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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第6章 因縁に終止符を

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第152話 蟻が何匹たかろうが


 ……あぁ、やっと見つけた(・・・・)


 こんなところにいやがったか。

 散々捜させてくれやがって。


 ――エルザ・ヴァルランド。


 愛する妻(レティシア)をこれまで何度も付け狙い、破滅させようとした、我が怨敵。


 ずっと、ずっとずっと、ずぅーっと、その首を胴から斬り離して、地面の上で踏み潰す瞬間を夢見てきたよ。


 だが――夢に見るだけなのは、今日で終わりだ。


 そんな、お前にとっての悪夢(・・)を……現実のモノにしてやる。


「ア……アルバン・オードラン……ッ!」


 俺の顔を見たエルザは両目を見開き、これでもかというほどに表情を引き攣らせる。


 周囲にいる騎士たちも同様に、僅かに身体を逸らして後退りする。

 

 おいおい、失礼な奴らだなぁ……。

 まるで怪物でも見るような目で、人様のことを見やがってよ……。


 まあでも……今だけは少し、その視線が心地いいかもしれないな。


 しばし驚きつつも茫然とするエルザだったが、


「……フ、フフフ……ッ」


 徐々に口の両端を吊り上げていき、小さく笑い声を上げる。


「ああ、そうよね。来る(・・)と思っていたわ。アンタは本当に、私の邪魔をすることしかしないんだから」


「――ふざけんな」


 ベシャッと血だまりを踏み付け、俺はエルザの方へと近付いていく。


邪魔(・・)なのはお前の方だろうが。いつもいつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつも、俺とレティシアの幸せを踏みにじろうとしやがって……」


 俺はレティシアと二人で、静かに幸せに過ごせればそれでよかった。

 俺の隣でレティシアが笑ってくれれば、それでよかった。


 なのに――コイツはいつも、それを邪魔してきた。


 お前は何度レティシアを苦しませた?

 お前は何度レティシアを悲しませた?


 お前は……一体何度、俺の愛する妻を破滅させようとしやがった?


 ――邪魔(・・)だ。

 お前は生きていること自体、邪魔(・・)だ。


「お前が生きてると、レティシアは安心して眠れないんだ。お前が生きてると、レティシアは心の底から笑えないんだ」


 さらに一歩、足を踏み出す。

 ベシャッという滑りのある音を響かせて。


「だからさぁ……死んでくれよ。レティシアの幸せのために、お前は――消えなくちゃならないんだよ」


「うるさいッッッ!!!」


 俺の言葉を掻き消すように、エルザは叫ぶ。


「〝レティシアの幸せのため〟……? アンタのその気色悪い考えのせいで、私がどれだけ不幸になったと思ってんのッ!?」


「あぁ……?」


「死ぬべきなのはアンタの方よ! ――騎士たち!」


「ハ……ハッ!」


「この逆賊を殺しなさい! 今すぐ!」


 周囲にいた蟻共に命令するエルザ。


 同時に、ワラワラと虫けらが俺を取り囲んでくる。


 えっと、全部で何匹だ?

 ひぃ、ふぅ、みぃ……ああ、もういいや。


 蟻なんて、踏み潰せば何匹いようと一緒だもんな。


「「「ハアァ――ッ!」」」


 蟻が数匹束になって、俺に斬りかかってくる。


 ――まず、一振り。

 俺の振るった一振りで、まず三匹の蟻が薙ぎ払われて駆除される。


 続いて二振り。

 今度は、二匹の蟻の頭が床へと落ちた。


 さらに三振り目――を振るうより先に、背後から一匹の蟻が噛み付こうとしてくる。


 なのでクルリと剣を逆手持ちにし、背後に付き込む。

 刺さった感触が手に伝わった後はすぐに引き抜いて、振り向き様に縦一閃に剣を振り下ろした。


 蟻の身体が、まるで花が咲いたみたいに綺麗に左右にわかれて、倒れる。


 ――ここまで、たぶん三秒(・・)ほどだろうか。

 リハビリはもう十分だな。


「ヒ……ヒイィ……ッ!」


 残りの蟻共は剣を握る手をガタガタと震わせたまま、襲ってこようとしない。


 むしろ逃げるようにジリジリと間合いを離していく。


「な……なにしてるの! 早く殺しなさい!」


 見かねたエルザは発破をかけるように叫ぶが、


「い、いいい、嫌だ……死にたくない……!」


「バ、化物(バケモノ)だ……正真正銘の化物(バケモノ)だぁ……!」


「に、逃げろおおおぉぉぉッ!」


 蟻共は剣を捨て、我先にと逃げ出していく。


 へぇ、蟻にしちゃ賢明な判断だな。

 兵隊蟻が女王蟻を見捨てちゃ、おしまいだけどさ。


 もっとも、女王蟻への忠誠なんぞハナからなかったのかもしれんが。


「……残るはお前だけ――……ん?」


 てっきり、この場にはエルザと俺しか残らなかったと思ったが――ふと、奴の横に佇むように、一匹だけ蟻が残っていることに気が付く。


 甲冑と兜で全身を覆い隠した蟻――……いや、騎士(・・)が。


 コイツは、違う。

 〝蟻〟じゃない。


 今逃げ出していった虫けら共とは、全く覇気が違う。




「……流石だね、オードラン男爵」




 一言、その騎士が発する。


 その言葉を――その聞き馴染みのある声(・・・・・・・・・)を聞いた瞬間、俺は自分の頭の中がグチャッと揺さぶられる感覚を覚えた。


「腕に覚えのある騎士たちを、まるで虫けらみたいに斬り捨てるその腕前……。本当に尊敬する」


「………………おい、その声……お前まさか……」


「この瞬間を待っていたよ。キミと一対一で決着をつけられる、今この時を」


 騎士は頭を覆う兜に手をかけ、おもむろに兜を脱ぎ捨てる。


 そして――兜の中に隠されていた顔が、露わとなった。


 短い金髪と精悍な顔つき。

 一見すると優男のようなのに、その瞳の奥には言い知れぬ闘志が宿る。


 そんな、自分を〝騎士(ナイト)〟と呼んで憚らなかった、俺と互角の剣の腕を持つ男――。


 ――レオニール・ハイラントの顔が。


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