第136話 死から拒絶されし者
《カーラ・レクソン視点》
「「「カァー!!!」」」
――〔影分身・乱鴉〕で無数に分身したダークネスアサシン丸が、アンヘラとディアベラに向かって飛翔する。
飛沫のように黒羽根を散らし、クチバシや鉤爪を忍ばせた真っ黒な濁流。
それが彼女たちを飲み込み、すれ違い様に二人をズタズタに斬り裂いていく。
「アハハハハハ!」
「痛いわ! とってもとっても痛いわ!」
「痛くて死んでしまいそう! カラスに啄まれて死ぬなんてロマンチック!」
「でも、痛いだけ! こんなのじゃ私たちは殺せない!」
嬉々として笑い声を上げ、カラスの洪水の中で得物を振るうアンヘラとディアベラ。
……おぞましい。
自分が死なないとわかっているが故なのか、痛みがもはや一種の快楽と化している。
中間試験でペローニを追い詰めた時と違って、今のダークネスアサシン丸は一切の容赦をしていない。
文字通り、二人の肉という肉を全て削ぎ落すような勢いで猛攻を仕掛けている。
そんなダークネスアサシン丸の攻撃を受けた彼女たちは、まるでアンデッドのように皮膚も肉もボロボロだ。
しかし――それでも倒れない。
ダークネスアサシン丸が肉を削ぎ落すよりも早く、アンヘラとディアベラの肉体が再生していくのだ。
「「どうしたの、どうしたの!? 首でも落っことしてくれないと、私たち死ねないかもしれないわ!」」
「――……そう、なら落としてあげる……」
ダークネスアサシン丸の大軍に身を隠しながら、私は彼女たちに接近。
そして苦無を振るい、アンヘラの首を切断した。
「あ……ら……?」
プシッと血を吹き上げ、アンヘラの頭が身体から離れて、地面へと落ちる。
だがそんな様子を見てもディアベラは一切たじろぐことなく、
「ウフフ! 落っことしてくれてありがとう! それじゃあお返しね!」
処刑斧を大きく振り被り、ダークネスアサシン丸たちの中を突っ切ってくる。
そして一切の躊躇なく豪快に振り下ろし、私の身体に斬撃を加えた。
「クッ……!」
スレスレのところで回避行動を取った私は致命傷こそ避けられたが、胴体に斬り傷を負ってしまう。
私は二人から距離を離し、
「……ダークネスアサシン丸、戻って……」
「カァー!」
ダークネスアサシン丸の〔影分身・乱鴉〕を解除。
このまま襲わせても、魔力の浪費でしかないと悟ったから。
一方のディアベラは地面に転がるアンヘラの頭を持ち上げ、
「ウフフ、本当に首を落っことされちゃったわね、アンヘラ」
「……アハハ、そうねディアベラ。でもやっぱり死ねなかったわ。天使は私たちが大嫌いみたい」
「ねえ、ねぇ、身体がないってどんな気分? 気持ちいい?」
「とっても軽やかな気分よ。これが処刑された人の気持ちなのね! 素敵! ……だけど、ちょっと不便かも」
「ウフフ、それじゃあ身体と再会させてあげるわね」
そう言ってディアベラは地面に横たわる首無しの身体へ近付き、アンヘラの頭を切断された首部へとくっ付ける。
するとアンヘラの頭は瞬く間に首と結着して元通りになり――〝アンヘラ・シュロッテンバッハ〟は、ゆっくりと立ち上がった。
「私の首を落っことしてくれてありがとう、カーラ・レクソン。処刑された人の気分を味わわせてくれて、光栄だわ!」
「…………化物め」
――この双子は、殺せない。
文字通りの〝死から拒絶されし者〟。
暗殺者の私にとっては、天敵のような存在だ。
死なない、殺せないというのが、これほど厄介な存在だったとは……。
アンヘラとディアベラは巨大な得物を構え、
「「さあ、さあ、続きをしましょう。今度はあなたに同じ気分を味わわせて――……」」
再び戦闘態勢に入ろうとするが――突然、ピタリと動きを止めた。
「……?」
「「…………レティシア・バロウが……?」」
茫然として目を開き、ブツブツとなにかを呟く二人。
その様子はまるで――誰かに語り掛けられているかのようだ。
「「彼女が……正面から……一人で……?」」
そう呟いたアンヘラとディアベラは茫然とした表情のまま、示し合わせたかのようにゆっくりとお互いの顔を見やる。
「「………………〝罠〟だわ」」





