第19話 世界の真実
「……何が、どうなったんだ」
気が付くと、半壊したタケミカヅチがオウガの前に倒れていた。
「御主、覚えておらんのか?」
天真は出撃した後の記憶が曖昧だった。
阿修羅を倒したことすら、薄らとしか思い出せないでいる。そして額に浮かび上がった紋様も、蒼く染まった髪も瞳も元に戻っていた。
『橙矢君は?』
『魂魄反応、消失しました……おそらく形代も』
「っ!?」
天真は京子とアカネの通信で、断片的な記憶を取り戻した。
目の前で阿修羅に噛み砕かれ、タケミカヅチのパイロットは確実に死んでいたはず。なのに反応があるのは何故か。その答えは、機体の内部を見ずとも天真にはもう分かっていた。
動かぬ鉄塊と化したタケミカヅチの脇を抜け、天真はオウガを前進させた。
『天真! その先に行っては駄目よ!』
京子からの通信も天真は無視し、オウガを歩かせ続けた。
「この先に……在るはずだ。在るべきものが」
見える景色は一六年間ずっと見てきたもののはずだ。しかし今の彼には、それがどうしても本物だとは思えなかった。
『天真!』
「京子、もうよい。見たければ見せてやろう」
凛音が早九字を切ると、景色の一部が格子状に切り取られ外界への扉が開かれた。
「ッ!? これは……」
天真はオウガを進ませ、見知らぬ景色の向こう側へと踏み出した。
その先に広がっていたのは『無』だった。
雲一つ無いモノクロの空。草木一本生えていない、果てしなく続く灰色の大地。
そこはまるで月面の様な、本当に何も無い荒野が広がっていた。しかしその空漠たる世界には無数の『何か』が泳ぐように飛んでいた。
「ど……どこだここは……? なんだあれは?」
《ここは〝忘念郷〟と呼ばれている世界。人間が存在した世界から、1フェムトメートルずれた座標に位置する位相空間。浮遊している存在は邪霊、死霊、亡霊などと呼称されている。人間の魂魄とは異なり、陰のエネルギーのみで形成された幽体》
オウガの人工知能が天真の問いに答えた。
「忘念郷? 邪霊? ここが街の外だと? 日本は……世界はどうなっている!?」
《回答不能》
「ふざけるな!」
拳を叩きつけ憤慨する天真を見兼ね、凛音がおもむろに口を開いた。
「世界はおそらく滅びている。人類そのものもな」
「人類が滅びた……だと?」
「そうじゃ。そして陰陽連の目的はただ鬼を滅するだけではない」
凛音は透過型キーボードを操作し、天真の座る正面ディスプレイにデータを表示させた。
ディスプレイには〈プロジェクト・オウガ〉と記されている。
「プロジェクト・オウガ……なんだこれは?」
「六体の鬼全てを封滅し、その霊力を以って新世界への扉を開く。それがプロジェクト・オウガじゃ」
その計画の完遂こそが、人類救済の唯一の手段であり陰陽連の目的だった。