第255話 世界の亀裂
「私たち『薔薇色の黄昏』は――本来であれば、主人公に滅ぼされるはずだったのですよ」
気色悪い触手が飛んでくる。
それも何本も。
俺はそれを全て斬り捨てるが、触手共は瞬く間に再生していく。
「あなたもよく知るファンタジー小説……。さしずめ『薔薇色の黄昏』は、第二部の敵役と言ったところでしょうか」
「その敵役ってのが、どうして自分をファンタジー小説のキャラだと自覚してんだよ」
「ああ失敬。厳密には、私たちは既に小説のキャラクターではない。一応、演じてはおりますが」
「ふーん」
俺はアンブローズへと肉薄し、奴の首目掛けて剣を振るう。
斬撃によって首が刎ね飛び、ボトッと鈍い音を立てて地面へと落下。
しかしすぐに首の切断面からウゾウゾと触手が生え出し、奴の頭部はまるでタコみたいに地面の上に立って見せる。
キッモ。
「酷いなぁ、まだお話の最中なのに」
頭部と斬り離されたアンブローズの身体は何事もなかったかのように動き、地面へと落ちた自らの頭を拾い上げる。
「あなたが主人公を倒したことで――この世界の理と因果に、亀裂が入った」
斬り離された頭を、再び身体へとくっ付けるアンブローズ。
流石の俺も、斬り落とした頭を自分で元に戻す奴を見るのは初めてだな。
「亀裂はやがて歪みとなり、その歪みは〝外なる神〟がこの創作された世界の中へと入り込む隙間となった……」
「なら、その〝外なる神〟とやらがお前だってのか?」
「ええ、私たちは世界の神たる俯瞰者であり、ある意味一読者でもある。そんな我々をこの世界へ誘ってくれたこと、感謝しておりますよ」
しゃなり、とお辞儀をしてくるアンブローズ。
コイツの態度……一々癪に障るな。
首を落としても余裕を崩さないのといい、どことなくこっちを見下したような物言いといい……。
まあもっとも、俺がその辺をどうこう言う筋合いはないかもだが。
俺だって、虫けら共を見る時にたぶん同じ目をしてると思うし。
「……で、なんでお前は、そんな情報をご親切に教えてくれるんだよ?」
「どこかの誰かと違って、私は人を煙に巻く趣味はありませんので。それと――」
アンブローズの腹部が、破れるように裂ける。
そして臓物が漏れ出るみたいに何本も触手が生えてきて、いよいよ人間の様相ではなくなってくる。
「申し上げたではありませんか、あなたに感謝していると。ならばお礼として、それ相応の情報をお教えするのが人間の筋合いというモノでしょう?」
「へえ、そりゃ随分と人間に歩み寄ろうとしてくれるカミサマがいたもんだ。……それで?」
「?」
「お前の――お前らの企みはなんだ? 遥々この世界までやってきて、いったいなにをしでかそうとしてる?」
俺は率直に問う。
いや……ぶっちゃけ聞くまでもない。
どうせ碌でもないことに決まってるからだ。
だから興味も関心もない。
だが偽ジャックの件で一度はレティシアが巻き込まれた以上、こいつらの目的を知っておくに越したことはないだろう。
アンブローズは少し意外そうな顔をし、
「企み……とは『薔薇色の黄昏』の目的ですか?」
「そうだって聞いてんだろーが」
「ふむ……。そうですねぇ、敢えて人の言葉にするならば――」
含みを持たせるように間を置いた後――微笑を浮かべて、アンブローズはその言葉を発する。
「〝世界の救済〟」
「…………あ?」
「迷える子羊たちを諭し導き、そして世界に平穏をもたらす。それが『薔薇色の黄昏』の目的なのです」
「……そんじゃ、お前は迷える子羊を導く羊飼いだとでも?」
「そう思って頂いて構いません」
「――くだらん」
聞いた俺がバカだった。
神だか宗教組織だか知らんが、その手の言葉を使う奴は大概ろくでなしだと相場が決まってる。
やはり、コイツはここで殺してしまおう。
俺は剣に魔力を込め、
「――〔エアリアル・ブレイド〕」
風の刃を剣身にまとわせる。
そして間髪入れず、触手だらけの身体となったアンブローズへと斬りかかった。
コイツは首を落としても死ななかった。
なら、全身を細切れにしたらどうなるだろうな――そんなことを考えながら、大きく剣を振り被る。
「おや、風の魔法ですか」
だがアンブローズは、斬りかかる俺を見ても一切取り乱すことはなく、
「――〝星の風〟よ」
一言、呟く。
すると――風の刃によって剣身が伸びた俺の剣が、アンブローズの身体に触れる直前でピタリと止まった。
いや――止められた。
この俺の剣が。
「……!?」
柄を握る腕にグッと力を込めても、剣はピクリともしない。
まるで剣自体が持ち主に逆らっているかのように。
「私は風を司る神々の首領ですよ? 風の魔法が風の神に通じるワケないじゃありませんか」
「手前……!」
「ふーむ、この程度とは残念です。〝主人公殺し〟と言うからには期待していたのですが……所詮、人間は人間ですか」
残念そうにため息を吐くアンブローズ。
次の瞬間、〔エアリアル・ブレイド〕で形成した風の刃がぐにゃりと変容する。
まるで意志を持つ生き物のように蠢いた風の刃は、その切っ先を俺へと向けてきた。
「チッ――」
仕方なく俺は剣へ送る魔力を遮断し、風の刃を消失させる。
だがその隙を見計らっていたとばかりに、アンブローズの触手が一斉に襲い掛かってきた。
「クソが」
俺はタンッと地面を蹴って跳躍。
そして触手を回避しながらアンブローズの頭上を飛び越え、奴からやや間合いを離した。
「ホラホラ、どうされました? 逃げてばかりでは、お猿さんと変わりませんよ?」
露骨こちらをバカにして煽ってくるアンブローズ。
コイツ……完全に遊んでやがる。
あーあー、クッソうぜぇ。
それに面倒くせぇ。
俺の魔力で発動した風の刃が完全に止められるとなると、もう風属性の魔法自体がダメだな。
いや、他の属性の魔法でも、果たしてどこまで通用するやら。
人間の皮を被って、上手いこと隠してるつもりなんだろうが……剣を止められた今の一瞬でわかった。
コイツは途方もない魔力の塊だ。
コイツの存在自体、もはや生物という域にない。
魔力の量だけでも底が知れん。
いや、もしかすると底自体がないかもな。
無限の魔力、無尽蔵の魔力、あるいはそういう領域すらも超えた、異なる概念のなにか……。
自称カミサマってのも、まんざら嘘じゃないのかもしれん。
僅かに垣間見えた今の一瞬だけでも、並の人間なら正気を揺さぶられるかもしれない。
マジで面倒くせぇなぁ。
ま、いいんだけど。
遊び感覚で相手してくれてるお陰で、すんなりここに着地できたし。
「さあ、お次はなにを見せてくれますか? 私を楽しませてくれないと、ご友人たちがどうなるかわかりませんよ?」
「あー、ソレなんだがな」
「?」
「気付かないか? 俺の立ってる場所」
そう言って、俺は地面に剣の切っ先を突き刺す。
その瞬間――ようやくアンブローズはハッとした顔をする。
ああ、やっと気付いたか。
さっきお前の頭上を飛び越えた俺が、お前から伸びる〝影〟を踏んでいることに。
そしてたった今、剣でその〝影〟を突き刺したことに。
改めて――俺は剣に魔力を込める。
あんまり得意じゃないんだけどな、土属性の魔法ってさ。
でもまあ、モノは試し。
「お前のお遊びに付き合ってやってもいいんだが……でもまず先に、アイツらを返してもらうぞ」
俺はわざとらしく、ニヤリと悪い笑みを浮かべて見せ、
「でないと――妻に怒られちゃうからさ」
土属性の魔力を込めた剣で――足元の〝影〟を、思い切り斬り裂いた。
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