第251話 頂上決定戦
《エステル・アップルバリ視点》
「…………う……ん……?」
あれ……私、眠っていたんですの……?
一体いつの間に……。
確か、あの片眼鏡おクソ野郎の影に飲み込まれて……。
「ここは……どこですの……?」
私は身体を起こします。
そして周囲を見回してみると――辺りは真っ暗。
オードラン男爵もアル王子も片眼鏡おクソ野郎も、誰の姿もありませんの。
「こんなトコで寝ている場合じゃありませんわ……! 早くアル王子を……!」
膝に手を突いて、グッと立ち上がろうとする私。
すると――その時、突然スポットライトのような強烈な光が私の目を眩ませます。
『――さあ、いよいよ決戦の時が参りました。熱く滾る血潮を胸に、一万人の興行試合ファンがヴァルランド王国のシンボル、王都国技館を埋め尽くしております!』
スポットライトと共に、どこからともなく聞こえてくる解説者らしき声。
「な……なんですの!?」
『誰が一番強いのか、誰が栄光の座を勝ち取るのか。力と力の激突、本能と本能が雌雄を決する天下分け目の頂上決戦が、今始まろうとしております!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
『この一戦はお嬢様の時代、お嬢様の潮流を決める戦いと言っても過言ではない! この戦いにはお嬢様たる者の威信もかかっております! 「優雅さとは〝力〟、〝力〟とは優雅さ! 〝力〟があれば誰もがお嬢様だ!」 お嬢様の情念と! お嬢様のロマンを燃え滾らせて! エステル・アップルバリ――今リングイン!』
え、なに?
なになになになになに???
一体なにが起こってるんですの???
もう、おバリクソに困惑させられる私。
気が付けば四方をロープに囲まれ、さらにその向こうには会場を埋め尽くす観客たちの姿。
私はようやく――今自分がいる場所が〝リング〟の上だと気が付きました。
『続きまして、対戦相手の入場です!』
解説者の声が響き渡ると、直後に聞こえてくる〝テーマ曲〟。
まるで荒野の中を暴れ馬に乗って駆け巡り、地平線の向こうから昇ってくる太陽に向かって突き進んでいるかのような……軽快でありながらも闘志を沸き立たせる入場曲。
私はその曲に、とても聞き覚えがありました。
いいえ、忘れるはずなんてありませんわ。
だって、この入場曲は――
『〝沈まぬ太陽〟〝不沈の戦艦〟〝止まることを知らぬ猛牛〟、数多の異名で呼ばれる生きた伝説! 興行試合界の絶対的チャンピオン! 「チャンピオンは俺だ! お嬢様なんてリングに沈めてやるぜ!」 試合前にそんな挑発的なコメントを残しておりました、悪役の中の悪役が――今姿を現します!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」」」
一気に湧き上がる会場の観客。
同時に会場の一角にスポットライトが当てられ、一人の選手が入場して参りますの。
鍛え抜かれたガチムチマッチョな肉体、
お茶目な口髭、
そしてトレードマークのつば広帽子。
手にはぶっといロープが握られ、それを乱暴に振り回しながら、観客の方々が詰めかける花道の中を進んでいくガチムチおマッチョな紳士。
「「「ヨハンセン! ヨハンセン! ヨハンセン! ヨハンセンッ!!!」」」
『お下がりください! 大変危険ですのでお下がりください!』
花道の両脇に詰めかけた観客たちは振り回されるロープの直撃を受けて、一人、また一人とぶっ飛ばされていきますの。
それでも会場の熱気は冷めるどころか、むしろどんどん高潮していきますわ。
そして遂に――その紳士が、私と同じリングの中へと足を踏み込みました。
『スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセン――今、リングに降り立ちましたッ!』
「ウィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!!」
天高く右腕を突き上げ、勇ましい雄叫びを奏でるガチムチ紳士。
極限まで鍛え抜かれた巨躯がそびえ立つ様は、まるで世界の中心とはここだと誇示しているかのよう。
――スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセン。
私が尊敬してやまない、私が愛してやまない……私の〝理想の王子様〟。
そんなヨハンセンが私の目の前に立ちはだかって、こちらに視線を送ってきます。
その目に宿るのは――明確な敵意。
『いよいよ、いよいよ始まります! エステル・アップルバリ対スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセンの、宿命の頂上対決! 霊長類最強と呼ばれるのはどちらか! そして――囚われの王子を我が物とするのは、一体どちらなのかッ!』
「なん……ですって?」
――次の瞬間、リングの上とは別の場所に当てられるスポットライト。
そして照らし出されたのは――
「エ……エステル殿……っ!」
まるで景品だと言わんばかりに、小さな檻に閉じ込められたアル王子。
――彼の姿を目の当たりにして、ようやく私は気が付きましたわ。
ああ、これは〝幻〟なんだって。
どこかの誰かが私に見せている……悪趣味の塊みたいな、悪夢そのものなんだってことが。
私の頭の中を覗いて、私を〝理想の女性〟と呼んでくれる殿方を巡って、私の〝理想の王子様〟と戦わせる。
……最悪ですわ。最悪の演出ですわ。
もしこれが現実の興行試合だったら、今頃私は怒りで我を忘れて開催者を殴り殺しているところですわね。
「……クッッッソ上等でしてよ」
私は〝幻〟のスタンリー〝サンライズ〟ヨハンセンを目の前にして、腹を括ります。
なんとしても、絶対に――この試合を制してやろうと誓って。
「〝対よろ〟ですわ……私の〝理想の王子様〟」
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