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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第16話 死線

 オウガが山の斜面を駆け下りる。

 阿修羅が迎え撃とうと、三度目の火球を放つべく大口を開いた。しかし、口腔で灼熱の炎弾が生成されるその(タメ)を、天道寺天真は見逃さなかった。

 オウガは山麓に転がっていたタケミカヅチの巨槍を拾い、阿修羅に向かって投擲する。それは寸分の狂いもなく、牛頭の顔面へと向かって一直線に飛んでいった。だがその攻撃は読まれており、すぐさま羅刹が空間歪曲の陣を展開する。


『天真! 槍が返ってくるわ!』


 京子が叫んだ直後、オウガの正面に第二の陣が出現。その奥から投擲した槍が飛び出してきた。


「はぁ!」


 槍が突き刺さるより速く、オウガは童子切でそれを切り払った。敵の手の内はすでに露見している。同じ手を喰うほど天真は愚かではなかった。

 確かに天真は不器用で無愛想で、偏屈ではある。さらに凛音がいうところの凶星を持ち、運勢は最低レベルの少年だが、決して馬鹿ではない。むしろ合理的な思考回路を持っている。それは天狗との戦いでも発揮されていた。

 切り払った槍が宙を舞い、オウガはそのままの勢いで阿修羅へと突っ込んだ。


「せいあッ!」


 振り下ろされた刃は阿修羅の肩口を捉え、傷口から赤黒い炎が迸る。


『ヴァアアアッ!』


 オウガの斬撃に手応えはあったが、それでも致命の一撃に至っていない。天真の予想通り、間合いを詰める戦術自体は間違ってはいなかった。しかし踏み込みの浅さは、彼の戦闘経験の未熟さが招いた結果となって現れていた。


「くっ、浅いか!?」


 オウガをその場から退がらせようとした時、機体がガクつき身動きが取れなくなった。阿修羅がオウガの腕を鷲掴み、その後退を封じていたのである。


「こいつッ!」


 開かれた阿修羅の口部に光が収束されていく。敵はすでに超至近距離から炎弾を撃ちだす態勢に入っていた。


「こんのぉ!」


 天真は掴まれた右腕とは逆の拳を振り、阿修羅の炎弾を阻止しようと試みた。しかしそれも防がれ、両手を組み合うような形で二体の巨人は向かい合っていた。


(死ぬ……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?)


 ディスプレイ越しに陰日向橙矢を喰い殺した阿修羅が視え、その口腔から膨れ上がってくる炎の塊。喰らえば消し炭となる超火力を持った炎弾が、今まさに放たれようとしている。走馬灯など見る暇もなく、死がすぐそこまで迫っていた。


「オン・ノウマク・サンマンダ・アグニ・ウンケン・ソワカ!!  楯陣(じゅんじん)・水剋火!!」

「凛音……ッ!」


 後部シートに座っていたはずの凛音が、いつの間にかコクピットの外に出ていた。

 陰陽術による水の結界陣を張り、阿修羅の炎弾を直前で食い止めている。


「ぐっ……ぅ! 逃げ……ろ!」


 凛音は明らかに無理をしていた。忘念フィールドの浸食を食い止めるので精一杯だった彼女が、さらには鬼の攻撃を防ぐために生身で結界を張っているのだ。

 燃え盛る炎が徐々に水の結界を霧散させていく。急造の稚拙な結界など、破られるのは時間の問題だった。


「何やってんだ!!」


 阿修羅の炎に必死に耐えながら、凛音は寂しそうな顔で微笑んでいた。


「な、何でそこまでして…………くっそぉ! オウガ、ディパルサー発射!!」

《了解。ディパルサー発射》


 阿修羅と組み合っていたオウガの両腕、その手甲部の光球が輝きだした。

 ディパルサーはオウガの弐番武装。指向性霊力兵器であり、有体に言うならば光学兵器(レーザー)である。放たれた閃光が阿修羅の両手を焼き切り、オウガはその拘束から逃れる。

 続けざまに阿修羅の腹部へオウガの右拳が突き刺さる。そのまま前腕に備え付けられた肆番武装の炸薬式のパイルバンカーを展開。ありったけの薬莢を吐き出しながら霊銀杭(パイル)が穿たれた。


「うおおお――ッ!!」

『ウヴォオアァ――ッ!!』


 霊核を破壊された阿修羅が断末魔を上げながら、どうと大地に倒れ込んだ。そして直後にその巨体が閃光を放ち、爆炎が空を焦がしていた。


《目標の撃滅を確認》

「凛音!」

『天真! 早く御前をコクピット内に回収しなさい!』


 阿修羅を倒したと同時に、凛音は力を使い果たしたかのように落ちていった。それを寸でのところで拾い上げた天真は、残った羅刹から距離を取りコクピットハッチを開いた。

 天真は凛音を後部座席に座らせ容体を確認する。命に別状があるわけではなかったが、霊力を消耗し過ぎたせいで酷く衰弱していた。


「馬鹿野郎! 生身で飛び出す奴があるか!」

「身体が勝手に動いたんじゃ」

「訳がわかんねえよ。俺は……俺はもう目の前で誰かが死ぬのを見たくないんだぞ」


 天真は消え入りそうな声で自身の想いを吐露した。天真にとって一番辛いのは、己が関わることで周囲の誰かが傷つくことだ。それは過去の(トラウマ)となって彼の心に根付いているものだった。


「ッ!?」


 殺気を感じ、爆炎の先で揺らめいた影に天真は目を奪われた。そこにはタケミカヅチと呼ばれた、四足機動兵器が立っていた。ただしそれは、先ほどまで戦っていたものとは別物。

 損壊したはずの左腕、左前脚部が黒焔で覆われ再生している。そして頭部には深く暗い三つの眼があった。


『敵味方識別装置(IFF)が……タケミカヅチをコードNとして識別しています!』

「乗っ取られたのか……!?」

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