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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第49話 新たなる道

 最後の鬼、六道逢魔の操る式神を倒してから一週間の時が流れていた。


「――ここは」


 風に揺れるカーテンと、その先に見える緑生い茂る山々と街並み。そこは記憶にある七童子市の景観だった。

 凛音はオウガの十二天砲を受け、イヴリィスと共に消滅したはずだった。その記憶も確かに残っている。ベッドから上体を起こし、凛音は己の両手を見つめていた。


「妾は生きて……おるのか?」

「ようやくお目覚めか。失敗したのかと思ったぞ」


 今しがた病室に入ってきたばかりの天真がそこにいた。


「天真! どういうことじゃ? 何が起きたんじゃ!?」


 困惑する凛音に対し、天真は逆にそれが理解できなかった。


「お前は何を言ってるんだ? 憶えてないのか」

「憶えておる!! じゃから妾は死んだはずじゃろう!? ここは涅槃か!?」

「……あぁ、ナルホドそういうことか」


 それは天真の勘違いであり深読みだった。こういう状況になることを、てっきり彼女が予測していたものとばかり思っていたのだ。だが当の本人はそうではなかったらしい。

 天真は病室の隅にあった椅子に腰を掛けた。


「はよ説明してくりゃれ! 妾は頭がどうにかなりそうじゃあ!!」

「お前は確かに死んだよ。〝肉体〟はな」


 イヴリィスが消滅したと同時に、コクピット内にいた凛音も塵となった。だが魂魄はオウガの持つ『鬼の霊力を集める』機能によって魂魄ごと機体内に封じられていた。そうなったのは彼女が天真や街の人間とは違い、生身の肉体を持っていたからである。


「わ、妾の魂魄を……形代に封じたのかえ?」

「お前はその為に霊力を俺に渡し、ハルナと入れ替わってくれたのかと思ってたんだが」


 当然、それも天真の勘違いだった。

 霊力を分け与えたのも、ハルナと入れ替わったのもイヴリィスとの戦いに勝たせる為。そして自身の記憶を共有したのは、彼に鬼族の歴史を知っておいた欲しかっただけに過ぎない。自分の想いと記憶を、後世に残しておきたったというセンチメンタリズムからだった。


「じゃが形代はどうした?」

「オウガに造るのを手伝ってもらった」


 天真は魂魄を封印する術と、形代を造る方法、その二つをオウガの記憶領域に残されていたデータベースから再現しようと試みた。そしてオウガのサポートを得て、凛音の魂魄を用意した形代に移し変えたのだった。


「父上……」

「お前の魂魄を封じた後、オウガはそれっきり動かなくなったよ」


 オウガはその役目を終えて眠りについてしまった。天真がいくら語りかけようと、人工知能は一切反応を示さなかった。


「――そうじゃ!! 泰山府君祭の術はどうしたんじゃ!! 御主に託したであろう!?」


 自分の置かれた状況を把握できたところで、凛音は肝心なことを思い出した。


「あぁ、それな。結局、その術は使わなかった」


 天真は事も無げにそう言った。


「なっ……莫迦か御主は!! 今まで何の為に戦ってきたと思っておるんじゃ!!」


 凛音は天真の襟首を掴み喚きたてる。それでも彼は飄々としていた。


「そもそもハルナを犠牲にしなくちゃできない術とか論外だろ。それに俺が戦ってきたのは、別に新しい世界が欲しかったわけじゃない。今あるこの世界で出来ることをやるだけだ」

「それで京子たちが納得したのか? 陰陽連が黙っちゃいなかろう」

「そうは言ってもオウガに溜め込んだ鬼の霊力はもう無いしな。術を使おうにも無理だ」


 鬼を封滅し蓄積していた霊力の大半は、壊れた街の結界を修復するのにあてがわれた。


「そうか」

「それにお前の魂魄を封じるのにも、相当な霊力が必要だった。オウガの説明じゃ鬼族は人間よりも魂魄の容量がデカいから、それに合わせた形代が必要なんだそうだ」


 陰陽連は事実上解体され、プロジェクト・オウガが凍結された事。外界の調査を中心にした新たな道を模索する事。その為に新しく創設された組織の事。

 天真はこの七日間にあった出来事を、淡々と凛音に話し聞かせた。


「それとな、逢魔の奴もお前と同じように形代に封じたんだ」

「へ……? はぁ――ッ!? 兄上も再生させよったんか!?」

「あいつは俺らと戦う理由がもう無かったからな」


 逢魔は凛音よりも早くに目覚めた。しかし霊力のほとんどを失い、一人で何かをできるような状態ではなかった。それに泰山府君祭の術が使えない以上、人間たちと争う意味はない。


『感謝などしない。お前たち人間を赦すつもりもない』


 天真にそう告げた後、逢魔は街の外へと姿を消した。


「ほんと、兄妹揃って愛想ないのな」

「御主にだけは言われとうないわ!! というか妾なんか色々と置いてけぼりすぎ!!」

「だからここまで見越していたのかと思ってたんだよ。そのおかげで俺はお前を信じて、十二天砲を撃つことができた。なのに全く後先考えていなかったとはな。恐ろしい」


 凛音から言わせれば逆だ。あの土壇場にあって、天真がそこまでの考えに至っていたことの方が驚嘆に値すべきことだった。


「最後まで御主には驚かされてばかりじゃな。まぁ、とにかくこれで――」

「よし、とりあえず学校に行くぞ」

「はぁ? 何でいまさら」



 凛音は天真と共に七童子高校へと来た。校門の前で二人を迎えてくれたのは、ハルナと京子を始めとした学校の皆だった。


「凛音ちゃん!」


 涙を浮かべたハルナに抱きつかれたまま、凛音は呆然としていた。


「ハルナ……それに京子まで」

「御前、本当にお疲れ様でした。あなたがいなければ何も残らなかった」


 京子が深く頭を下げ、感謝の意を口にした。その周囲でも大勢の生徒たちが、口々に凛音への感謝の言葉を叫んでいる。

 天真と凛音が鬼と戦っていたことは、京子の口から街中の人間達に伝えられていた。自分達がすでに肉体を失っていることも、この世界が現実ではないことも含めて全てが明るみになっていた。


「妾が人間に感謝される日が来ようとはな」

「お前が俺に教えてくれた。無駄な事など何一つないと。だからお前が歩んできた道も、決して無駄じゃなかったってことさ」


 天真は傍らに立つ凛音の手をそっと握る。そして彼女はそれに応えるように、温かい手を固く握り返した。


「もう形代の記憶操作(プログラム)は必要ないようじゃな。しかし全てはこれからじゃぞ。何せ街の外がどうなっとるのか妾にも見当がつかん。まさしく魔界じゃ魔界」


 凛音の言葉通り、本当の戦いはこれからなのかもしれない。

 明日をも知れないこの閉塞した世界で、残された人々は希望と未来を手に入れるために戦い続ける。

 時に西暦二〇二一年、位相世界・亡念郷にて――

『天刻のオウガ』と呼ばれる式神兵器で戦った少年・天道寺天真は新たな道へと進む。


 その果てに待つものが何であれ――、


「どこまでも足掻いてやる」

第一部は一旦終わり。

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