第242話 〝お嬢様〟の生き様②
《エステル・アップルバリ視点》
「さ、そんじゃさっさと帰ると致しますわよ」
「…………ま、待ちやがれ……!」
アル王子を連れて、優雅に去ろうとする私を呼び止める声。
振り向くと、さっき私がお顔に蹴りを入れて差し上げたハゲ頭の男がヨロヨロと立ち上がっておりました。
「よ、よくもやってくれやがったな……! このまま、おめおめと逃げられると思うなよ……!」
「あーら、そういうおセリフは、その折れ曲がったダッセェお鼻を曲げ直してから仰ったら如何?」
「うるせぇッ!!! このクソアマ、ぜってぇぶっ殺してやるあぁッ!!!」
ハゲ頭の男はゴキャッと自分のお鼻を曲げ直すと、腰から短刀を抜き放ちますの。
それを見せられて、「ハァ……」と私の口から漏れる憂鬱なため息。
……まだ十歳の子供を四人がかりで誘拐して、それが失敗したら、今度は早々に凶器を持ち出すだなんて……。
ダセェを通り越して――もはや見るに堪えませんわね。
「私は……私が思うクッソおダセェ真似はしませんの」
「あぁ……!?」
「私はお子様を攫ったりしませんの。私はお金のために人様の命を狙ったりしませんの」
「なに言ってやがる! 死ねオラァッ!」
ハゲ頭の男は短刀を構えて突進。
そして私のお腹目掛けて、切っ先を突き込んできやがりますけれど――月夜の下で鈍く輝くその刃を、私は片手で掴んで止めて見せます。
「な……ンなっ……!?」
驚いて目を丸くするハゲ頭の男。
鋭い刃を生身でギュッと握り、私の手からはボタボタと紅い血が滴り落ちますの。
ああもう、痛えですわね。
でもこんな鈍らじゃ、私の指は落ちたりしなくってよ。
「私は拳より先に刃物を頼ったりしませんの。私は徒党を組んで弱い者虐めをしたりしませんの」
「ク、クソッ……離せテメェッ!」
「――〝力〟が足りなくってよ」
私は片手で刃を握ったまま、もう片方の手でハゲ頭の男のみぞおちにボディブローをお見舞い。
いつまでも凶器に頼ろうとするから、そんな隙だらけになるんでしてよ。
「ぐ……おッ……!」
「どうかしら、私の剛拳は? お身体の芯まで優雅に響くでしょう?」
私はようやく短刀を離して差し上げると、続けて拳で一撃、二撃、そして三撃目にお顔へ膝蹴りをぶち込んで差し上げます。
その衝撃で鼻血が噴き出て、せっかく曲げ直したお鼻がさっきよりも酷くひしゃげてしまいましたわ。
「ぶあッ――――!!!」
「私はお嬢様ですから、そんじょそこらのおゴロツキ共とは鍛え方が違うんですの」
血がボタボタと垂れる拳を握り込んでおパンチをお見舞いするくらい、お嬢様ならできて当然。
だってお嬢様とは気高く、誇り高く、肝が据わって、お根性がキマッているモノですから。
「でもこんなのは、まだほんの序の口……。アフタヌーンティーなら、三段目のおサンドイッチに手をかけるくらい」
私は人差し指をチョイチョイッと動かして、ハゲ頭の男を挑発。
「どうしたのかしら? ほら、かかってらっしゃいな」
「こ、こ、こンの……ッ!」
頭に血が上ってタコ助みたいにお顔を真っ赤にしたハゲ頭の男は、折れた鼻を治すこともなく斬りかかってきます。
でも私は優雅かつ余裕に短刀を避けて差し上げて、一瞬の隙を突いてまた拳を叩き込んでご覧に入れますの。
「グごッ……!」
「性根の捻じくれたおゴロツキだの、お金のためならどんなセコい悪行でもおやりになる小悪党だの……心底おダッセェですわ」
一撃、二撃――。
三撃、四撃、五撃、六撃――。
拳、拳。
拳、蹴り、拳、頭突き。
一撃入魂のつもりで、連撃を叩き込んで参ります。
「ましてや子供を手にかけようとするなんて……軟弱でしてよッ!」
助走をつけ、大きく振り被った全力の右腕ストレートがハゲ頭の男に直撃。
〝ゴキャッ!〟という豪快な音色を奏でながら、凶悪な人相のおゴロツキが地面を擦って吹っ飛んでいく様は、実に滑稽ですわね。
「そういう軟弱者は〝力〟でぶちのめすッ! それが私の目指す〝お嬢様〟ですわッ!」
「ふ……ふ……ふざけッ……!」
「あなたみたくしみったれたおクソ野郎は、私が全部ぶちのめして差し上げますッ!」
私は息も絶え絶えになったハゲ頭にズンズンと歩み寄って頭を掴み上げ、その顔面に何度も、何度も、何度も何度も、怒りを込めた拳を炸裂。
ベコベコのボコボコにしていきます。
「その腐り切った性根を――少しはお清楚に鍛え直してらっしゃい!」
そして最後に――
ありったけの、
全身全霊の、
全力全開の、
純情可憐の、
そんな〝全の力〟を右腕に込めて――
「〝お嬢様〟を……舐めんじゃねぇッッッ、ですわッ!!!」
大爆発するかのような剛拳の一撃を、ハゲ頭の男のお顔にぶち込んで差し上げました。
「ぶぎゅああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――――ッッッ!!!」
盛大かつ豪快かつ雅やかに宙を舞うハゲ頭の男。
一回、二回、三回、四回、五回――。
まるで水切り石みたいに石畳の上をおバウンドしながら、遥か何十メートルも先までぶっ飛んでいきますの。
途中で靴が片方脱げて彼方へ消えたりしていく様は、実にお惨め。
そうしてお豆粒くらいの大きさにしか見えなくなった距離まで離れて、ようやく停止。
これで起き上ってきたら大したものだと思いましたけれど……結局盛大に伸びたまま、ピクリとも動くことはありませんでした。
やっぱり根性なしでしたわね。
「フン……一昨日来やがれ、でしてよ」
最後に「〝対あり〟ですわ」と言って差し上げようかと思いましたけれど、あんなお畜生にそんな言葉は勿体ないですわね。
私はサッと縦ロールを払って、ハゲ頭の男に背を向けます。
――その直後、舞踏会場の護衛騎士たちを連れたコピルさんたちが私たちの下へと到着。
ようやく事態を察知したようですわね。
後は私がなにもしなくても、あのハゲ頭の男から色々聞き出してくれるでしょう。
エステル・アップルバリは――優雅に去りますわ。
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