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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第28話 デート

 オータムランドは七童子市唯一の遊園地で、秋には紅葉狩りも兼ねたイベントが催されたりなど、地元での人気は高いテーマパークだ。

 当日は祝日ということもあり、来場客はそこそこ多かった。

 客層は家族連れが多い印象で、まさにローカル遊園地といった様子。天真も幼い頃に、何度も家族で来たことがあった。


「おおっ! これが『ゆーりんちー』か!? 賑やかじゃのう!」

「遊園地な。中華料理じゃないぞ」


 凛音は初めて目にする数々のアトラクションに興味津々。外見相応の反応を示していた。

 天真は少し前に歳を尋ねたが、凛音は教えてくれなかった。

 淑女に年齢を問うなど『でりばりー』がないとかナントカ。

 陰陽連が平安時代から続く組織で、その時分から彼女が生きているのだとすれば、少なくとも一二〇〇歳は越えている。鬼は不老長寿の一族だった。

 ただ凛音を見ている限り、精神は肉体年齢に影響を受けるようである。長命だからとはいえ、悟りを開いた仙人のような風格はあまり感じられない。

 こうして無邪気にはしゃいでいるのがその証拠だ、と天真はそんなことを考えていた。


「時に天真よ」

「どうした?」

「なぜ休日に学生服を着ておるのじゃ」

「楽だからだ」


 それは身も蓋もない理由だった。


(本当に可愛げの無い男じゃ)


 凛音の思い出にある人物は、大らかで誰に対しても思いやりがあった。

 誠実で和歌を詠むのが上手く、陰陽師でありながら物の怪にすら情けをかける。そんな優しく雅やかな人物だった。そういう意味では、天真はまったく逆である。空気が読めず、無愛想な上に目つきも悪い。口を開けば妙な説得力がある屁理屈ばかり。

 似ているところといえば、容姿と歳よりも落ち着きがあることぐらいだった。


「それより、なぜハルナもいるんだ」


 天真は凛音の背後で縮こまっている四祈宮ハルナに視線を向けた。


「……ごめん」

「いや、別に謝るようなことじゃないが」

「妾が誘ったのじゃ」


 天真を誘ってはみた凛音だったが、いざ二人きりで出掛けることに彼女は不安を覚えた。そこでハルナを半ば無理やり連れてきたのである。

 ハルナは邪魔をしたくないと何度も断ったが、あまりにも必死に頼まれたことで、仕方なく付いていくことにしたのだった。


「まぁ二人より三人の方が楽しかろう。そ、それよりもだ――」

「ん?」

「妾の本日の装いに何か『せめんと』はないのか?」

「コメントな。服ガビガビになるぞ」


 凛音はいつもの和服とは違う、純白のワンピースをひらりとなびかせ見せびらかす。

 肩口と膝下がシースルーになっており、柔らかでいて凛音の艶やかさを引き立てていた。

 昨晩、ハルナに電話で相談したところ、彼女が中学生の頃に着ていた物を譲ってくれたのだ。

 ハルナ自身はサイズ的に(主に胸が)すでに着られないので、いわば御下がりである。


「…………」


 しばしの沈黙が訪れた。


(やはりこの唐変木に聞いたところで無駄じゃったか)

「似合っている。元が綺麗だし、何を着ても似合うとは思うが」


 天真は見たまま思った事を凛音に伝えたが、その言葉は彼女にとって想定外であった。

 そして直後に顔から火が出そうなほど赤面し、恥ずかしさが込み上げてきた。


「しょしょしょうか! それにゃらよいのじゃ……うん、よいのじゃ」


 言葉を噛みながら呵呵と笑うも、完全に不意を突かれた凛音は動揺していた。


「それと、ハルナもよく似合っている」

「えへへ、ありがとっ!」


 言われたハルナは朗らかな笑顔を向けて素直に喜んだ。

 天真がついでで他人をフォローするような少年ではないことをハルナは知っている。

 故にその言葉は本心だと分かっていた。だが凛音からは誰でも彼でも適当に褒めているように見えてしまい、少しだけ彼女の機嫌を損ねてしまった。


「ほらっ、ぼさっとせんで行くぞ!」


 駆け出した凛音の後を追って、天真は「やれやれ」とぼやきながら歩き出した。


 それからジェットコースターにフリーフォール、揺れる海賊船と、あらゆる絶叫系、及び回転系のアトラクションに挑むこと二時間。


「おろろろろろ。うぅ……ぎぼぢわるい。おろろろろ」

「ちょ、凛音ちゃん! 大丈夫!?」


 始めこそ愉しかったものの、途中から調子に乗り過ぎた凛音は青ざめた顔でベンチにもたれかかっていた。完全な乗り物酔いである。

 一方、天真は園内にある自動販売機の前に来ていた。酔った凛音のために冷たい飲み物を買いに来たのだ。


(とりあえず紅茶でいいか)


 凛音の好みなど知らない彼は無難な飲み物を選択し販売機のボタンを押した。しかし出てきたのは何故か温かいお汁粉だった。


「……厄日だ」


 戻ってきた天真から飲み物を受け取った凛音の表情はやはり微妙なものだった。


「お汁粉って、まぁ好きじゃけども」


 アトラクションに乗っている最中も、天真は決して愉しそうな顔はしていなかった。

 いつもと同じ無表情で、何を考えているのか見た目では分からない。元より彼が遊ぶために来たのではないことを凛音は知っている。娯楽を嬉々として、表情に出して楽しむような男でないことも。


「そうだ、お土産買ってくるねっ!」


 ハルナはそう言い、天真と入れ替わる形で物販店へと入っていった。彼女なりに気を利かせたのだろう。残された天真はしばらく無言のまま、ぼーっと空を眺めていた。


「前から一度訊いてみたかったのじゃが」

「なんだ?」


 天真はお汁粉缶に口を付けながら、かしこまっている凛音の言葉に耳を傾ける。


「『やきうぶ』はなぜ辞めたのじゃ。好きだったのであろう?」

「京子ちゃんに聞いたのか……」

「あぁ、理由は知らないと言われたがの」

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