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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第44話 1対5

《目標の撃滅を確認》


「コードSの消滅を確認しました」


 法眼アカネは戦闘車輌の中でそう呟いた。その瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。

 多くの同僚の死を見てきた彼女の心は疲弊していた。

 陰陽連のスタッフで生き残ったのは僅か五〇名にも満たない。仲間の多くは瓦礫に埋もれ、爆発の炎に焼かれてしまった。

 生き残ったスタッフは有事の際に、第二司令所となる七童子東高校を目指していた。


「これで残りは――」


 五体目の鬼を封滅し、残すは六道逢魔のみ。逢魔を封滅できれば泰山府君祭は成就する。

 その希望だけを信じ、京子は感傷を押し殺していた。


「あ、あれは……なに?」


 車輌の窓からふと空を見上げたアカネは、その異様な光景に目を奪われた。

 空が赤く染まっていた。そして波紋のように広がる幾つもの円陣が見える。


「四祈宮さん! 街上空にワームホール多数出現!!」

「なんですって!?」


 二人が異常に気づくと同時に、車輌に積まれたパソコンにもそれを示す反応が現れた。


「この反応は――。そんな……有り得ない」


 ワームホールから黒き鋼の巨人がその威容を現した。数は全部で五機。その全てがオウガと姿形(フォルム)が酷似しており、敵味方識別信号(IFF)すらもオウガと同一であると認識している。

 降臨した五機の黒い機体は、天真の搭乗するオウガを取り囲むように大地へと降り立った。


「凛音、何だコイツらは」

「わからぬが、味方ではなさそうじゃな。何か色黒いし」

「黒いから敵という先入観や決め付けはよくないぞ」

「ふむ、では賭けるか?」

「いいだろう。俺は敵であるに明日の昼飯だ」

「おいいい! それでは賭けにならんじゃろうが! って……漫才しておる場合か」


 五機の正体不明機は仁王立ったまま止まっている。今のところ攻撃してくる気配はない。まさか天真の言う通り本当に敵ではないのか? 

 凛音の脳裏にそんな甘い考えがよぎった時――。


「ここまでよく戦ったね。でも、もう茶番は終わりだよ」


 空間を跳躍しオウガの正面に姿を現したのは六道逢魔だった。


「兄上……」

「まさかここまで事が上手く運ぶとは思っていなかった。礼を言うよ。凛音、そして天道寺天真」

「どういう意味じゃ!?」

「言葉の通りさ。伍戦鬼を全て封滅し、泰山府君祭に必要な霊力を集めてくれた礼だよ」

「そうか……そういうことじゃったのか」

「話が見えてこないぞ。どういうことだ?」

「兄上は利用したのじゃ。妾達だけでなく、これまで戦ってきた伍戦鬼すらも」

「流石に僕でも伍戦鬼をまとめて相手にするのは少々酷だったからね」


 泰山府君祭によって新世界への扉を開くには膨大な霊力を必要とする。それに加えて憑代の巫女も不可欠となれば、向こう側の世界だけでは事を成すのは不可能だった。そこで逢魔は復讐という口実を使い、伍戦鬼をオウガと戦わせて封滅させる計画を思いついた。


「一族を……同胞を利用してまで何をしようとしておる! 兄上の目的なんじゃ!?」

「愚昧ここに極まれりだな。先に裏切ったお前がそれを言うかよ」


 逢魔は大きく息を吐き漏らし、嘆かわしいとばかりに頭を振る。そしてオウガを指差し、細められていた目が見開かれた。


「目的は陰陽連と同じさ。でもね、泰山府君祭は僕が成す」

「泰山府君祭? 例のプロジェクト・オウガというやつか」

「そうじゃ」


 天真は計画の詳細については京子や凛音から聞かされていない。ただ漠然と『世界を創り直せる術』という認識しかなかった。それは余りにも壮大で、現実感がなかった上、天真自身がそれほど頓着していなかったからでもある。


「ニンゲン共の理想とする世界や願いなど、端から消滅させてやるさ」

「俺にも託された想いがある。ここで退くわけにはいかない」


 天真は一切の迷いなく答える。その言葉を聞き終えた逢魔が指を鳴らす。そして五機の黒いオウガの瞳が鈍い光を発した。


「天真、来るぞ!」

《警告。敵機、霊力増大》


 五機のオウガが片腕を突き出し、手甲部に霊子の光が収束していく。


「見た目だけでなく武装も同じか。オウガ、デフレクターを最大出力で展開しろ」

《了解。障壁を最大出力で展開》


 五方向から光の熱線が解き放たれる。

 オウガはその全てを展開させたデフレクターで遮った。消散する霊子の光の中で、正面の敵機に狙いを定め操縦桿を引き起こす。


「続けて七番武装を九秒後に展開。二秒後に追加の拾参番だ」

《了解。七番、拾参番、タイマーセット完了》


 オウガは敵機との距離を詰めながら童子切を抜き放つ。それを迎え撃つ敵が再びディパルサーを構えた。同時に残りの四機も、オウガの背後からマルチブラスターを照射。全方位から回避不能のレーザー群が襲う中、天真の意識は狙いを定めた正面の一機のみに集中していた。


「確かこうだったか」


 眼前に迫ったディパルサーの光を、オウガは手にしていた童子切で両断した。


「れ、霊子光を斬った!? 相変わらず無茶苦茶な男じゃな」

「外道丸がやっていたことを真似ただけだ」


 そのまま敵の懐に踏み込んだオウガが白刃を閃かせる。刃は機械仕掛けの巨人の頭部を削ぎ落とし、赤黒い粒子が切断面から噴き出した。


「敵のマルチブラスターが来る!」

「折込み済みだ」

《七番武装・陰陽霊子片(チャクラ・フレア)を散布》


 オウガの両肩部から小型の球体が放出され、白光を伴ってレーザーを撹乱させる霊磁場が発生する。四機の敵から放たれた攻撃は、目標であるオウガを見失いあらぬ方向へと飛散した。


《拾参番武装・天弓【雷上動】神器解放》


 オウガの増加装甲〈金剛装衣〉が分離・変形し、一張りの大弓へと形を変えた。


「なっ!? よせ天真! いくら御主でも死ぬぞ!」


 オウガは外道丸戦でも神器を解放しており、天真の霊力は大きく消耗している。現状では武装の展開自体を出来ても発動することは不可能だった。だが凛音の警告に対し、天真は先ほどと同じ言葉を返した。


「折込み済みだと言ったはずだ」


 天真の全身を覆う桔梗の紋様が輝きを増していく。握り締められた操縦桿を伝い、溢れ出す光が空間を支配する。そしてオウガは頭部を失った敵機の霊核に拳をめり込ませた。


《敵機の霊子を吸収完了。メイン葬者に変換(コンバート)

(霊子変換まで可能とは……明らかに全盛期の玄真を超えておる)


 凛音は天真の陰陽師としての才能に驚愕した。だが真に驚くべきは彼の戦術眼にある。これまでの戦い、そのほとんどが天真の戦術眼によって、敵の思惑や弱点が看破されてきたのだ。


《【雷上動】霊子矢精製――、装填完了》


 オウガは巨大な弓を上空に向かって引き絞る。


「降り注げ……星墜(メテオリック)とす()限二対(レイン)の早矢」


 放たれた一筋の光が天へと昇り、取り囲む四体の敵機の直上から光の矢が降り注いだ。篠突く雨がごとき無数の矢は敵を切り刻み、破砕していく。圧倒的な火力を前には展開させていた障壁すら意味を成さず、光の雨に蹂躙された機体は灰燼となって消滅した。


「こんな紛い物をいくら用意したところで時間の無駄だぞ」


 鳥居の上に座り、戦いを傍観していた逢魔に向かって天真は言い放った。


擬似霊核(ダミーコア)を使った程度の贋作ではこれが限界か。だが黒王呀(こくおうが)を倒したぐらいで図に乗るな。そいつは向こう側の世界で、貴様ら陰陽連が残していったデータを元に、僕が複製しただけの玩具に過ぎない」


 首を刎ねられた黒王呀まで空間跳躍した逢魔がその肩に降り立つ。そして右手に霊力を集中させ、機体に送り込みはじめた。


「何をするつもりだ?」

「僕は熾鬼神化ってやつが嫌いでね。確かに強くなるけど、不細工だし元の姿に戻れなくなるなんてナンセンスだよ」


 黒王呀の機体が逢魔の触れた部分から変色し赤みを帯びていく。さらには失われた頭部、各装甲の部位までが再生、再構築され新たな式神へと生まれ変わった。

 赤銅に染まった外装、猛る炎髪、頭部から堅く突き出た二本角(デュアルセンサー)。そしてオウガの天輪と類似した炎の輪が機体背部に備え付けられている。


「さぁ、やり合おう。存分に抵抗してみせろ」

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