表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
【第2部】第2章 スコティッシュ兄弟の確執

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/235

第213話 兄弟①


《ユーリ・スコティッシュ視点(Side)


 ……どれほど歩いただろうか。

 気味の悪い洞窟の中を一歩一歩進み、レティシア夫人の影を探す。


 オードラン男爵の姿は、とうの昔に見えなくなった。

 彼が斬り殺したモンスターの死骸がまるでカーペットのように地面に敷き詰められているので、後を追おうと思えばできる。


 だが、それでは意味がない。

 オードラン男爵と同じ道を辿ったのでは、なんのためにここへ来たのかわからない。

 彼よりも先にレティシア夫人を見つけねばならないのだから、彼が探していないルートを見て回る必要がある。

 未だレティシア夫人がどこにいるか不明なのだし、手分けして捜索するという意味でも。


 幸いと言うべきか、オードラン男爵がモンスターを片っ端から斬殺していってくれたため、私が奴らに襲われることはなかった。

 ……モンスター共は彼に気を取られて、私など眼中に入っていないだけなのかもしれないが。


 ともかく私は、入り組んだ洞窟の中を敢えてオードラン男爵とは違う道を進んでいるのだが――


「…………」


 ……本音は違う。

 私は、オードラン男爵を見ていられなかっただけだ。


 彼は――恐ろしい(・・・・)。あまりにも。

 傍で彼が戦っている光景を見ているだけで、恐怖のあまり全身から血の気が引く。

 あの覇気に当てられただけで、唇が震えてカチカチと奥歯が鳴る。


 私は、あの〝化物(バケモノ)〟の傍にいられなかったのだ。怖くて、怖くて。


 そしてもう一つ理由がある。

 私は……自分が恥ずかしかった。


 私は自分より凄い人間なんて、昔のお兄様(・・・・・)以外はいないと思っていた。

 けれど違う。私は世界を知らな過ぎただけだ。私は所詮、井の中の蛙だったのだ。


 ――惨めだった。

 なにも知らず意気揚々とオードラン男爵に挑もうとし、その剣技を目の当たりにしただけで震え上がってしまった自分が、惨めで仕方なかった。

 なにも知らずオードラン男爵へ勝負を挑もうしていたことが、恥ずかしくてどうしようもなかった。


 文字通り格が違う。次元が違う。

 彼は人間であれど、私と同じ存在などではない。

 お兄様が敗れたのは当然だったのだ。

 お兄様が彼を〝(キング)〟と崇めたのは必然だったのだ。


 だが私は認めなかった。認められなかった。

 なにかの間違いか、偶然か、でなければお兄様が堕ちた(・・・)だけなのだと、そう自分に言い聞かせていた。


 ……勝負になんてならない。

 私とオードラン男爵では剣士としての――いや、生き物としての格が違う。

 彼が百獣の王たる者だとすれば、私は虫ケラだ。

 踏み潰されるのを待つだけの、ちっぽけで惨めで哀れな存在だ。


 理解してしまった。骨の髄まで理解させられてしまった。

 彼は生まれながらの覇者だと。

 覇者となるべくして生まれた、本物の暴君なのだと。


 そんなことすらわからず、わかろうとせず、彼に挑もうとしてた自分の姿は、なんと愚かだったことか。

 オードラン男爵の傍にいると、その現実をまざまざと見せつけられている気分だった。


 ……私は後悔し始めていた。

 ここへ来たことを。


 しかし同時に、ここでオードラン男爵の()を目の当たりにしたことで、一つの疑問を抱く。


 ――イヴァンお兄様は、どうしてオードラン男爵の傍に立っていられるのだろう?

 お兄様は、何故未だに心が折れていないのだろう?


 私は――こんなにも心がへし折られてしまったというのに――と。


「……イヴァンお兄様」


 ポツリ、とお兄様の名を呼ぶ。

 そうして力なく洞窟の中を歩いていると――なにやら開けた空間へと辿り着く。


「……ここは?」


 周囲を見渡すが、人影はない。

 ここにはレティシア夫人はいないようだ。

 そう思い、私は道を引き返そうとしたが――



『……ユーリ・スコティッシュ』



 ――誰か(・・)が、私の名を呼んだ。


「え――?」


 振り返る。

 けれどやはり、どこにも人の姿はない。


『そうだ……ユーリ・スコティッシュ……。お前も……殺すつもり(・・・・・)だった……』


 ――ドサッ、と天井からなにかが落ちてくる。

 それは落下した直後はピクリとも動かなかったが……数秒後、突然立ち上がる。

 そう、立ち上がったのだ。

 ――――人間の足(・・・・)が。


 より正確に言えば、人の下半身。

 真っ二つに両断されて胴体より上が消失し、腹部より下だけの片割れ(・・・)となった人間の肉体が、独りでに動いて直立している。


「なっ……!」


『僕が……〝(キング)〟となる……。〝(キング)〟となって……ママ(・・)を手に入れるんだ……』


 脳の奥に直接響くような、不気味な声。

 次の瞬間、その下半身は切断面から緑色の肉塊を噴出させる。


『マ、ママは……聖母サマ、は………………〝母体〟ハ、オレ(・・)のモノだ』


 ――途中から、明確に声が変わった。

 まるで喋っている途中、なにか(・・・)に乗っ取られたかのように。

 声はオドオドとした少年のモノから、低音の枯れた老人を彷彿させるゾッとした声質になる。


 そして溢れ出るように湧く肉塊は、徐々に形を成していき――

 腕や頭が生え――

 それは――名状しがたき――


「な……なん、だ……お前は……!?」


 私の前に姿を現した存在。

 頭足類(タコ)を思わせる触手の生えた頭部、

 ギョロリと開いた六つの目、

 水かきと鉤爪を備えた巨腕、

 ヌメヌメとした体液で覆われた、どこか不定形で不完全さを思わせる緑色の巨躯。


 生き物(モンスター)と呼ぶには、あまりにも冒涜的な形――。

 それを見た私は――酷く精神を揺さぶられた。


 恐怖で手足が震える。

 今にも腰を抜かしそうで、正気を保てなくなりそうな自分がいる。


 私は碌に身動きすら取れず、その名状しがたい怪物を視界に収めることしかできなかった。


『〝母体〟ハ、オ前ナンカニ、渡サナイ……!』


 怪物は私へ襲い掛かってくる。

 鉤爪の付いた腕を振り被り、叩き潰そうとしてくる。

 だが恐ろしさのあまり足が竦み、回避もままならない。


 紛うことなき〝死〟が直前に迫る。

 私はもうダメだと、両目を瞑る。



 けれど――その時だった。






「――なにをしている、我が誇らしき弟ユーリ・スコティッシュよ」




弟より優れた兄は、存在しまぁす!(大声)


※お報せ!

 2月発売の書籍版第3巻に併せて、通常版SSの他に応援書店様の店舗限定で特別SSが特典として付くことが決まりました!

 もし最寄りに応援書店様がある読者様は、ぜひお手に取ってくださいませ~(*´ω`*)

 詳細はこちらから☟

 https://note.com/tobooks/n/nc325e40413c7


※宣伝!

書籍版第3巻、予約受付中!

ご予約はこちらから!☟

https://x.gd/FZq8B

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』✨️
『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』1巻書影
ご購入は こちらから!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ