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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第3話 襲来

 狭く長い通路の先を京子が歩き、そのまま目も合わせようとせず彼女は語りだした。


「ここは花房山の地下にある施設で、我々〝陰陽連〟の基地になっているの」


 花房山は七童子市の北にある花房丘陵の俗称。さほど大きい山ではなく、天真は小学生の時に遠足などで訪れたことがあった。


「おんみょうれん?」

「平安時代から続く極秘組織の名称で、この七童子市の中枢を担っています」


 そんな大雑把な説明をされたところで、やはり天真には自分の置かれた立場が理解できるわけもなかった。


「そして陰陽連はこれから現れる敵性体と、戦う為に組織された軍事力でもある」

「さっきも言っていたが敵とは何だ? まさか宇宙人が攻めてくるとでも?」

「鬼が……来るのよ」


 京子がそう口にした直後、施設内にサイレンが鳴り響きだした。


「なんだ?」

「アカネ、状況は?」


 京子は端末を取り出し、敵の観測を行っていた司令部へ事態の確認をする。


『来ました! ゲート奥部から強力な霊子反応です!』

「このまま〝葬者〟を連れて格納庫までいく。オウガの出撃準備を早急にしておきなさい」

『了解です』


 司令部との通信を切り、一層に険しい表情となった京子は歩く速度を速める。


「予測よりも大分早かった。やはり観測班の情報はアテにできないか」


 そんな風に愚痴を吐き捨てながら歩く姿は、天真が見たことのない京子だった。

 高校では常に冷然とした態度で、何にも動じず、感情をあまり表に出さない女性。悪く言えば鉄面皮だった。しかし長い付き合いである天真は、彼女を実の姉のように思っていたし、不器用なだけで優しい女性であることも知っていた。


「京子ちゃん、本当に敵が……鬼ってのが来るのか?」

「正式名称は〝因果調整律顕現体・災鬼〟。人間を喰らい、我々の世界を破滅に導く存在。奴らは一〇年前に一度現れている」

「一〇年前!? 俺が六歳ぐらいの頃に……そんなの聞いた事ないぞ」

「覚えていないのは無理もないわ。まだ幼かったし、君達の世代はシェルターに避難していて実際に鬼を見ていないのだから」


 京子の説明を聞いた天真の胸中には、いくつかの疑問と疑念が浮かび上がってきた。


(六歳の頃のことを覚えていない? そんな大事を普通わすれるだろうか)

「その時はどうなったんだ?」


 京子は巨大なシャッターの前で足を止め、俯きながら天真の問いに答えた。


「……撃退はした。が、倒したわけではない」


 京子が壁に備え付けられた機器を操作すると、重々しくシャッターが上がり始める。そして橙色のランプが順々に点灯していき、進むべき道を示していた。

 再び薄暗い通路を進むこと五分――、京子と天真は目的の格納庫まで辿り着いた。


「こ、これは……まさか」

「これが対災鬼用霊装人型兵器。正式名称は〝第七世代型 學天則(がくてんそく)【天刻】〟。

私たち陰陽連では〝天刻のオウガ〟と呼んでいるわ」

「巨大……ロボット?」


 天真は直立している巨大兵器を前にして、馬鹿みたいに口を開けたまま見上げていた。

 それはテレビなどでよく見る現代科学で作られた細身のロボットとは違う。腕も脚も分厚い装甲で覆われた重装甲兵器。肉厚のパワーレスラーを思わせる頑強なボディは、まさに戦う為だけに造られたと言える代物だった。


『総員、第一戦闘配置! 繰り返す! 総員、第一戦闘配置!』


 施設内にアナウンスが響き、再び京子の端末に司令部付きオペレーターから通信が入る。


『四祈宮さん! 結界がもう持ちません!』

「主モニターに出して」


 格納庫内にある大型モニターに映し出されたのは、花房山から視た七童子市の全景だった。

 五キロメートルほど離れた場所に、真紅の巨大な鳥居が見える。元来、神域への道を示す門として造られた厳かなその建造物の中心に、赤黒い何かがわだかまっていた。


「あれは……」

「鬼神不葺御門の結界が破られる。鬼がこちらの世界にやってくる前兆よ」


 京子の言葉の直後、鳥居から巨大な二本の腕の様な物が出てきた。その腕が左右の柱を掴み、内部から無理やり巨体を這い出させるようにして敵は現れた。

 赤黒い焔を全身に迸らせたそれは、万人がイメージする鬼とは全く異なる造型だった。


『災鬼識別コードB……【天狗】です!』

「天狗……? 鬼じゃないのか?」

「天狗も鬼の種族よ。そもそも鬼の語源は(おぬ)であり、『この世ならざるもの』の総称とされているの。コードBに関して言えば、頭部が鳥に類似していることから、鴉天狗を略し天狗と呼称しているわ」


 その全長は軽く二〇メートルを超える黒い外殻に覆われた巨人。怪物そのものだった。

 モニター越しに見ているだけの天真には未だ信じられなかった。だが完全にその全身が鳥居をくぐり抜けてきた直後、地響きが轟き、彼のいる施設にまで震動が伝わってきた。

 まだ距離があるせいか、その揺れ自体は大したことはなかったものの、天真はその揺れ以上の衝撃を感じていた。平たく言えば恐怖し慄いていたのである。

 背中を嫌な冷たい汗が流れていくのが分かった。心臓が早鐘を打ち、内臓が浮いた感覚に苛まれていく。


「あ、あんな化け物を相手にどうするんだ?」


 動揺している天真の顔を正面から見据えて、京子は毅然とした態度で言い放った。


「――天真、あなたが倒すのよ」

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