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第4話 悪×悪デート


 レティシアがウチに来てから、早五日。


 少しずつではあるが、オードラン家での生活に慣れてきているようだ。


 しかし、


「レティシア、ちょっと――」


「……」


「なあレティシア――」


「……」


「レティ――」


「……」


 中々、俺と口を利いてくれない。

 もう露骨に避けられてる感じ。


 いやまあ、無理もないっちゃ無理もないけどさぁ。


 アルバンって元々、貴族たちの中でも悪名高いクソガキだったし?

 絵に描いたような悪役貴族だったし?


 いくらスリムになって剣が上手くなったとしても、悪党という評価がポンと覆るはずもない。


 レティシアだって、俺のことを最悪の男爵と認識していると思う。


 下手に口を利けば、なにを言われるかわかったもんじゃないってな。


 気持ちはわかる。

 ……が、ちょっと悲しい。


 だって食事の時間ですらシカト決め込むんだぜ?


 こっちが話の口実を見つけようと一生懸命あれこれトークを繰り広げてるのに、目も合わせてくれない。


 俺がいくら天下御免の悪役貴族アルバン・オードラン様でも、流石に凹むよ。


「なんとか話をできないもんかね」


 いっそ仲良くなれなくてもいい。

 ただ話はさせてくれ。

 五分だけでもいいから。


 でないと、そっちがどんな爆弾を抱えてるのか把握もできない。


「仕方ない、か」


 俺は――意を決した。


「レティシア、ちょっといいか」


 彼女の部屋をコンコンとノックする。


『……』


「たまには外に出よう。部屋に引き籠ってばかりじゃ身体に悪いぞ?」


『……』


「ふぅー……」


 やはり無視か。

 OKOK、そっちがその気なら――


「ちょっと面倒くさいが、悪役らしくいかせてもらう」


 ――スパン!


『え?』


 ズガァン!


 ――俺は剣で扉を両断すると、そのまま思い切り足で蹴破った。


 よし、これで入れる。


「失礼するぞ、っと」


 ツカツカと室内に押し入る俺。


 万が一レティシアが着替え中とかだったらどうしよう、なんて思ったりしたけど、彼女は普通に椅子に座っていただけだった。


 ああ、よかったよかった。

 一歩間違えば変態になってたからな。


「あ、あなた、なんてことを……!」


「安心してくれ、扉ならすぐ従者に直させるから」


「そうではなくて……! よくも淑女の部屋に押し入れたものね! 恥を知りなさい!」


「悪いけど俺はクズの悪党だからな。そうしたいと思ったら、女の部屋にだって力づくで踏み込むさ」


「! こ、このケダモノ……!」


「なんとでも呼べ。さっそくだけどなレティシア」


 俺は怯える彼女に歩み寄る。

 当然、抜き放った剣を鞘に納めて。


「俺とデートしよう」




 ▲ ▲ ▲




「いやー、外の空気は美味しいなー」


「……」


「レティシアもそう思わないか?」


「あなたと一緒じゃなければ、そう感じたかもね」


「あ、そう……」


 しゅんとする俺。


 いや、イカンイカン。

 この程度で凹んでいる場合じゃない。


 俺は気を取り直す。


 ――オードラン領は、自然が多い片田舎。

 すこし街から離れれば雄大な自然がどこまでも続いている。


 なにもないと言えばなにもないが、俺はこの風景が好きだ。


「バロウ家のご令嬢となれば都会暮らしに慣れてるだろうし、こういう自然は新鮮じゃないか?」


「それは……否定しないけれど」


「少しは気に入ってもらえると嬉しい」


「……」


 まだまだ警戒されてるなぁ。

 信用なさすぎるだろ俺。


 でもまあ、俺が逆の立場だったとしてもアルバン・オードランって人間は信用できんだろうが。


「この山道を抜けると、もっといい景色が見えてくるよ」


「ちょ、ちょっと待って……。こっちは山道なんて慣れてないのよ」


「おっと、足を挫いたら一大事だな。それじゃあ――」


 俺は彼女の足と背中に手を回して、全身を抱きかかえる。


 所謂お姫様抱っこの体勢だ。


「ひゃ――あ――!?」


「これなら足を挫かないだろ」


「さ、触らないで!」


「野蛮な真似はしないって。面倒だからな」


「う……」


 レティシアを抱きかかえたまま、俺は山道を進んでいく。


 彼女の身体はとても軽かった。

 まるで羽根のように。


 もっとも、セーバスとの稽古で身体を鍛えたからそう感じるんだろう。


 この一瞬だけでも、あの半年間は無駄じゃなかった感じれる。


 そして山道を抜けると、小高い丘の上に辿り着いた。


「わぁ……!」


「綺麗だろ? ここはオードラン領を一望できる絶景スポットなんだ」


 俺たちの目に映ったのは、小さな街、川、山々、そして遥か地平線まで続く草原。


 晴れの日に見るオードラン領は最高だ。


 普段ぶすっとして無表情なレティシアも、少しばかり感動を覚えた様子だった。


「俺はこれを見せたかった。キミと俺の二人で守っていく土地だからな」


「……」


「ご感想は?」


「……ランチスポットに最適なのは、認めてあげる」


「それはなにより」


 どうやら、多少なりとも気に入ってくれたらしい。

 なんとかこうして会話もしてくれるようになったし。


 それにしても、レティシア身体って柔らかいなぁ。

 しかもいい匂いがする。


 なんかムーディーな雰囲気になってきた気もするし、あわよくばこのまま――


「……下心が顔に出ていてよ?」


「えっ、嘘!?」


「あら、本当に思っていたのね」


 ――ハッ!?

 今俺、鎌をかけられた……!?


 むぐぐ、やるなレティシア・バロウ……。


 このアルバンを出し抜くとは……!


「そろそろ下ろして頂ける?」


「あ、ああ」


 言われるがまま、レティシアをゆっくりと地面へ下ろす。


 すると、彼女は初めてじっと俺の瞳を見つめた。


「……あなた、随分”噂”と違うのね。アルバン・オードランという人間は、もっと傲慢で不遜な小悪党と聞いていたわ」


「”怠惰な”が抜けてるな。それと俺は小悪党じゃない」


「それじゃあ大悪党?」


「ご明察」


「フフ、悪党は自分を悪党と言わないのではなくて?」


 ――初めて口をほころばせるレティシア。

 ようやく笑ってくれたな。


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