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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第3章 悪役男爵とバロウ家

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第50話 操られるレティシア


 レティシアを攫ったライモンドは、気を失った彼女を抱えてダンジョンの奥を歩いていた。


 そして最奥にある開けた空洞まで行き着くと、魔法で岩の台座を作り、その上にレティシアを横たわらせる。


 すると、


「――”呪装具”の研究は順調なようでありますな、ライモンド先生」


 声が聞こえた。

 直後、岩陰となっている場所から道化師の仮面を付けた男が現れる。


 ――”串刺し公(スキュア)”だ。


「ああ、キミですか。いけませんねぇ、生徒が教師を尋ねる時はノックくらいしないと」


「それは失敬。ですが小生はそちらを支援している立場なのをお忘れなく」


「わかっていますとも。キミと彼女(・・)にはとても感謝しています。お陰で、私は”呪装具”の実験を続けられるのですから」


 ライモンドは実に愉快そうに、レティシアの頬を指でなぞる。


「キミたちが協力してくれたお陰で、私はなんの憂いもなく研究を続けられる……。もはやバカバカしい教職ともおさらばです」


「それは結構。ですが……少々約束が違うのではありませんか?」


 それは、ほんの僅かに苛立ったような声色だった。

 普段から道化を装っている”串刺し公(スキュア)”らしからぬ声、とも言えるだろうか。


「小生たちは、”研究の支援を約束する代わりにレティシア・バロウを破滅させろ”と言ったのです。実験動物にしろとは言っていない」


「アッハッハ、どちらも同じですよ。ですがどうせなら、魔法史を発展させる贄となってもらった方が都合がいいでしょう?」


「小生らには関係ありませんな」


「やれやれ……やはり学生に学問の素晴らしさを説くのは骨が折れますね」


 ライモンドは、懐から小さなネックレスを取り出す。

 ”呪装具”だ。


 しかし、ミケラルドやエミリーヌたちが着けていた物とは雰囲気が違う。


 宝石の色が酷く濁っており、遥かに禍々しい魔力が秘められている。


「それは……なんだか変わった”呪装具”でありますな」


「私の最新作ですよ。これまでの”負の効果をなくそうとした呪装具”とは真逆のコンセプトで作っています」


「ほう、つまり――」


「ええ。増強される魔力が従来の倍、代わりに受ける負の効果(デメリット)も従来の倍ということです。それと、ちょっと細工も施してありまして」


 ニヤリと笑って彼は言うと――そのネックレスを、レティシアの首に取り付ける。


「これでいい。さあ、起きてください」


「う……ん……」


 ――レティシアの目がゆっくりと開く。

 その瞳は、ライモンドを捉えた。

 

「私が誰だかわかりますね? 立ちなさい」


「はい………」


 光の宿らない虚ろな瞳のまま、彼女はライモンドの言う通りに動く。

 まるで操り人形のように。


「よろしい。以後私の言うことをよく聞くように」


「はい……わかりました……」


「これは……”催眠魔法”でありますか? ここまで見事に精神操作が出来ているのは初めて見ました」


「犬を飼い慣らすのに時間を費やす趣味はありませんので。ともかく実験の第一段階はひとまず完了。次は――」


 ライモンドが言いかけた時、彼目掛けて炎の魔球(ファイヤーボール)が飛んでしてくる。


 それは放たれた弓矢のような豪速だったが、ライモンドの魔法防御壁(バリア)に弾かれてしまう。


「……やれやれ、あの子たちは時間稼ぎもできませんでしたか」


「――レティシアを、返せ」


 ライモンドたちの下へ現れた、悪鬼の如き形相の男。


 言うまでもなく、憤怒に心を染め上げたアルバン・オードランその人であった。


「しかし丁度いい。次の段階をテストしたかったところです」




 ▲ ▲ ▲




 ……ああ、逃げる気はないってか。


 そりゃ助かるよ。

 ダンジョンから出られたら、一気に探すのが難しくなってたとこだからさ。


 にしても……レティシアの様子が変だな。

 それに、首から下げてるアレ――


 悔しいが”呪装具”を着けさせるのは阻止できなかったか。


 俺の大事な嫁に下品な物を着けさせやがって。

 許さない。

 殺してやる。


「オードラン男爵! ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「ハァ……ハァ……! 一人で先に行かないでよ……!」


 ほんの少し遅れて、レオニールとオリヴィアがやって来る。

 二人はレティシアの方を見ると、すぐに”呪装具”を着けていることに気付く。

 

「……! オードラン男爵、彼女の首にあるネックレス……」


「ああ、”呪装具”だろうな。しかもエミリーヌたちのとは違う物らしい。どうも様子が変だ」


 レティシアの目に生気がない。

 茫然と立ち尽くし、まるで糸で釣られた人形のようだ。


 だが――そんな状態でもハッキリとわかる。

 彼女から、禍々しい魔力が止めどなく溢れ出ているのが。


 昼間にエミリーヌと戦っていた時とは比べ物にならない。

 まるで別人だ。

 その凄まじいまでの魔力に、俺ですら気圧されてしまう。


「くっ……! ライモンド、あなたよくも妹に”呪装具”を……ッ!」


「いい格好でしょう? さあレティシア・バロウ、命令です。彼らにあなたの力を見せ付けて差し上げなさい」


「はい……」


 レティシアは言われるがまま、ゆっくりと腕を掲げ――



「――〔ブリザード・サンクチュアリ〕」



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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして、レティは繰られているフリをしてるとか?   どちらにしても、主人公はレティを取り戻す! 更新嬉しみにしてます。
[一言] 悪を自認する主人公にしては大人し過ぎる気がしますかね。散々煽られたりバカにされたりしてるのに、大人しく聞いてるか殴り掛かるばかりでこれまでの印象ならめちゃくちゃ煽り返すくらいの事はしそうです…
[一言] 面白いです!
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