔アクア・ウィップ〕で伸ばした水流の刃が、彼の足に巻き付いたのだ。


 僕はパウラ先生やFクラスの皆との特訓の末、これくらいには自在に水流を操れるようになっていた。


 感覚としては、剣の中に蛇でも飼っているイメージだろうか。

 やろうとさえ思えば攻防共に全自動(フルオート)で制御できる。


 まあ、これだけ出来てもオードラン男爵には到底敵わないがね。


「クソッ、なんだこれ……!?」


「こんなモノで驚かないでくれたまえよ。まだ()に華を持たせてないのでね」


「そういうこと」


 ――チェルアーノに向かって長柄槍を突き込もうとするマティアス。


 チェルアーノの足はまだ水流で搦め取られており、この攻撃は確実に避けられない。


「お――おいギャレック!」


「わかってらぁ!」


 今度はマティアスの背後にギャレックが迫る。


「うりゃああああ!」


 大きく振り被られる鉄球。

 だがマティアスは振り向くこともなく、


「――〔エアリアル・ブレイド〕」


 風属性の魔法を発動。

 長柄槍の後部石突が風刃をまとい、射出杭が放たれるように一気に伸びる。

 

「ぐ――お――!」


 しかしギリギリのところで回避されてしまい、ギャレックの頬をかすめていく風刃の杭。


「ヘ、ヘヘ、残念だったな――!」


「おっと、死神(・・)はまだ笑ってるぜ?」


「は――?」


 次の瞬間、長く伸びた風刃の杭が〝風刃の大鎌〟へと変貌。

 魔力を操作し、〔エアリアル・ブレイド〕の形状を変化させたのだ。


「ひっ――!?」


 大鎌は首を落とすようにビュン!と引かれるが、身を屈めたギャレックはすんでのところで回避。

 すぐに頭を上げるものの、


「あ、れ……? アイツ、どこに――」


 その時には、マティアスの姿はギャレックの眼前から消失していた。

 だが呆気に取られたのも束の間、


「俺なら(ここ)だよ、ウスノロ野郎」


 ギャレックの頭上から声が響く。


 大鎌を引いた直後、マティアスは軽やかにギャレックの頭上へと跳躍。

 彼は空中でクルリと回転し――ギャレックの背中を思い切り蹴りを入れた。


「ぐほおッ!?」


「ちょっ……!」


 ギャレックはチェルアーノのところまで吹っ飛び、二人は激突。

 僕たちの前でなんとも無様な姿を晒す。


「い、痛てて……なにすんだよこの木偶の坊!」


「う、うるせぇ! テメェが仕留め損なったのが悪いんだろうが!」


「ふ、二人共なにしてるの……! 早くやっつけちゃってよ……!」


 遂に仲間割れまで始める三人組。

 やれやれ、見苦しいことだ。


「チ、チクショウチクショウ! ここからだ! ここから本気を出すぞ!」


 ギャレックを退かしたチェルアーノが、怒りで顔を真っ赤にしつつ言い放つ。


 それを聞いたマティアスは「へえ?」と鼻で笑い、


「だとさ相棒」


「いいんじゃないか。こちらもウォーミングアップが終わったところだ」


 僕は眼鏡をクイッと動かし、その隣でマティアスは首をコキッと鳴らす。


 ――きっとあの三人の目には、今の僕らが化物にでも見えていることだろう。

 あの時のオードラン男爵が、僕らの目にそう映ったように。


「フィアンカ、〝とっておき〟だ! アレやるぞッ!」


「う、うん、了解……!」


 チェルアーノの指示を受けたフィアンカは、大量の魔力を杖へと込める。


「ム、ムムム――〔ダミー・ファントム〕!」


 彼女はさっきと同じ〝幻術魔法〟を発動。

 しかも今度はチェルアーノとギャレックがそれぞれ二人ずつに分身。

 余計に判別がし難くなる。


「――〔ディープ・ミスト〕ッ!」


 重ねてフィアンカが魔法を発動。

 周囲一帯に濃霧が立ち込め、一気に視界が効かなくなる。


 しまいには、僕とマティアスもほとんど互いの姿を視認できないほどになった。


「さあさあ、この濃霧の中で一斉に攻めるよ! どれが本物で誰が狙われるか――キミたちに対処できるかなぁ!?」


「今度こそ……ぶっ殺してやらぁ!」


 濃霧の中へと飛び込んでくる足音。


 次の瞬間から、濃霧の中で武器と武器が噛み合う金属音が鳴り響く。


 それは数分ほど続いたが――すぐになにも聞こえなくなり、濃霧は静寂に包まれた。






「ヒ、ヒヒヒ……終わったみたいね……!」


 静かになった濃霧を見て、フィアンカはハァハァと息を切らしつつ笑みを浮かべる。


 消費の激しい魔法を連続で発動し、もう魔力がほとんど残っていないようだ。

 だから〝とっておき〟だったのだろう。


「あ、案外呆気なかった……やっぱり負け犬は所詮負け犬……!」


 チェルアーノたちの勝利を確信するフィアンカは魔法を解除。

 濃霧が消失し、再び視界がクリアになる。


 ――刹那、


「負け犬が――なんだって?」


 片手剣と長柄槍が、フィアンカの首へとあてがわれた。


 勿論――それら武器の持ち主は(イヴァン)とマティアスだ。


「フ…………ヒェ…………?」


 フィアンカは声にならない声を上げ、硬直する。

 次に彼女が見たモノは、死亡判定となって地面に倒れるチェルアーノとギャレックの姿。


「チェ、チェルアーノ……ギャレック……!? な、ななななんで……!」


雑魚(・・)が二人から四人に増えたとこで、俺たちなら目を瞑ってでも始末できる――そういうこった」


「そうだな。全て倒せばいいだけだ」


「ば……ばばば、化物だぁ……!」


「その台詞はオードラン男爵にでも言ってあげてくれ。彼の方が正真正銘の怪物だからな。……さて」


 僕は片手剣をチャキッと動かし、


「降参するか、まだ戦うか……好きな方を選びたまえ」


 フィアンカに問うた。

 すると彼女はヘナヘナと腰を抜かし、


「………………こ、降参、しましゅ……」


 敗北を認める。


 ――この直後、ダンジョン全体にパウラ先生の声が響き渡り、チェルアーノ・ギャレック・フィアンカの三人組の死亡判定を伝える。


 レティシア嬢の作戦通り、戦いの局面が動いた瞬間であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』✨️
『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』1巻書影
ご購入は こちらから!
― 新着の感想 ―
熱いねぇ! 敗北を味わってもなお折れずに努力し研鑽した先の強さ 熱いねぇ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ