第233話 火に油を注いでんじゃん
「ぐ――お――ッ!?」
エステルのどぎつい一撃を受けたコピルは、頬を大きく凹ませながら吹っ飛んでいく。
うわぁ、痛そう。
ありゃ俺でも食らいたくないわ。首の骨とか顔の骨とかイッてないか心配。
だから油断するなって言ったのによ……ご愁傷様……。
殴り飛ばされたコピルは何度か地面をバウンドした後、校庭の端に生えていた木に激突。
そのまま白目を剥いて失神し、たった一発でノックアウトとなった。
「ふふーん、どんなモンですの! これが乙女の拳の〝重み〟ってヤツですわ! オーッホッホッホ!」
高らかに笑って勝利宣言するエステル。
コイツ本当に喧嘩は強いよな。
ヴァルランド王国で素手でコイツに勝てる奴なんているんだろうか?
俺? 俺は妻に「クラスメイトとの喧嘩はダメ」って言われてるからノーカンで。
「さて、クソガキ――ではなくアル王子? これでおわかり頂けたかしら? 私がとってもお喧嘩が強いことを! ですからあなたの妻になんて――……って、ん?」
自分で言ってて違和感を覚えたのだろう。エステルの口が止まる。
「……そもそも私、なんでお喧嘩することになったんでしたっけ……? っていうか、これじゃあ――」
頬に指先を当て、エステルは十数分そこら前のことを思い出そうとする。
ああ、ようやく気付いたか。
自分のやってることが、アル王子を突き放すどころか――むしろ逆効果になってるってことに。
エステルの喧嘩を終始見守っていたアル王子は、
「――カ……カッコいい!」
興奮を抑えられない様子で、子供のように目をキラッキラに輝かせる。
子供のようにってか、子供なんだが。
「流石だ、エステル殿! あのコピルを倒してしまうなんて……! コピルは王家親衛隊の中でも特に腕利きの武術家だと言うのに!」
「え、いや、ちょ――」
「やはりあなたは理想の女性だ! やはり余にはあなたしかいない!」
アル王子はエステルの下へ駆け寄り、ガバッと抱き着く。
相変わらず身長差があって、言っちゃあなんだがやっぱり男女の抱擁には見えない。
「改めて、余はエステル殿に結婚を申し込む! 余の妻となってくれ! いいや、なんとしても余の妻としてみせる! 一生涯かけてあなたを愛し抜き、幸せにすると約束しよう!」
「う……うぎぎぎ……!」
自らの行為が完全に火に油を注ぐ結果になってしまい、アル王子に余計に惚れられてしまったエステルは、ギリギリと歯軋りを鳴らしながら白目を剥いて震える。
世の中、喧嘩に強ければなんでもかんでも解決するワケではない。時には腕っぷしだけではどうにもならない時もある。
そういうことだ。
勉強になったよ、ありがとうなエステル。
俺は心の中で、そう礼を言った。
「ど……どうしてこうなるんですのおおおぉぉぉ~~~ッ!?」
虚空に向かって、エステルは哀しく吼える。
そんなエステルを見て、俺の妻は可愛らしく笑うのだった。
今日の更新分は短め。許して……(=‘x‘=)
※宣伝!
書籍版第3巻、発売中!
ご購入はこちらから!☟
https://x.gd/yLbTI
コミカライズ版も絶賛連載中!
ぜひサイトに足を運んでみてくださいませ~(´∇`)
『コロナEX』様
https://to-corona-ex.com/comics/191713313538215
『ピッコマ』様
https://piccoma.com/web/product/180188





