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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第7話 デブリーフィング

 天真が鬼を撃滅した翌日の夕刻。


「して、タウンの被害状況はどうなっているかね?」


 陰陽連の作戦会議室では、権造と京子をはじめとした〝災鬼対策部隊〟の面々が雁首を揃えていた。


「戦闘区域の建物は、鳥居からここ花房山まではほぼ壊滅状態。いまは修繕作業を行っています。結界が破られた今、意味はないような気もしますが」


 報告書を確認しながら、テキパキと話しを進める女性は吉備マキ。フレームの無い眼鏡を掛けた知的美人で、主に情報管制を担当する人物である。


「問題はオウガの方ですね」


 作戦本部局の法眼アカネが映像をプロジェクターに映し出す。

 先の戦いで手足を失い、ダルマ同然となった見るも無残な人型兵器がそこにはあった。


「技術局長、修復にはハウロング掛かりそうか?」

「そっすねぇ、霊核(コア)は無事でしたが両腕両脚があれじゃあ、五日は掛かりますね」


 パイポを咥えながら軽い口調で答えた痩せぎすな男。彼は陰陽連技術開発局の局長を務める冷泉是清(れいせんこれきよ)。何を隠そう彼こそが、玄真に依頼され『美少女メカふぁいといんぱくつ! ~好きなアイツは大陰陽師3~』を創った人物である。


「五日……」


 不安な面持ちで京子が周囲の顔色を窺う。破られた鳥居の結界は凛音が張りなおした。しかしそれはあくまで応急処置的なもの。彼女の言では持って三日ということであった。

 室内が重い空気に包まれる中、権造の脇に座る若い茶髪の男が口を開いた。


「問題ありませんよ」

「どういうことですか? 燈矢(だいや)君」


 陰日向(かげひなた)燈矢は御門家の分家筋にあたる家柄の長男で、陰陽連では戦術式務局と呼ばれる鬼への対抗策を考案する役目を担っている。年齢はまだ二一で、陰陽連の中では最も若手だった。


「四祈宮作戦本部長、もうオウガに頼る必要は無いんですよ。そうですよね、技術局長」

「いや……でもぶっちゃけアレはねぇ」


 燈矢に話を振られた冷泉は目を泳がせて言葉を濁す。


「まぁ次の戦闘では、僕の戦術式務が鬼を殲滅してみせますよ」


 余裕のある表情でそう語った燈矢は、会議室を後にする。その背中に京子は一抹の不安を覚えた。しかし其処にいた誰もが何かにすがりたい一心だったこともあり、深く追求する者はいなかった。鬼に勝てるのならと、藁をも掴む思いでいるのは皆同じだった。


「また勝手な真似を……ともかく、ネクストの鬼襲来へ向けて各自準備だけは怠らぬよう」


 権造の言葉を締めとして、災鬼対策部隊のデブリーフィングは切り上げられた。


* * * * * *


「ん……」


 まどろんだ意識の中、薄く開いた瞼の先に見えたのは一人の少女だった。窓から射し込んだ木漏れ日が眩しいのか、その愛らしい顔が少しだけ歪んでいる。

 手に覚えた温もりは、戦いに赴く前に交わした握手と同じように温かかった。

 彼女は枕を抱えて今も寝息を立てている。しかも一糸まとわぬ生まれたままの姿だった。


「なんだこれは。俗にいう朝チュンというやつか?」


 気がついた時にはもう、天真の手が少女の胸部に乗っていた。


(ふむ、大きくはないが、小さくもない手に収まる良いサイズだ)

「ふぁ……」


 欠伸と共に大きく身体を伸ばし、凛音が目覚めた。しばらくの間、ぼーっと外の景色を眺めた彼女がゆっくりと天真の方を見遣る。


「寝ている淑女の乳房をまさぐる趣味は感心せんな」

「まさぐってはいない。誇張するな」

「まぁ(しとね)を共にした仲じゃし、若い男はそれくらいの精気がなければのう」

※褥=布団やベッドの古称


 凛音は蟲惑的な笑みを浮かべ、意味深げに自らの下腹をなぞりその指を舐め取った。


「何じゃ覚えておらんのかや? ああも激しく求められては、妾とて応えぬわけにもいくまい」

「……本当か? リアル朝チュンだったのか?」

「さてと、一度家に戻るとするかのう」

「おい待て、冗談だと言ってくれ。事実なら校則違反になってしまう。というかお前いくつだ? 場合によっては青少年の何かが危ない事態に陥ってしまうぞ」


 凛音は天真の追求を無視して、病室のクローゼットを開いた。中には陰陽連から支給された作業衣が掛けられており、テキパキと着替え病室を出る準備を整える。

 ここは花房山の南方に位置する陰陽連管轄下の病院で、天真は先の戦闘後に気を失いここへ搬送されていた。そして目が覚めたのは戦闘から二日後の今日だった。

 病室から出た凛音はスマホを取り出し、陰陽連の回線へと繋げる。


「あーもしもし京子、天真起きたから帰るわ」

『は? ちょっと御前!? 勝手な真似をされ――』


 彼女は用件だけを簡潔に伝えてブツりと通話を切った。


「この『すまた』というのは便利じゃのう」

「スマホだ。文明の利器を卑猥な物にするな」


 快晴で雲一つない青空が広がる暖かな日和だった。まるで一昨日の戦闘など無かったことのように、平穏な世界が病院を出た天真を待っていた。

 しかし街に残された傷跡は消えていない。破壊されたビル。焼け焦げた山の木々。数多くの重機が瓦礫の山々を運び出し、街の修繕に尽力している。


「本当に……鬼と戦ったんだな」

「そうじゃ、御主がこの街を守った。誇ってもよいぞ」


 見慣れた街の景色を眺めていると、オウガに搭乗した時の記憶が鮮明に甦ってきた。


「今頃になって震えが戻ってきた」

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