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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第41話 惨劇・弐

 司令所に権造だけを残し、京子たち陰陽連の職員達は脱出を始めた。そんな中、外道丸はオウガの格納庫に侵入し、所構わず破壊の限りを尽くす。


『はっはっは――ッ!! 燃えろ、焼け死んで潰れろぉ!!』


 爆発が立て続けに起こり、施設内が紅蓮の炎に包まれていく。逃げ遅れた職員達は炎に焼かれ、瓦礫に押し潰されその命を散らしていった。

 悲鳴と断末魔が錯綜する地下基地の中、外道丸に引き裂かれ息絶えていく者もいる。この時点で事実上、陰陽連は崩壊したも同然だった。


「冬彦くん達は避難しないのかい?」


 技術開発局室では冷泉是清が、呑気にパイポを咥えながらパソコンをいじっていた。その部屋の隅では天真の両親である冬彦と夜白が同じくパソコンに向かい合っている。


「僕は天真くんの親ですからね。息子が必死になって戦っているのに、親の僕達が真っ先に逃げるわけにはいきませんよ。局長は逃げてなくていいんですか?」

「まぁぶっちゃけ怖いけど、こいつだけは仕上げておきたいんでね」


 冷泉が持てる全ての技術と知識を集約させたオウガの最終強化計画。それは一〇年前から推し進めてきたもので、本来なら玄真のために造り上げるものだった。


「あの二人だけだ……僕のゲームを面白いって言ってくれたのは」


 冷泉は陰陽師の大家でありながら、自分の使命などに興味はなかった。その責任感も他のスタッフに比べれば希薄だったろう。ただ玄真と天真は自分の創ったゲームを、面白いと言ってプレイしてくれた。それがこの上なく嬉しかった。だから二人の力になることを決めたのだ。


「すまないね、夜白さん。君まで巻き込んでしまって」

「大丈夫よ。あの子がきっと未来を作るわ」

「あぁ、彼は正真正銘、僕らの自慢の息子だ。だから信じているよ」


 外道丸が格納庫を破壊し尽くし、さらに基地内部へと侵攻する中、天真は未だ動く気配のないオウガのコクピット内で俯いていた。


「くそっ……どうすればいい。――ッ!?」


 瞬間、天真の第六感が消えていく多くの魂魄を感知した。それは今まさに基地内で死んでいく人間の魂だった。心を過ぎ去っていく見知った人々の命の灯火。その中には冷泉や両親のものも含まれていた。


「と、父さん? 母さん……う、嘘だろ…………?」


 締め付けられるような胸の痛みと、絶望感に晒された天真の精神はすでに崩壊寸前だった。理性で抑え込んできた憎悪が再び彼の視界を赤く染めていく。そして天真の中で何かがぶつりと途切れた。


「うあああああああああああああぁ――――――――ッ!!」


* * * * * *


『おらぁ!』


 司令所に直通する隔壁を破壊した外道丸を待っていたのは、陰陽連の総司令官である御門権造だった。司令所の中央デッキにある座席に深く腰を掛け、煙草を吹かしている男の前に現れた巨人が赤い瞳を細める。

 強化ガラス越しに見える権造の相貌に、外道丸は見覚えがあった。


『……見た顔だな』

「そうかい? 儂は初対面だと思ったがのう」

『思い出した。その憎たらしい面、貴様、御門家の人間だろう』


 その記憶は遥か彼方、まだ権造が生まれるずっと昔のものであり、彼の先祖のことを指している。それは鬼と陰陽師の長きに渡る闘争の歴史を物語っていた。


「如何にも。儂が陰陽連の現コマンダー、御門権造だ」

『ひはははっ! あの落ちこぼれの御門が陰陽連の頭張ってんのかよ!? 確か御門家ってのは安倍氏の祖、つまり土御門家から絶縁された落伍者の集まりだったな。その姓は貴様ら一族の未練の表れってわけだ』


 御門家は陰陽師の家系としての位は決して高い家柄ではなかった。御門家だけでなく、この七童子市に存在する陰陽師の一族は、様々な理由で京の都から左遷、転封された者達だった。その中でも天道寺家は、その強すぎる霊力故に陰陽寮から半ば追放された家柄である。


「……よう喋る鬼だな。まぁ、否定はせんが」

『あぁ、ちなみに向こう側の世界に残っていた陰陽師も全部ブチ殺したぜ。と言っても霊力を持っている奴は大していなかったけどな。それより国外の祓魔師(エクソシスト)とやらの方が骨があった』


 日本の霊能力者のほとんどは似非であり、現代においては稀有な存在だった。それは長い年月によって鬼の血脈が薄れていったからだ。だが海外には陰陽師と起源を同じくする血族が残っている。それが祓魔師と呼ばれる者達であった。

 それは祓魔師の祖である半神半人が、太古の昔に存在していたということを意味する。では彼等は一体どこにいったのか。その答えは戦争による人為淘汰。人類によって滅ぼされたというのが闇の歴史として残っている。日本の鬼のみが滅ぼされず、陰陽師によって封印されていただけなのだ。しかし封印という行為自体が人類にとって裏目となってしまった。

 時代が流れるにつれ霊能力者が衰退したことで、封印は解かれ対抗手段が無くなったのだ。


「そう、陰陽師の失敗はそれさ。あの時、情けなどかけずに僕らを殺すべきだった」

「六道……逢魔」


 権造の背後の扉が開かれ、逢魔がその姿を現した。


『おい、逢魔。そいつは俺が殺すんだから邪魔するなよ』

「好きにしなよ。僕は他にすることがある」


 逢魔は次元を跳躍し、そのまま再び何処かへと姿を消した。

 司令所に残されたのは外道丸と権造だけで、今も尚、避難警報が鳴り響き続けている。瓦礫に埋め尽くされた基地内での死者はおよそ三八〇名。形代が燃え、同時に封じられていた魂魄も消滅し再生は不可能な状態だった。


『さてジジイ、そろそろ死んどくか。遺言があれば聞いてやるよ』

「ほう、見かけによらず良いところが――」


 権造の言葉を待たずして、外道丸の拳がガラスを砕き割り司令所を叩き潰した。


『んな暇なことすっかよ。莫迦が』


 外道丸がオウガに止めを刺さず、陰陽連の基地を先に襲撃した事に理由はなかった。強いていえば憂さ晴らし程度のことだ。向こう側の世界で人類を殺し尽くした外道丸にとって、陰陽連に残った者達など何の脅威でもない。この時までは確かにそう思っていた。


「くっ、くくく」


 瓦礫に下半身を潰されながら、瀕死の御門権造が不敵に笑っていた。


『あぁ?』

「貴様は……もっと警戒すべきだっ……た。なぜ儂が……一人で此処に残っていたのか。それをもっと…………深く考えるべきだったのだよ」


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