第249話 ショタを調教したくない女の子なんていないもの
「や、屋敷を襲撃してきたのはたったの五人だと!?」
部下のゴロツキから報告を受けたノワールは酷く驚く。
いや、驚くを通り越して困惑する。
「バカ野郎ッ! こっちは誘拐の決行日だからって、念のために千人以上も構成員を集めておいたんだぞ!? たかが五人なんて、さっさと踏み潰せッ!!!」
「そ、それが、普通の五人じゃないんスよ!」
ノワールに現状を報告していたゴロツキは、青ざめた顔を引き攣らせる。
「一人一人が冗談みたいに強くて……! もうハンパじゃないんでさァ!」
「……ッ!?」
「と、特に屋敷の中に入り込んだ二人組……ありゃ人間じゃねぇ……! アイツらがこの部屋に着くのも、時間の問題ですぜ!」
まるで化物を見てきたとでも言わんばかりに、ゴロツキは口元を震わせてカチカチと歯を鳴らす。
そんな報告を聞かされて、これ以上ないくらい苦い虫を嚙み締めた表情を浮かべて見せるノワール。
同じように傍で聞いていたリッチャの血相もすっかりと青くなる。
一方で――それを聞いたアル王子は、すぐに確信していた。
エステル殿たちが助けに来てくれたのだ、と。
「も、もういい! さっさと持ち場へ戻れッ!」
「へ、へい……!」
ノワールの怒号を受け、逃げるように部屋を出ていくゴロツキ。
リッチャはノワールへと視線を流し、
「ど、どうするのだ、ノワール殿……!」
「ぐ……うぅっ……」
「ノワール殿ッ!」
声を荒げて問い詰める。
すると――
「だ……大丈夫だ! 俺たちが殺されたりなどするものか!」
まるで開き直ったかのように、ノワールの口元がニヤリと笑った。
「俺たちは……いや俺は死なん! だ、だって俺は――『薔薇色の黄昏』の加護に護られているのだからなッ!」
ノワールの両目が大きく見開かれ、瞳の奥の瞳孔すらも徐々に開かれていく。
彼が焦燥を隠そうとして無理に笑っているのは、誰の目にも明白。
それでもその笑いの意味が汲み取れないリッチャにはどこか不気味に感じられ、次に出る言葉を詰まらせた。
「お、俺は新世界の神に護られている! 俺は不死身だ、俺の人生は約束されているんだ、フハハ……フハハハハハッ!」
「し、新世界の神だかなんだか知らぬが、現実逃避している場合か! と、とにかく屋敷から逃げる準備を――!」
「ノワール様、ここは〝抜け穴〟を使われては如何でしょう?」
ノワールとリッチャの間でいよいよ会話が成り立たなくなり始めた時、まるで焦った様子のないアンブローズがそんな提案をする。
「! そ、そうだ、この部屋にそれがあったわ!」
アンブローズの提案を聞いたノワールはハッとしてさらに嬉々の表情となり、部屋の隅へと向かう。
「こんなこともあろうかと、この屋敷を建てた時に掘っておったのすっかり忘れておった……!」
ノワールは部屋の隅に置かれた大きな戸棚を力任せに動かし、下に敷かれていたカーペットをめくる。
すると――カーペットの下に、丁度人一人が通れるサイズの床下扉が現れた。
「この〝抜け穴〟から下水道を通れば、誰にも見つかることなく王都の外へ脱出することができる!」
「で、でかしたぞノワール殿! ならばさっそく降りようではないか!」
「うむ! ではアンブローズ、アル王子を――」
「アル王子は後でお連れ致します」
「え……?」
「非力な幼子とはいえ、首輪を繋いだ人間を連れて逃げてはお手間となりましょう。ですからこの子は私に任せ、お二人はどうぞお先にお逃げを」
「う、うむ、そうだな……? お前が言うのであればそうしよう。任せたぞ!」
アンブローズの言葉にどこか引っ掛かりを覚えつつも、なにより己の身が可愛かったノワールとリッチャは、我先にと床下扉から地下へと下りていく。
そしてバタンッと床下扉が閉められ、部屋の中にはアンブローズとアル王子の二人だけが残される。
そう――ここには二人しかいない、はずなのに――
『……ふぅ~ん? あの子豚さんたち、逃がしてあげるのねぇ』
――部屋の中に、アンブローズでもアル王子でもない人物の声が響く。
酷く甘ったるい、幼い少女の声。
鼓膜にまとわりつくようなその声を聞いた瞬間、アル王子はブワッと全身に鳥肌が立った。
「……ッ!?」
『あんな醜い子豚二匹、どうせ犬の糞くらいにしかならないのにぃ。うふふ!』
部屋中を見回すアル王子。
しかし自分とアンブローズ以外どこにも人影などない。
なのに――どこからか〝見られている〟という得も言われぬ感触が、彼にはハッキリとあった。
ジットリとした、まるで眼球を舌で舐め取るかのような、生温い視線。
それが確かに感じられていた。
一方、驚くアル王子とは対照的に、アンブローズは眉一つ動かさずに片眼鏡を指先で動かす。
「おや、おいででしたか」
『それにあなたも……似合わないわぁ、執事なんて。いつの間に豚に飼われる変態プレイに興じるようになったのかしらぁ』
「どうせ演者になるなら、私はしっかり〝ロールプレイ〟を楽しみたい質でして。あなたと違ってね」
見知った間柄であるかのように、軽口を叩き合って会話するアンブローズと少女の声。
しかし会話の内容とは裏腹に、両者の関係はどちらかと言えば険悪であることが、なんとなしにアル王子には読み取れた。
「とはいえ、そろそろ遊びもおしまい……もうノワールも用済みです」
『ふぅん。ところでその子、可愛いわねぇ。食べちゃいたいくらい!』
「ダメですよ。あなたになど渡したら、原型を留めないほどの慰み者にするに決まっています」
『くすくす、それはそうよぉ。ショタを調教したくない女の子なんて、この世にいないものぉ』
「やれやれ……まったく、どの口が……」
呆れ果てた様子でため息を漏らしアンブローズ。
同時に彼は、アル王子の首輪に繋がれたリードをグッと引く。
「んぅっ……!」
「さあ、〝物語の撹拌者〟にご挨拶へ伺いましょう。抵抗しないでくださいね?」
『うふふ……私もお手伝いしてあげましょうか?』
「結構です。あなたの下品な趣味には付き合い切れませんので」
『あらそう。ならせいぜい楽しませて頂戴ね――〝黄衣の夜王〟よ』
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「ショタが嫌いな女子なんていないと思いますよ」
昔働いていた職場で女性の同僚から拝領したありがたいお言葉です( ˘ω˘ )





