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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第4章 夫婦の危機

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第64話 時間稼ぎ


 ゴ――――ン!という鈍い音が響き、ダンジョン全体が大きく揺れる。


 まるで途方もない怪力と怪力、気合と根性のこもった拳と拳がぶつかり合ったかのような、そんな衝撃と振動。


「アハハ~! キャロルの奴ってばもうおっぱじめたの~? はっやーい!」


「ええ、どうやらそのようね」


 キャロルがエステルと血湧き肉躍る戦闘を始めたのと同じ頃、二人のCクラス女子生徒が別の迂回ルートを進んでいた。


 一人は背丈が低く童顔で、ワザと目立つようにド派手な巨大リボンで髪を結んでおり、さらに厚めの化粧(メイク)と他者を小馬鹿にしたような笑みが特徴のペローニ・ギャルソン。


 もう一人は逆に化粧っ気のない精悍な顔つきで、動きやすいよう髪は短めに切られており、腰には二本の剣を携えたエルフリーデ・シュバルツ。


 二人は全速力でダンジョンの中を進みながら、


「んも~、戦う時はもっと静かにやれっていつも言ってんのにさぁ。だからモテないんだっつーの、あのリーゼントは!」


「作戦に集中しなさいペローニ。油断していると足元をすくわれるわよ」


 エルフリーデは相変わらずゴーン!と揺れるダンジョンを見ながら、


「ダンジョンを揺らすほどの衝撃……キャロルは間違いなく〝肉体強化〟の魔法を使ってる。相手はそれほど強いということよ」


「考えすぎだってば~エルフリーデ。Fクラスなんかがアタシたちに勝とうなんて、百万年早いんだっつーの! ――っと」


 会話をしていたペローニとエルフリーデは、前へ前へと進めていた足をピタリと止める。


 前方に人影を見つけたからだ。

 それも、二つ。


 片方は巨大な戦斧を、もう片方は小型のクロスボウを手にしている。


「――レティシア嬢の言った通りであったな。裏口からネズミが二匹」


「予定通り、だね☆」


 まるで待ち構えていたかのように立ち塞がる二人のFクラスメンバー。


 それはローエン・ステラジアンとラキ・アザレアであった。


「ほう……」


 二人の姿を見たエルフリーデは気が付く。

 どうもこちらの作戦は見抜かれているかもしれない、と。


「ペローニ、先に行って。ここは私が引き受ける」


「えぇ~、アタシにやらせてよ! あっちの可愛い子とは、なんか気が合いそうだしぃ!」


 チラッとラキのことを流し見るペローニ。

 それに対し、ラキは「べぇ~♠」と舌を出して応えた。


 エルフリーデは腰から二本の剣を抜き、両手で構える。


「駄目よ。単独潜入ならあなたの方が適任だもの」


「はぁーい。それじゃ頑張ってにぇ、エルフリーデ!」


 バッと身軽に動き、ラキたちの横を通り過ぎて行くペローニ。


 しかしローエンたちはそんな彼女を止めようせず、そのまま素通りさせる。

 その様子を不審に思ったエルフリーデは、


「……止めないの?」


「モチのロン♣ だってそれも作戦の内だから♪」


「なんですって……?」


「〝ペローニという女子生徒を見たら素通りさせていい〟とな。それより、自分の心配をしてはどうだ?」


 ローエンはグッと戦斧を構え、


「俺たちの役割は、あくまでお前の足止めだ」


「勝手に一人になったのはそっちだかんね♦ 二対一で卑怯だとか言わないでよ♤」


「……」


 エルフリーデはしばし無言となる。

 目の前の二人――もっと言えばFクラスの作戦というのがどうも読めなかったからだ。


 だがすぐに、彼女は煩雑化した思考を振り払う。

 自分の頭ではどうせ考えても無駄だと思ったからだ。


 そして片腕に握る剣の切っ先をローエンへと向け、


「……貴殿の名前、ローエン・ステラジアンで相違ないかしら?」


「む? 俺の名を知っているのか?」


「私ではなくマルタンが知っていたわ。職業騎士の中では有望な男だと」


 ああ、と内心で納得するローエン。

 同じ職業騎士であるマルタンとローエンは、互いのことを知っていた。


 とはいえ知り合いというほどではない。

 故に直接会ったことも話したこともなかったが――


「時に、貴殿はマルタンよりも強いのかしら?」


「どうであろうな。なにせ奴と刃を交えたことはないのでわからんが――」


「そう」


 次の瞬間、ローエンの視界からエルフリーデがフッと地面を蹴る。


 そして――彼女は刃を振りかざし、恐ろしいほどの速さでローエンの眼前まで急接近してきた。


「むぅ……!?」


 ギインッ!と木霊する、戦斧と剣が噛み合う金属音。


 紙一重のところでローエンは防御に成功したのだ。


「私は……こう見えてマルタンより強いわよ」


「ローエン!」


 すかさず彼を助けようとクロスボウを発射するラキ。

 しかしエルフリーデは、片手の剣でいとも容易く放たれた弓矢を弾く。


 一方、彼女がほんの一瞬弓矢に気を取られた隙に、


「ぬぅんッ!」


 ローエンは剣を弾き飛ばす。

 さらに追撃とばかりに戦斧を振るうが、エルフリーデにヒラリと回避されてしまう。


「あなたたち、さっき二対一で卑怯だと思うななんて言ったわね。申し訳ないけれど、それは自信過剰というものよ」


 エルフリーデは双剣を構え直し、


「むしろハンデ(・・・)をあげたくらい。あなたたちなら二対一で丁度いいか――まだ足りないくらいかもね」


 見下すような視線を二人に向ける。

 そんな彼女の台詞を聞いたラキは――


「……ぷっ、くっくっく……!」


「……? なによ、なにがおかしいの?」


「いやさぁ~、本当にレティシアちゃんの言う通りだなぁって思って♪」


 笑い堪え切れないといった様子で、ラキはクスクスと口の端を吊り上げる。


 ローエンも不敵な笑みを浮かべ、


「さっき俺に名を尋ねたな。ならばお前も答えるのが筋だろう」


「……エルフリーデ。エルフリーデ・シュバルツ」


「エルフリーデよ、確かにお前は強そうだ。悔しいが俺やラキより強いかもしれん。だがそれもレティシア嬢が予想していたことよ」


「〝大本命(ペローニ)の護衛は一際強い生徒が宛がわれるはず〟ってね♤ ぶっちゃけちょっと半信半疑だったけど、ズバリ大当たり♥」


 ラキはクロスボウに新しい弓矢を装填しつつ、


「Cクラスメンバーのことはぼちぼち調べさせてもらったよ☆ あのペローニって子、ちょっと変わった魔法が得意なんだってね。 どうにもそれが潜入や単独行動にはうってつけとか……♪」


「――! お前ら……!」


「諜報はウチの得意分野だからさ♦ それにCクラスもウチらのこと嗅ぎ回ってたのは知ってるし、ズルいなんて言わせないよん♠」


 小悪魔のような微笑を口元に浮かべるラキ。

 対するエルフリーデの顔には幾ばくかの焦りが滲む。


 ローエンは戦斧の切っ先をエルフリーデへと向け、


「それにさっき言っただろう? 俺たちの役割は、あくまでお前の足止めだと」


 グッと腰を落とし、両手で戦斧を構え直す。


「ここで時間稼ぎさえできれば……この戦い、俺たちの勝ちだ」


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