第236話 〝心の友〟(※ご報告あり!)
《エステル・アップルバリ視点》
「はぁ……私、いったいどうしたらいいんですのぉ……?」
学園内の長椅子に座り、グッタリと頭を垂れる私。
疲れましたわ……。
もうホンッッッッット疲れましたわ……。
――私とおクソガキ……もといアル王子が出会ってから、今日で五日。
あの子は文字通り私の傍から離れてくれなくて、「余を夫と認めてくれるまで片時も離れぬぞ!」と言ってどこまでもベッタリとくっ付いてきやがります。
授業中だろうと筋トレ中だろうと、もうお構いなし。
特に授業中なんてクッソご親切なことにパウラ先生が私の席の隣にアル王子の席をご用意してくれやがりましたから、「異国の授業というのは面白いモノだな!」と無邪気にニコニコしている始末。
まあ流石にお花摘みとか就寝時には淑女から離れてくれるくらいのデリカシーはあるみたいですから、完璧に四六時中というワケではないっちゃないですけれど……。
「でも……あの感じだと、私に心底惚れたっていうのは間違いないみたいですわねぇ」
ぶっちゃけ、舐めてましたわ。
どうせまだ十歳のお子様なんですから、適当にあしらっていればその内諦めるだろうと思っていたのですけれど。
でもアル王子は、一向に諦めてくれやがらないんですのよねぇ……。
まさかあんなに根性おキマッているとは……。
――ええ、そう、彼のことを見直したのは事実ですわ。
どれだけ私があしらっても、私への求愛を少しもブラさないあの芯の強さ。
あの姿はまるで、何度ぶちのめされても立ち上がってくる、不屈の精神を持ったお喧嘩士のよう。
間違いなく、アレは一つの強さ。
十歳という幼子であることも考えれば、尊敬に値しますわ。
……。
…………。
………………。
……お白状しますと、正直ちょっとグラッとはきてます。
もし彼が、せめて私と同い年だったなら、今頃……なんて考えちゃいますわね……。
私って、こんな流されやすい女でしたっけ……?
でも……まだ十歳……。
七歳差……。
遥か遠方の国の王子というのは一旦さて置いたとしても、子供というのは……。
迂闊な真似をすれば、被るのはショタコンの汚名……!
ふぐぐ……むうぅ~……!
「うぅ……どうしましょう……。なんか、これ以上あの子をあしらい続けるのは流石に気が引けてきましたわ……」
私はショタコンじゃありませんけど、鬼でも悪魔でもありませんもの!
なんだか今のままだと「あら、私を落としたいなら求愛というお貢が足らないんじゃなくって?」みたいに悪い意味でお高く止まった性悪女になっちまいそうですわ!
そんなの私のキャラじゃありませんわ~!
なんてことを思って、頭の中で一人悶絶していると――
「〝応〟! こんなトコで頭抱えてどうしたァ、アップルバリの姉御ッ!」
私の傍を通りがかる、天を衝くご立派なおリーゼント。
そこに現れたのは〝対よろ會〟の会員であり、人殺しのような人相にしか見えない凶悪な顔のキャロル・パルインスでした。
「! キャロル……あなたこそなにしてるんですの?」
「こっちァ、城下町の床屋でリーゼントを〝整えて〟もらった帰りヨ! どーよキマッてんだろォッ!」
サッと手でご立派なおリーゼントを撫でるキャロル。
確かにバリバリに決まってらっしゃってますけど、その髪型に整えてくれるお床屋さんなんて城下町にあったんですのね……。
「そンで、なんだァ!? らしくもなく、ショボくれた顔しちまってよォ!」
キャロルはドスッと長椅子に腰かけ、私の隣に座ってきます。
「アップルバリの姉御! 俺たちゃァ〝友達〟だよなァ!?」
「え、ええ、そうですわね」
「だったらよォ、相談ノるゼ! 悩んでる時に知らん顔なんざ、ンなの〝友達〟って言わねぇからよォッ!」
――気が付けば、空はすっかり夕焼け色。
雲の下で羽ばたきながら、カーカーと鳴くカラスたち。
長椅子に座る私と〝友達〟……ついでに私のバリバリ縦ロールとキャロルのおリーゼントを、夕日が紅く照らしてくれます。
嗚呼……この一瞬も、儚い青春の一ページなのかしら……。
「……なら、聞いて頂ける?」
少しだけ俯いて、私は話し出します。
「実は――」
アル王子の件を、私はキャロルに説明。
そして、どうしたものか悩んでいると打ち明けます。
「――という感じで、ちょっと悩んでおりますの……」
ひとしきり説明し終えて、「ハァ~」とため息を漏らす私。
すると、
「――アップルバリの姉御ッ!」
突然、バッとキャロルが長椅子からお立ち上がりになりやがります。
「姉御、立ちナ!」
「へ? な、なにを突然……」
「いいから立テッ!」
執拗に催促され、仕方なく立ち上がる私。
その直後――
「歯ァ食いしばれ、オラァッ!!!」
「――むぎゅッ!?」
ギュッと握り込まれたキャロルの拳が、私の顔面におクリーンヒット。
あまりにもいきなりグーで殴られた私は、そのままちょっぴり吹っ飛んで地面へと倒れました。
「い……いった~……っ! ちょっとキャロル、いきなりなにしやがるんですの!? 殴るなら殴るって、一言おっしゃいなッ!」
「アップルバリの姉御! アンタ、自分が酷ェことしてるってワカッてんのかァ!?」
「ひ、酷いって……?」
「そのアルガキだかクソ王子だかって奴ァ、大した野郎じゃねェかッ! 遠路はるばるこの国まで来て、〝本気〟でアンタに恋するなんてッ……!」
キャロルは「俺ァ泣けてきたゼ!」と目尻に涙を浮かべます。
ちょっとむさ苦しい涙ですわね。
「なのにアンタはなんダ!? いつまでも〝曖昧〟真似しやがってよォ……!」
「! わ、私は〝曖昧〟真似なんて――!」
「いいや! アンタはアルガキを傷付けないようにって、手前なりに気遣ってるつもりなのかもしれねェが……それが逆に、ソイツを傷付けてんだヨッ!」
「――――ッ!!!」
「相手が〝子供〟だからって、野郎の気持ちを弄ぶような真似しやがっテ……! アンタいつから、そんな〝酷い女〟になりやがったんだァッ!? おうコラ!?」
――私は、ハッとさせられます。
そんなつもりは毛頭ありませんでしたわ。
けれど確かに、私はアル王子と正面から向き合うことを避けてきたかもしれません。
彼がまだ幼い子供だからって、自分に言い訳して。
「受け入れるなら受け入れル! 断るなら断ル! どっちだろうが、〝本気〟の〝真剣〟で向き合って、正面から〝答え〟を伝えなきゃ……ガキ王子がかわいそうじゃねェかヨッ!」
「…………」
少しの間、目を伏せて沈黙する私。
そしてゆっくりと身体を起こし、立ち上がります。
「感謝しますわ、キャロル。私の〝お眼球〟を覚まさせてくれて」
私はパンパンッとスカートの砂埃を払い、彼の目を見つめ返します。
「効きましたわ、あなたの〝拳〟……。お身体じゃなく、〝心〟の方に」
「〝応〟! そんじゃあ――」
「私、行かなきゃいけませんわね。――今からアル王子の下へ行って、しっかりお断りの答えを伝えてきますわ」
私が彼に伝える〝本気の答え〟は、きっと彼を傷付けてしまうでしょう。
でも、キャロルの仰るように今の〝曖昧〟ままじゃ、もっと彼を傷付けてしまう。
いえ、傷付け続けてしまう。
そんなの、潔くお断りするよりずっと残酷じゃありませんの。
「ヘヘ……それでこそアップルバリの姉御だゼッ! ――だが待ちナ!」
「?」
「手前の目を覚まさせるためとはいえ、俺ァ〝友達〟を殴っちまっタ! このままじゃア、俺の〝友情〟が許さねェ!」
「キャロル……!」
「なら一発は一発ッ! この〝顔〟に、一発叩き込んでけヤッ!!!」
親指で自らを指差し、お覚悟を見せるキャロル。
……そうでしたわね。
あなたはそういう〝漢〟でしたわ。
「……わかりましたわ。では――お受け取り遊ばせ」
私は右手をギチッと握り締め、大きく振り被ります。
そして思いっっっっっ切り、キャロルの顔面に〝拳〟叩き込んで差し上げました。
「ぎゃああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ――――ッ!!!」
私渾身の〝拳〟を受けて遥か無限の彼方まで吹っ飛び、お空でキラッと一番星になるキャロル。
ありがとう、キャロル・パルインス……。
あなた正真正銘、我が〝心の友〟ですわ……!
※ご報告
『最凶夫婦』読者の皆様方、本当にお久しぶりでございます!
ご報告です!
TOブックス様より出版しております本作、書籍版第4巻・第1部完結まで刊行させて頂いておりましたが……。
なんと!
書籍版『第5巻』の発売が決定致しました!!!
やった……!(;▽;)
つまり書籍版でも第2部・二年生編がスタートとなります!
続刊できるかどうかは第4巻の売れ行き次第だったのですが、皆様のお陰で無事に続きを出せることとなりました……!
本当に嬉しい……!
ですので本日より、改めてWeb版の連載を再開させて頂きます!
(更新頻度は以前と同じく三日に一話の予定です)
長らく放置状態となり誠に申し訳ありませんでした……!
書籍版第5巻は本日より予約開始となりますので、ぜひTOブックス様のサイトにアクセスしてみてくださいませ!
(ちなみに漫画版第2巻も同時発売となります!)
☟TOブックスオンラインストア☟
https://www.tobooks.jp/contents/21036
☟Amazonストアページ☟
https://x.gd/RSIku
(Amazon様は予約受付開始がもう少し後となります)
それと漫画版第2巻も同時発売(同時購入特典あり)となりますので、こちらもぜひチェックしてみてくださいませ!
☟TOブックスオンラインストア☟
https://www.tobooks.jp/contents/21054





