第31話 "王"の誕生
――俺とレティシアがFクラスに編入されてから、一ヵ月後。
「それでは、Fクラスの”王”はアルバン・オードランくんに決定ということで!」
パウラ先生がパチパチと拍手。
さらに黒板には”おめでとうアルバン・オードラン!!!”とデカデカと書かれている。
「はい……面倒くせぇけどやります……」
あーあ、とうとう決まっちゃったよ。
まあ別にいいけど。
レティシアが推薦してくれた時から、腹は決まってたし。
――どういう経緯か知らないが、レティシア誘拐事件があった少し後、
『俺たちはお前を”王”と認める』
とマティアスから告げられた。
これはFクラスの総意であると。
そう言われたら、もう断る理由もない。
俺は大人しく、”王”とやらをやることにした。
クラス内が静かになるなら、それに越したことはないしな。
それはいい。
それはいいんだが……。
「でもさ……なんでソイツがまだ居るワケ?」
俺はさも当然のように席に着くイヴァンを睨みながら言う。
てっきりコイツは学園を去るものとばかり思っていた。
かの誇り高いスコティッシュ公爵家の人間が、王座争いに敗れたのだから。
イヴァンはフンと鼻を鳴らし、
「僕が居ては不都合だ、とでも言いたそうだな」
「不都合どころか不快だわ。そもそも、俺はお前を許してないんだからな」
だってコイツのせいでレティシアが危ない目に遭ったんだし。
殺していいと言われたら、今この場で殺せる。
いや、やっぱ殺しておこうかな。
またいつ俺らを陥れようとするかわからないから。
なんて思っていると、
「私が在籍を許したのよ」
後ろの席のレティシアが言った。
「え……レティシアが?」
「私たちとイヴァンをまとめて陥れようとした”串刺し公”とかいう謎の男……その手掛かりを握っているのは彼だけだから」
――ああ、そういうことか。
そういえば黒幕がいるんだっけ、今回の事件。
イヴァンを唆した仮面の男。
レティシアが捕まった倉庫には現れず、その行方は未だに掴めていない。
ゴロツキ集団のボスも正体を知らなかったみたいだし。
証言も曖昧で、尻尾が掴めるかは怪しい。
そんな”串刺し公”と直接会ったのはイヴァンだけ。
コイツを放逐したら、”串刺し公”を探す手掛かりが失われるかもしれないのか。
ぶっちゃけモヤモヤとはするが、
「……レティシアがいいなら、俺はいい」
「そう言ってくれると助かる。僕もまだ、やり残したことがあるからな」
「やり残したこと?」
「ああ……キミたちへの罪滅ぼし、そして僕を陥れた”串刺し公”に一矢報いてやらねば、気が済まないのでね」
なんとも恨めしそうな顔で言うイヴァン。
……つまりは復讐か。
まあ気持ちはわからなくもない。
一応はイヴァンも陥れられた側だからな。
なるほど、私怨が混じるとなればまた裏切る可能性は低いだろう。
ま、一応警告はしておくか。
「……そうかい。言っておくが次はないぞ」
「理解している。……改めて、すまなかったな」
「はーい! 私語はそこまで!」
話の流れを戻すように、パウラ先生がパンパンと手を叩いた。
「今日から三年間、Fクラスはアルバンくんに絶対服従となります! 皆、”王”の命令には死んでも従ってくださいね!」
「思ったんだけど、俺が”王”ってことはパウラ先生も配下ってことになるのか?」
「いいえ! 私のことは”王”の上の”皇帝”と思ってください!」
「あ、そう」
いやまあ、聞いてみただけだけど。
そりゃ先生が生徒の言いなりになっちゃ駄目だよな。
学級崩壊になっちゃうし。
「でも皆さんは凄いですよ! AからEまでの各クラスは、現時点で最低でも一名以上の退学者を出していますから!」
「え? そうなの?」
「はい! 退学者を一名も出さなかったのはFクラスだけです! きっとアルバンくんのカリスマがあってこそですね!」
違うと思うが。
俺別にクラスに対してなんもしてないし。
どちらかというとレティシアのカリスマのお陰では?と思ったり。
「これは教師陣が想定していなかった、本当に予想外&驚異的なことです! ですので――なんとファウスト学園長が、直々に表彰をしてくださるそうですよ!」





