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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第24話 虚妄の青春行進曲5

「それで、一応は言い訳と御託を訊いておこうかしら」


 生徒指導室で正座を強いられ、死刑執行を待っていた咎人達の姿がそこにはあった。

 京子は腕を組みながら、三人の教え子に侮蔑の視線を向ける。そして彼女の横には顔を赤らめたまま、しゅんと俯いているハルナがいた。


「久那木、君が首謀者だな」

「なっ……いや俺じゃないっす! 景虎です!」

「てめぇ、ホントにボケカスだな! そもそもバレたのはアホ天真の所為だろ!」


 醜い言い争いの中、天真はとぼけた表情のまま小さく手を挙げた。


「覗き行為をしていたのは認める。だが冷静に考えてほしい」


 この期に及んでこの少年は一体何を言わんとしているのか。相も変わらず天真の考えていることが、京子にはまったく理解できなかった。


「ほ、ほう……では君の言い分を聞こうか、天道寺」


 天真は大きく息を吐いて、京子の顔を正面から見据えて口を開いた。


「結局、和馬と景虎は女子の裸を見れなかった。そして俺が見たのはハルナの裸だけだ。幼い頃に幾度となく見たハルナの裸だけだ。よって何も問題は生じていない」


 その言葉の後は誰もが閉口し、室内は静まり返っていた。

 京子は頬をぴくぴくと痙攣させ、どこから怒っていいのかすら判断に困っている。


「大将……やはり天才か」

「いや、だからただの馬鹿だろ、ボケ」


 結局その後は三人とも京子から拳骨を受け、一時間以上に渡る説教が続いた。


「厄日だ」


 覗き行為に関してはハルナが女子を説得し、大事にならなかったことが救いである。ただし翌日からしばらく、女子達からの視線は厳しいものだった。


 その後、天真は陰陽連基地へ向かうために教室で帰り支度をしていた。

 下駄箱で靴を履き替えている途中、背後に感じた気配――。

 振り向くとそこには一人の男子学生が立っていた。


「天道寺、ちょっと面かせや」


 卑屈そうな面相をし、時代錯誤も甚だしいリーゼント頭の少年。

 襟章は『Ⅱ』。彼は上級生だった。


「……手短に頼むよ。先輩」


 体育館の裏、人気の無い場所に連れてこられた天真は問答無用で殴られた。


「ぐっ!」


 殴られた拍子に口の中が切れ、鉄の味が広がっていく。しかし自分がなぜ殴られたのか、そんなことを考えるのすら面倒だった。どうせ大した理由でもないだろうと思っていた。


「お前、四祈宮のお気に入りだからって調子に乗るなよ」

(ほら、そんな程度の理由だ)

「気が済んだのなら、もう行っていいですか。用事があるんで」


 言いながら冷めた視線を向けられ、不良少年の機嫌はさらに悪くなった。そして追撃の拳が天真の腹部にめり込む。鳩尾に響き思わず悶絶した。


「っ……がはっ!」

「前々からその目つきが気に食わなかったんだよ。死んだ魚みたい目しやがって」


 くだらない。くだらない。目の前の男はなぜこんなにくだらない理由で自分を殴るのか。

 天真は怒りを通り越してなぜか笑えてきた。


「はは……いいよな、アンタは」

「あ?」

「何も知らず馬鹿みたいに,人を殴って憂さを晴らせば気が済むんだからな。そのセンスのない頭の中に何が詰まってるんだ?」


 その言葉と薄ら笑いは、不良少年を激昂させるには十分なものだった。硬く握られた拳が天真の顔面に再び打ち下ろされる。

 しかし、その拳は当たる直前に止められていた。


「て、てめぇ……久那木」

「そのくらいにしてもらえませんかね。こいつ俺のダチなんで」


 不良少年の手首を鷲掴み、和馬はいつものニヤけ面を浮かべていた。だがその目は笑ってなどいなかった。


「てめぇには関係ねえだろ。俺はこいつを……うっ!?」


 気がつくと金属バットの先端が目の端に見えていた。不良少年の脇で、彼にバットを突きつけていたのは景虎だった。


「ボケが。そいつは俺の……俺がブチのめすんだよ。勝手に手だすな」

「なんだトラ、『知ったこっちゃねえ』とか言ってなかったか?」

「うっ、うるせえ!!」


 和馬と景虎に両脇を固められ、不良少年は己の分の悪さを悟った。そして舌打ちをしながら何処かに去っていった。


「大将、大丈夫か? 派手にやられたなぁ」

「このくらい何ともない」


 言って、天真はよろけながらも立ち上がった。


「らしくねえよ、ボケ。なんだそのザマはよ」

「俺は喧嘩するほど暇じゃない」


 元より天真が暴力に訴えることなどしないことを景虎は知っている。彼が言いたかったのはそんなことではなかった。


「ちげえよボケ! あんな言い方すれば火に油だろうが! つうか、お前はあんなこと言う奴じゃなかっただろうがよ!」


 景虎が怒っている理由は天真にもなんとなく理解できた。自分らしくないという自覚もあった。だがそれすら今の天真にとってはどうでもいいことだった。


「どうせ全部ニセモノなんだ。この痛みも……苛立ちも」

「大将……?」

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