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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第33話 シンカ

『我が力を看破したことは素直に褒めておこう。しかしすでに呪術は完成されている。残された手足で再び誘爆を試みるかね?』


 毘沙門はそう煽るが、当然のことその手段は使えない。この警戒された状況では意味がない上に、戦闘能力が落ちていくだけである。


「いや、その必要は多分もうない」

『なんだと?』


 敵の能力が判明して尚、不利な状況は変わっていない。オウガにかけられた呪いを解除できなければ、浮遊する無数の機雷源へ飛び込むようなものだ。だが天真は笑みを浮かべていた。

 それは決して余裕からではなかったが、不思議な高揚感が胸の奥から込み上げてきていた。

 天真の髪が蒼みを帯びていく、そして再び額に桔梗の紋様が浮かび上がった。


「オウガ、複写武装を展開しろ。座標は敵の真正面だ」

《了解。複写武装・陰陽歪曲輪(チャクラ・ディストーション)を展開》


 オウガの機体前方に紫色に光る円形の紋様が出現する。それは紛れもなく、先の戦闘で羅刹が展開させた空間同士を繋げるゲートだった。


『き、貴様――それはッ!?』

「近寄れないなら、ここから殴るだけだ」


 オウガが展開したゲートに向かって残された右拳を打ち抜いた。

 数瞬遅れて、捻じ曲げられた空間を超えてきたオウガの鉄拳が敵の頭部を捉える。


『ぐおおおおぉ――ッ!!』


 不意打ちとなる一撃を受け、鬼の巨体が宙空を躍るように吹き飛んだ。地響きと共に大地へ倒れ伏した毘沙門は、想定外の事態に戦慄していた。

 まさか同胞の術を、忌敵である人間の兵器が使ってくるなど想定外でしかなかった。そしてこの時、毘沙門の脳裏に最悪のイメージが浮かんできた。


『姫様、そ……その式神はまさか!?』

「毘沙門よ、汝の考えている通りじゃ。故に汝では勝てぬ」


 毘沙門を吹き飛ばした後、オウガの機体に広がっていた模様が消え始めた。


「やはり呪術の発動と解呪条件はイコールだったようだな」


 毘沙門が発動させた呪術は、強力な反面、相応の脆さとリスクがある。まず第一に呪いをかけた相手に接触してはならない。接触を許した場合は、己に呪いが返ってくるという危殆があった。

 一般に『コックリさん』など、呪術の手順や条件を間違えることで、術者本人に災厄が降りかかる事と同じ因果応報の原理である。

 実際には爆弾ではなく、爆符と呼ばれる陰陽師が妖退治に用いる霊符。さらに毘沙門の呪術によって霊力を吸収し威力を増す仕組みになっている。

 しかし呪術の反動はそれ即ち、すべての爆符が毘沙門自身に襲い掛かることを意味していた。


「天魔伏滅、急急如律令」

『貴様ぁ――ッ!!』


 殺到した霊符が起爆し、大気を震わせるほどの衝撃と火柱が全てを焼き尽くしていく。その業火の中で怨恨に満ちた叫び声を上げ、毘沙門の巨体が燃え上がる。

 戦況を見守っていた陰陽連の人間達は勝利を確信していた。しかし事はそれほど容易くは運ばなかった。


『ヴオオオァ――ッ!!』

「なに!?」


 毘沙門の巨体を覆っていた包帯が焦げ落ち、赤黒い瘴気を纏った身体が露わになっている。それはこれまで戦った鬼と類似した四肢を持つ外見だった。


『冥府への道連れにしてくれるわぁ!!』


 突撃を仕掛けた毘沙門がオウガに組み付き、最後の霊力を振り絞りだした。


「こいつ自爆する気か!?」

『ふははははっ! 魂魄ごと消滅させてやる!! 南無三!!』

「天真! はやく毘沙門を引き剥がせ!」

(駄目だ。ここで爆発すれば街ごと消える)

「させるかぁ――ッ!!」


 一瞬の閃光の後、二体の巨人の姿は消え失せていた。


「アカネ! オウガはどこに消えたの!?」

「オウガの反応、七童子市の上空……衛星軌道上です!!」

空間跳躍(テレポート)したっていうの!?」


 衛星軌道上まで転移したオウガは、自爆する直前の毘沙門を蹴り飛ばした。

 毘沙門が重力に引かれ離れていくオウガにその手を伸ばす。だがその願いは届かず、虚空を掴むだけだった。


『ここまでか。姫様、先に逝っておりますぞ』


「……莫迦者が」


 体内で圧縮させた霊力を内部から爆裂させ、毘沙門は星屑となった。


《目標の消滅を確認。状況終了》


 天真は空間跳躍によって膨大な霊力を消耗し、毘沙門が爆散した直後に気を失っていた。



* * * * * *



 天真は毘沙門との戦いの最中、自身の内にある奇妙な感覚に気付いた。そして同時に知らないはずの記憶、その片鱗が流れ込んできていた。


 記憶の中の少年は日夜、妖や怨霊といった人外を相手に戦っていた。戦い続けていた。そして、幼い頃から〝見鬼〟――人外が見える特異な才能――であったため、周囲から怖れられて育ち、彼はずっと孤独だった。両親ですら彼を存在しない者のように扱い避けていた。

 少年の家は地方の没落した旧家だった。

 元来は陰陽師の家系ではなかったが、少年の実力と名声が朝廷に認められたことで官位が与えられた。

 当時、京のみならず日本全土には妖の類が跳梁跋扈していた。

 彼の有名な大陰陽師・安倍晴明が護る京の都以外にも、龍脈が大きく乱れている場所が多く存在し、その鎮圧に数多の陰陽師があてがわれていた。

 少年は七童子市、旧名・七鬼の里と呼ばれる場所でその任にあたり、同僚の陰陽師と共に妖の調伏、封印を行ってきた。少年にとってはこれまでと何も変わらない日々だった。

 そんな中、彼はある時一人の少女と出会った。

 桜が散り始めた季節、舞い散る花びらの雨の中で少女は微笑んでいた。

 そして覚えの無い記憶はそこで途切れていた――。

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