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第2話 面倒くさいけど


 ――さて。


 そんなこんなでダイエット&剣術の稽古が始まって、一週間。


「如何されましたアルバン様、もうギブアップですかな?」


「む、むぐぐ……」


 怠惰に怠惰を重ねてきた俺の身体は、早くも悲鳴を上げていた。


 もう駄目。

 剣を持ち上げられない。

 足もプルプルする。


 日頃の運動不足が祟り、急激な動作に身体が付いていかない。


「このようなことで音を上げられては、先が思いやられます。ビシバシゆきますぞ」


「い、いいだろう……!」


 俺はダラダラと汗を流し、力を振り絞って剣を構えた。


 アルバンには天性の才能がある。


 剣も振るう(・・・)だけなら、素人とは思えない動きができると思う。


 ――だが、練達の武人が相手となれば話は別だ。


 セーバスはかつて戦場で活躍していた名のある剣士であり、その腕前も達人級。


 そもそも剣の腕を買われてオードラン家に雇われた程だからな。


 いくら俺が剣を振るえても、身体能力と経験値の差で子供扱いだ。


「アルバン様は、まず基礎的な動きを身につけるべきです。己が才能に頼ってばかりではいけません」


「そんなこと、わかっている!」


 俺はセーバスに向かって斬りかかる。


 だが呆気なく刃を払われ、地面に転倒した。


「ぐえっ!」


「それから筋力もバランスよく鍛えた方がいいですな。やろうとしている動きに身体が追いついていない」


「も、もう駄目、立てない……」


「では今日はお終いにされますか? ですがこの調子では、半年で~という目標は達成できぬと思いますが」


「……それは面倒だ」


 プルプルと震える身体に鞭打ち、俺は立ち上がる。


「言ったことを曲げるなど面倒くさい。もっと付き合え、セーバス」


「その意気です。どこまでもお供しますぞ」




 ▲ ▲ ▲




 ダイエット&剣術の稽古が始まって、一ヵ月。


「ハァッ!」


「悪くない太刀筋です」


「まだまだ……!」


「ですが、遅い」


 セーバスが剣を振るうと、俺の手から剣が弾き飛ばされる。


「むぐっ……駄目か」


「はっはっは、まだ少々お身体が重いご様子ですな」


「まったく面倒な身体だ。これでも少しは痩せてきたと思うんだが……」


「ええ、勿論。それに確実に腕前も上達されていますよ」


「世辞ならいらんぞ」


「お世辞なモノですか。私はアルバン様に恐怖すら感じている程です」


「恐怖だと?」


「たったひと月で、アルバン様は私と切り結べるほどになられた。これは驚異的なことです」


「ふん、勝てなければ意味ない」


「フフフ、それもそうですな。では稽古を続けましょうぞ」




 ▲ ▲ ▲




(※セーバス・クリスチャン視点(Side))


 ――アルバン様のダイエット&剣術の稽古が始まって、三ヵ月。


「セヤァッ!」


「いい調子ですぞ、アルバン様!」


 アルバン様が振るう刃は、この老体目掛けて素早く斬り込んでくる。


 私はそれを剣でいなし、以前のように手から弾き飛ばそうとする。


 だが、アルバン様の手から剣が離れることはない。


「経験が生きましたな、アルバン様!」


「ふん、稽古に集中しろセーバス!」


 ダイエットがてらの稽古が始まって三ヵ月、アルバン様はだいぶスリムになられた。


 動きも以前よりずっと軽く、既に油断できない域に入っている。


 ……最初にアルバン様が「瘦せようと思う」「剣を教えてくれ」と言い出した時は、何事かと思った。


 本当に頭がおかしくなられたのかと思った程だ。


 だが「どうせ三日坊主だろう」と心のどこかで思っていた。


 あの怠惰なクソガキが、努力など続けられるワケがない――と。


 だが違った。

 アルバン様はまだ努力されてらっしゃる。


 それもたったの三ヵ月で、私が教えた剣技をほとんどモノにしてしまった。


 驚異的、と言わざるを得ない。


 これでも私は、かつて王国騎士団で騎士団長と並ぶ腕前と称えられたこともある。


 今でこそ身体は老いたが、剣筋は衰えていないと自負している。


 だが私の剣技は、何十年という歳月をかけて戦場で会得したモノなのだ。


 アルバン様は、そのほとんどをたったの三ヵ月で……!


 ……今はまだ私の方が強い。

 だがその優位性も、あとどれほど続くことやら。


 アルバン様の吸収力は異常だ。

 教えた端から会得していく。


 やはり、天性の才能の持ち主。

 

 天才が努力すればこうなるのだと、まざまざと見せつけられている気分だ。


「面倒だな、これでどうだ!」


「なんの、まだまだ!」


 ――楽しい。

 こんなに心が弾むのは、いつ以来だろう。


 なにがあなた様を変えたのか?

 なにがあなた様を突き動かすのか?

 それはわからない。

 

 されどアルバン様、あなた様がどうなっていくのか――このセーバス、しかと見届けさせてもらいますぞ。




 ▲ ▲ ▲




 ――ダイエット&剣術の稽古が始まって、半年。


 ギインッ!


「はぁ……はぁ……!」


 遂に――俺はセーバスの手から、剣を弾き飛ばした。


「……お強くなられましたな、アルバン様」


「セーバス……」


「私の負けでございます」


 彼はとても満足した表情で、深く頭を下げる。


「私が教えることは、もうなにもございません。あなたは剣技を完璧に会得されました」


「そうか……これまで面倒をかけたな」


「とんでもない。私はあなた様に剣を教えられたことを誇りに思います」


 教え子に負けたというのに、何故か満面の笑みを見せるセーバス。


 どうしてそんなに嬉しそうなのか、俺にはわからなかったが――自然と俺の口元にも笑みが零れた。


「それに気付いておいでですか? アルバン様はすっかりスリムになられた」


「ああ、その自覚はある。だいぶ痩せたな」


 剣の稽古を始めて半年。


 ブヨブヨだった俺の身体はすっかり細身の筋肉質となり、各段に軽くなった。


 腹筋とかバキバキに割れてるし。


 剣術だけでなく、ダイエットも成功。


 もし太ったアルバンしか知らない人物が見たら、すぐには同一人物だと気付けないだろう。


 それと……心なしか、顔もハンサムになった気がする。


 人間って、痩せて顔の輪郭が縮まるだけでも印象が変わるからな。


 これならちょっとくらいモテるかな……?


 いい感じに可愛いお嫁さん貰えたりして?


 そう遠からず王立学園へ入学することになるし、楽しみだな~。


「ククク、この容姿なら嫁を娶るのに苦労もすまい」


「ああ、そういえば……丁度ご縁談のお話が来ておりましたよ」


「なに? 本当か!?」


 なんというベストタイミング!

 己を磨いた甲斐があったな!


「それは吉報だな! 今から会うのが楽しみだ!」


「ええ……ですが凶報でもあります」


「――ん?」


「それと、このご縁談をお断りするのも難しいかと」


「――は?」


 あれ……?

 なんだか話の雲行きが怪しく……?


「ちょっと待て……。一体どこの家から縁談の話を持ち掛けられたんだ?」


「”バロウ公爵家”です」


「は……はあああぁぁぁ!?」


 俺は驚きのあまり、なんとも素っ頓狂な声を上げてしまう。


 その名前ならよく知っている。


 いや、俺でなくともこのヴァルランド王国に生きる人間で知らぬ者はいないだろう。

 

 何故なら――バロウ公爵家と言えば、国の中でも名家中の名家として名高いからだ。


「バロウ公爵家っていえば、男爵家(ウチ)よりずっと格上の家柄じゃないか! どうしてウチなんか……に……」


 自分で言っている途中で、徐々に思い出す。


 ああ――そうだ。

 確かファンタジー小説の中では、アルバン・オードランって結婚してるんだよな。


 で、そのお相手の嫁さんっていうのが――悪行のあまり婚約者に婚約破棄されて、行き場がなくなった問題児。


 主人公とも敵対する悪役令嬢だ。


 アルバンも権力欲しさに結婚しただけだから、めっちゃ仲悪かったはず。


 つまり俺は、冷め切った夫婦生活が既に約束されているのである。


 しかもその悪役令嬢が引き金となって、アルバンが破滅してたような気も……。


 あれ……?

 これって結局は、破滅ルート一直線なのでは……?


「お……俺の半年間の努力は、なんだったんだ……?」


「バロウ家のご息女は、どうも中々に気難しい性格のご様子。頑張ってください、アルバン様」


「面倒くせえええええええええええええええええッッッ!!!」


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