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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第2章 学園へ入学する悪役夫婦

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第18話 まるで”虫けら”だな


「……どうしてこうなった」


 ――俺は今、『決闘場』の中にいる。

 腰に剣を携えた状態で。


 なんで学園の中に『決闘場』なんて物騒な場所があるんだと突っ込みたくなるが、考えて見れば貴族に決闘は付き物。


 学生のほとんどが貴族であるこの学園なら、あまり不自然でもないのかもしれない。

 それにここファンタジー小説の世界だしな、一応。

 

「……で、本当に三対一(・・・)でいいんだな?」


 確認するようにイヴァンが聞いてくる。


 俺の目の前には、得物を構えたイヴァン、マティアス、ローエンの姿が。


 イヴァンは片手剣を、

 マティアスは長柄槍を、

 ローエンは巨大な戦斧を、


 男三人、それぞれ武装している。

 おそらく最も得意とする得物で。


「ああ、構わない」


 もうここまで来ては引けまい。

 こっちだって、嫁の期待を裏切れないからな。


 ――さて。

 どうして俺が、いきなり野郎三人とむさくるしく決闘する羽目になったのか?


 話は少し前に遡る――。




 ▲ ▲ ▲




「このクラスの”王”に相応しいのは、我が夫アルバン・オードランただ一人です」


「へ……?」


 レティシアの一言に、俺は一瞬キョトンとしてしまう。


「アルバン・オードラン……だって?」


 マティアスを始め、クラス全員の視線が俺へと注がれる。


 いや、そんな注目されても困るというか、なんというか……。

 俺は破滅せずに学園を卒業できれば、それでいいんだが?


 レティシアもなんで俺の名前出したの?

 ねぇ?


「プ……フハハハハハ!」


 その時、イヴァンが大声で笑い出す。


「オードラン男爵が、あの最低最悪と名高い男爵が”(キング)”に相応しいだって!? これは傑作だな!」


「……」


 声を上げて笑い出した彼を、ギロリと冷たい眼差しで睨み付けるレティシア。

 その瞳は、夫の俺から見てもかなりおっかない。

 

「やれやれ、ベルトーリ公爵への復讐を手伝ってもらってすっかり絆されたか? キミは落ちぶれたとはいえ、公爵令嬢なのだぞ? いくら夫とはいえ、もう少し身の丈にあった者を推薦したまえよ」


 ――あ?

 おい、今の言い方はちょっとカチンと来たぞ?


 そりゃあ俺とレティシアじゃ階級が違うけど、まるで夫婦としても分不相応って言ってるように聞こえるぞ?


 流石にムカついた。

 いいだろう、そんなに喧嘩を売りたいなら喜んで――


 ――と思って席を立とうとしたのだが、俺よりも先にレティシアが立ち上がる。


 そしてツカツカとイヴァンの前まで赴くと、思い切り彼の胸ぐらを掴み上げた。


「うっ……!?」


「撤回なさい」


「な、に……?」


「撤回しろと言ったの。我が夫を侮辱するのは、断じて許さない。アルバンは最低最悪の男爵などではないわ」


 ――凄まじいまでの気迫。

 まるで氷の刃を喉元にあてがうような、背筋が凍り付くほど恐ろしい声と眼差し。


 これには夫の俺でも震え上がりそうだ。

 まさに悪役令嬢の面目躍如……なんて言ったら怒られてしまうか。


「もし、撤回しないと言うなら……」


「わ、悪い、少し言い過ぎたな。撤回しよう……」


「そう」


 彼女はイヴァンの胸ぐらをパッと手放す。

 すると何事もなかったかのように、再び自分の席に戻った。


 ……やっぱり凄いな、レティシアは。

 肝の据わり具合は、俺より上かも。


 にしても、イヴァンも案外あっさりと撤回したな。

 意外とヘタレなのか?


「えーっと……オレからも一ついいかな」


 少しの沈黙が流れた後、一人の男が手を上げた。

 レオニールだ。


「このままじゃ埒が明かない。だからさ、とりあえず――」




 ▲ ▲ ▲




 ――とりあえず、”誰が一番強いのか”だけでも決めてしまおう。

 他のことはそれから考えればいい。


 ……という流れになった。

 

 まあ弱い奴の下に付くのは、それはそれで不本意ではある。

 それに強い=偉いはシンプルで基準としては明確だし。


 無論強いだけなど論外だが、”会議は踊る。されど進まず”って状態よりはよほどいい。


 だからレオニールの提案に納得はできるのだが……。


『だったら間違いなくアルバンが一番強いわ。三対一でも負けないでしょうね』


 レティシアが発したその一言で、本当に三対一で闘うことになってしまった。


 面倒くせぇ……。

 でも妻の期待を裏切りたくねぇ……。


 ちなみにレティシアを始めとした女性陣&レオニールは、少し離れた場所から観戦している。


 パウラ先生は立会人として、決闘の結果を判定してくれるそうだ。


「この『決闘場』には特殊な魔法陣が描かれていて、攻撃を受けても痛みを感じたり死んだりすることはありません! なので、思いっきり殺し合いましょう!」


 何故かテンション高めのパウラ先生。


 っていうか『決闘場』ってそんな便利な場所なのか。

 あのバスチアンとかいう無能試験官もここを使ってくれりゃ楽だったのに。


 ああ、でもそれだと俺をいたぶれないと思ったのかもな。

 結果自分がいたぶられてりゃ世話ないが。


「ですが死亡判定が出ると身動きが取れなくなります! 動けなくなった時点で敗北と見なすので、ご注意を!」


 マティアスは肩に担いでいた長柄槍を構えると、


「おいアルバン・オードラン。言っとくが、やるからには手加減しねーぞ」


「ああ、別にいい」


「待て、やはり最初に俺と戦らせろ。決闘とは一対一でやってこそ誇り高いのだ」


 ガタイのいいローエンは戦いにこだわりがあるのか、一対一を所望してくる。

 だが――


「ハァ……もうさ、面倒なんだよ」


「なに?」


「一対一でも三対一でもいいから、さっさとかかってこい。どうせお前らじゃ、100%俺には勝てないんだからさ」


 ――動作を一目見ただけでわかる。

 誰一人、セーバスとは比較にもならない。


 これは俺が悪だと自認しているから、馬鹿にして言ってるってワケじゃない。


 ただ単純に実力差があり過ぎる。

 まるで、”虫けら”にしか見えない。


「…………言ってくれるじゃねぇか」


 俺の言葉がよほどプライドを傷付けたらしく、ローエンは戦斧を構える。

 イヴァンとマティアスも神経を逆撫でされたようで、すっかりやる気だ。


「では――始め!」


 パウラ先生が決闘の始まりを宣言する。


 途端に――三人は一斉に斬りかかってきた。

 なるほど、殺意は悪くない。


 しかし動きはバラバラ。

 あーあ、退屈だな――


「はあああぁッ!」


「せええぇいッ!」


「どりゃあああああッ!」


 三人の攻撃が、俺のいる場所へと繰り出される。


 ――ま、もうそこ(・・)に俺はいないんだけど。


「な――っ!?」


「き、消えた……!?」


「なんだ、一体どこに――!」


 俺が避ける瞬間すら見えなかったか。

 ま、仕方ない。


 じゃ――死ね。


「まず一匹(・・)


 俺はヒラリとローエンの背中に着地すると、剣を振るった。

 彼の首を斬り落とすように。

 

「ぐ……が……ッ!?」


「残念! ローエン・ステラジアンくん死亡です!」


 決闘が始まって、僅か数秒の出来事。

 それにイヴァンとマティアスは驚きを隠せないでいた。


「は……?」


「お、おい、嘘だろ……!? イカサマじゃねぇのか!?」


「お前ら程度を相手に、そんな姑息な手を使うかって」


「こ、この――!」


 イヴァンとマティアスが再び斬りかかってくる。


 勢いやよし。

 だが……刃に”恐怖”が滲み出ているぞ?


二匹(・・)


 彼らの攻撃を回避した俺は、すれ違いざまにマティアスの腹部に斬撃を叩き込む。


「ぐぉ……ッ!」


「マティアス・ウルフくん、死亡! 残るはイヴァンくんだけです!」


「く、く、くそっ……!」


 完全に焦ったイヴァンは、身体の前に片手剣を突き出し、刃に手を添える。


「――〔アクア・ウィップ〕!」


 彼は水属性の魔法を発動。

 すると片手剣の刃が水に包まれ、鞭のようにしなった。


「へぇ、もう魔法を使えるのか」


「僕はスコティッシュ公爵家の人間だからな、これくらいは出来て当然だ!」


「あっそ」


「食らえ――!」


 イヴァンが片手剣を振るうと一気に水の鞭が伸び、蛇のように俺へと襲い来る。


 これなら、間合い外から俺を攻撃できると踏んだのだろうが――


「子供騙しだな」


 苦もなく水の鞭を回避し、俺は一瞬でイヴァンの懐に潜り込む。


「ひっ……!」


三匹(・・)


 ――斬撃を繰り出す。

 イヴァンの胴体目掛けて、肩から脇腹へと両断するように。


「イヴァン・スコティッシュくん死亡! この決闘――アルバン・オードランくんの勝利です!」


 立会人だったパウラ先生が宣言する。


 あー、終わった終わった。

 レティシア、褒めてー。


 俺が彼女の下へスタスタと赴くと、レティシアも優しい微笑みで迎えてくれる。


「お疲れ様アルバン。流石だわ」


「どうも。でも、もっと褒めてくれてもいいんだぞ?」


「それは部屋に戻ってからね。ところで」


 レティシアはくるりと振り向き、背後にいた女性陣たちを見る。


「あなた方も、アルバンと一太刀交えてみる?」


 クスッと笑って尋ねるレティシア。

 それを受け、彼女たちは一斉にブンブンと首を横に振った。


「じょ、冗談じゃなくってよ! そ、そんな化物と戦えませんわああぁぁッ!」


 特に金髪縦ロールのエステルなどは完全に表情が青ざめ、完全に人外を見るような目で俺のことを見てくる。


 そんな怖がらないでほしいねぇ。

 どうせこの『決闘場』にいる限り死なないんだしさ。


 にしても照れるなー。

 そんな目で見られると、なんか悪党として誇らしくなっちゃうっていうかー?

 アッハッハ――!


「……お願いします」


 ――ハァ?


 その時だった。

 一人の男が、ポツリと呟いた。


 そう、レオニールが。


「……今の戦いを見てたら、どうしても自分の腕を試したくなってしまった」


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