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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第6章 因縁に終止符を

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第159話 勝敗を分けたモノ①


「み…………見事だ…………オードラン男爵…………ッ」


 地面に膝を突くレオニール。

 その身体からは紅い血が流れ、ボタボタッと地面に滴り落ちる。


 ――致命の一撃。

 刃が砕け散るのと引き換えに俺が放った斬撃は、確実にレオニールの胴体を断ち斬った。


 もう――立ち上がることはできまい。


「ハハ……やっぱり、あなた(・・・)は強いよ……。流石はオレの〝(キング)〟だ……」


 レオニールは剣を床に突き刺し、身体を支える。


 その口からは血反吐を吐きながら――それでも、笑っていた。


「なんで……だろうな……。負けたのに……清々しい気分だ……」


「レオニール……」


「…………ありがとう…………オードラン男爵……。最後まで……付き合って…………くれて……――」


 グラリ、とレオニールの身体が揺れる。


 そして力が抜けるように――そのまま、床へと倒れた。


「……ああ、お前も本当に強い〝騎士(ナイト)〟だったよ――レオ(・・)


 最後に、その名を愛称で呼ぶ。


 お前は紛れもない好敵手ライバルだった。

 決着の瞬間、俺とお前はほとんど完全に互角だった。


 剣を振るう動きなんて、まるで自分を鏡で見ているみたいだったよ。


 でもほんの僅かな――けれど決定的な差(・・・・・)が、俺とお前の勝敗を分けたんだ。




「……う…………嘘よ…………」




 ――離れた場所で、震える声が発せられる。


「噓噓噓噓噓……! ありえないでしょう……!? ふざけんじゃないわよ……ッ!」


 エルザは血走った目を見開き、両手で頭を掻きむしる。


 目の前の光景が信じられない――受け入れられないと言わんばかりに。


「ちょっとレオニール! は、早く立ちなさいよ! アンタは〝主人公〟でしょ!?」


 半ば錯乱状態で怒号を飛ばし、レオニールへと呼び掛けるエルザ。


 だが当然、レオニールの身体は動かない。


「ふざけんな……ふざけんなふざけんな、ふざけんなッ!!! アンタが死んだら、誰が私を幸せにしてくれるっていうの!? さっさと立って、この雑魚を殺しなさいよ!!!」


 罵詈雑言が入り混じった、あまりに醜い叫び声。

 王女としての気品など、既にどこにも残ってはいない。


「どうして……どうしてなのよ……!? アンタは、私を幸せにしてくれるはずなんでしょう!? 私はただ愛されて、幸せを享受できるはずなんでしょう!? なのに、どうしてこうなるの……!?  私は――幸せになっちゃいけないのッ!?!?」


「……おい、エルザ・ヴァルランド」


 もはや聞くに堪えなかった俺は、奴の言葉を遮る。


「お前、まだ気付かないのか?」


「はぁ……!?」


「お前のそれ(・・)が、レオニールを負けさせたんだ」


 俺が言うと――コツコツという静かな足元と共に、レティシアが歩いてくる。

 俺の、すぐ隣まで。


「……ねぇ、エルザ。あなた――どうして自分の幸せ(・・・・・)しか考えないの?」


 レティシアが尋ねる。

 憐れなモノを見る目で、憐れなモノへ向ける声で。


 その一言を受けて――エルザの様相が一瞬で変わる。


 レティシアは言葉を続け、


「なにがあなたを焦燥に駆り立てるのか、私にはわからない。きっと理解もできないでしょう。でももっとわからないのは……何故、レオニールの幸せを考えてあげないのか――ということよ」


「…………な……によ…………自分の幸せが一番大事だなんて、そんなの当然じゃ……!」


「ええ、そうね。私だってアルバンに幸せにしてほしいし、アルバンに愛してほしい。けれど――それと同じくらい(アルバン)を幸せにしたいし、(アルバン)を愛したいと思っているわ」


 レティシアは、ギュッと俺の腕に自分の腕を絡ませる。


「……レオニールは、あなたをちゃんと愛してくれたのでしょうね。でもあなたは、そんな彼の愛情に応えたの?」


「――ッ!」


「〝串刺し公(スキュア)〟のこともそう。あなたは彼を利用するだけ利用して、あっさり捨てた……。彼がどんな想いを秘めて死んでいったかなんて、知る由もないでしょう」


「…………う…………ぁ…………っ!」


「……あなたは、自分が幸せになりたいという欲求を満たすためだけに、都合よく他人を利用していただけに過ぎない……。本当に、レオニールも〝串刺し公(スキュア)〟もかわいそうだわ」


「ち……違う……私は…………っ!」


「アルバンとレオニールの剣だって、きっと実力の差なんてなかった。あるのは気持ち(・・・)の差だったのよ。〝愛してもらえている〟〝愛する者と満たし合えている〟という実感が、レオニールには足りなかった……」


 意志の込められた、力強い口調。

 そんな声色の中には、僅かな――けれど明確な怒りが混じっている。


「……アルバンは私を全力で愛してくれる。だから私も全力で、命を懸けて彼を愛する。お互いの幸せを願う気持ちが、私たち夫婦を強くしてくれるの。だから私たちは――〝幸せだ〟って、胸を張って言えるのよ」


 レティシアは淡々と語った後、キッと鋭い視線でエルザを見つめ――。


「〝自分だけが幸せになればいい〟……。そんな風に思っている時点で――あなたが幸せを手に入れる資格なんて、ないわ」


 そう、言い切った。

 ハッキリとした侮蔑を込めて。


「あ……………………あぁ……………………っ!」


 顔色が真っ青になり、愕然とするエルザ。

 

 ようやく気付いたのだろう。

〝自分だけが幸せになればいい〟という身勝手な考えが――最終的に、今の結果を生んでしまったのだと。


 結局、本質的にコイツは自分以外誰も愛してなどいなかった。

 そんな人間が、誰かから愛してもらえるワケがない。


 きっとレオニールだって、エルザの本性に気が付いていたはずだ。

 エルザは本当の意味で自分を愛していない、と。


 最後の瞬間、それ(・・)が俺とレオニールの明暗を分けた。


 本当の意味での〝幸せ〟になんて……見放されて当然だったのさ。


 俺がそんな風に思った、直後――。




「――――いやぁん、素晴らしいわ~レティシアちゃん。流石は〝救国の英雄〟の妻ねぇん♥」




 パチパチパチパチ……という拍手と共に、見覚えのある人物が王座の間へと入ってきた。


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[一言] ざまあみろ、次回、制裁タイム。
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