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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
第6章 因縁に終止符を

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第143話 代替品の男


《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)


「如何ですかな? これが……小生の本当の姿です」


 露わになった地毛を見せ付けながら、〝串刺し公(スキュア)〟は言う。


 レオニールとは似ても似つかない、むしろ反対色とすら呼べる真っ黒な髪――。


 けれど顔が似ているだけに、レオニールを見慣れている私にとっては、その姿は酷く違和感を覚えるモノだった。


「ククク、やはりあなたも醜い(・・)と思われますか?」


「……醜い、ですって?」


「この顔に不釣り合いな、小汚い髪だと。あのお方は――エルザ様はそう仰られた」


 自らの黒髪をかき上げ、自嘲気味に言う〝串刺し公(スキュア)〟。

 彼は「他の質問にお答えしましょう」と言葉を続け、


「小生がエルザ様に忠誠を誓っているのは、拾って頂いたからですよ――この命をね」


「命を……?」


「そうです。飢餓で死を待つばかりの惨めな貧民でしかなかった小生を、エルザ様は拾ってくださった。……〝顔が気に入ったから〟、という理由で」


 そう言って、〝串刺し公(スキュア)〟は自分の顔を指先触れる。


「ですがエルザ様は、この黒い髪だけは気に入らないと仰られた。顔に不釣り合いだと。故に小生は金の髪を被り、小間使いとして彼女にお仕えしていたのです」


 思い出しながら喋るような、淡々とした口調。

 けれどまたすぐに彼はフッと笑い、


「……長らく、小生はわかりませんでした。何故エルザ様はこの顔をお気に召したのか? 何故エルザ様はこの黒髪がお気に召さないのか? 何故――エルザ様は、小生をお傍に置いてくださったのか?」


「……」


「ずっとずっと不思議でありましたが……少し前、ようやく全てがハッキリとしました。小生は――レオニール・ハイラントの代わり(・・・)であったのだと」


「! レ、レオニールの代わりだと? どういうことだ……!?」


 困惑するローエン。

 〝串刺し公(スキュア)〟はまた自嘲するようにククッと笑う。


「文字通りの意味でありますよ。エルザ様は、本当はレオニールが欲しかった。だから小生に金の髪を被らせ、その姿を瓜二つにさせた……ということです」


「つまり……あなたは自分が、エルザ第三王女がレオニールを手に入れるまでの代替品に過ぎなかったと――そう言いたいの?」


 私は努めて冷静に、声のトーンを低くして尋ねる。

 いや、冷静に尋ねたつもり(・・・)だった。


 でも、胸の奥からとめどなく湧いてくる疑問と嫌悪感のせいで、どうしても声が僅かに震える。


「わからないわ……。それなら、どうして彼女は初めからレオニール本人を小間使いにしなかったの……? そんなの、まるであなたを――!」


「どうでもいい」


 これまでの話し方とは一転、重々しい口調で彼はこちらの言葉を遮る。


「なぜエルザ様がレオニールではなく小生を飼ったのかなど、小生も知りません。……小生には、もうどうでもよいのです」


 ――〝串刺し公(スキュア)〟はゆっくりと、右手の指で挟んだトランプを再度私へと向けてくる。


「エルザ様の望む形ではなかったにせよ、あのお方は無事レオニール・ハイラントを手に入れた。ならば小生も本望」


「あなた……それでいいの!? 人生を弄ばれて、あまつさえ別人の身代わりをさせられたのよ!? そんなのって……!」


 ――酷すぎる。

 最悪だ。あまりにも。


 エルザ第三王女がレオニールを誑かして味方に引き込んだのは、今の彼の話しぶりからして確定だろう。


 イヴァンたちを襲わせたのも、十中八九エルザ第三王女の仕業と見て間違いない。


 とはいえ、何故これまで彼女はレオニールに近付かなかったのか?

 いったいいつレオニールを見初めたのか?

 そして何故、今になって接近したのか?


 どんな事情や意図があるのかは未だにわからないけれど、ハッキリとしている事実が一つだけある。


 それは、彼女は〝串刺し公(スキュア)〟のことなど見ていなかったということ。


 その向こう(・・・)に透けて見えるレオニールのことしか、眼中になかったという事実だ。


 きっとエルザ第三王女は、初めからレオニールを傍に置きたかった。

 だがおそらく、何らかの理由があって彼とコンタクトが取れなかったのだと思う。


 だから顔が似ている〝串刺し公(スキュア)〟に目を付け、レオニールと同じ髪型をさせて、代役の小間使いとして傍に置いたのだ。


 全ては、自分の歪な欲求を満たすがために。


 そしてレオニールがエルザ第三王女へと下った今、彼は……。


 なんて身勝手極まりない行為――。

 人を、なんだと思っているの――!


 私はエルザ第三王女の驕慢さに激しい怒りと憤りを覚え、ギリッと歯軋りを鳴らす。


 予てより彼女は敵であり、白黒つけねばならない相手だとは思っていたが……今の話を聞いて、彼女のことが徹底的に嫌いになった。


串刺し公(スキュア)〟はひと呼吸ほど間を置くと、


「……それでいいか、ですと? そんなのは、あなたの気にすることではありません」


 鋭い眼差しで私を睨み――全身から殺気を放つ。


「さあ、お喋りは終わりですレティシア・バロウ。そのお命……頂戴する」


 戦闘体勢に入る〝串刺し公(スキュア)〟。

 それを見て、ローエンが私を庇うように一歩前へ出る。


 そして今にも戦いが始まる――という、その瞬間だった。


「――あ、無理(・・)ですそれ」


 私の背後から、そんな女性の声がした。


たぶんもうすぐ書籍版の書影が公開されるので、楽しみにしててね٩(ˊᗜˋ*)و

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