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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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第10話 不可解

 やがて午前午後と授業もすべて終わり、天真は生徒指導室に向かうため重い腰をあげる。そして場所を把握していないであろう凛音に仕方なく声を掛けた。


「ほら、行くぞ。ポンコツ姫様」

「だ、誰がポンコツかや!」


 生徒指導室がある別棟に向かうため、二人は渡り廊下を通過する。ちょうどその時、野球部員の一団と擦れ違った。これから放課後の練習があるようだ。その中にはマネージャーであるハルナの姿もある。


「おっす! お二人さん、お姉ちゃんに叱られにいくのかね? にひひ」

「叱られる所以はない。さっさと練習にいってこい」


 冷やかすハルナから顔を背け、天真はむっすり顔で手を払う。そんな中、男子部員の一人が天真の肩をがっしりと掴んできた。


「おい天真、なに上等かましてんだ、ボケコラ」


 その人物は背丈の低い丸坊主の少年で、天真に負けず劣らず目つきが悪い。


「……なんだ、ハゲトラか」


 無愛想な反応を示し、天真は仕方なく立ち止まった。


「ハゲてねえし! ボケがぁ!」


 この野球少年の名は吉備景虎(きびのかげとら)といって、天真とは同じ中学校出身だった。中学時代は友人と呼べる間柄であったが、今では顔を合わせる度にこうした感じになっている。いわゆる犬猿の仲というやつだ。


「天真、この小猿はなんじゃ」

「猿じゃない虎だ。野球部のベンチ温め役。つまりただの補欠だ」

「うっせえよバカ! いいか天真、他の奴らが許しても、俺はゼッテー許さねえからな!」


 景虎は天真を指差し喚き立てる。


「ちょっとトラ、やめなって。何でアンタ達すぐ喧嘩腰になるのよ」


 また汚い口論が始まるかと思った凛音だったが、意外にも天真は冷めた表情をしていた。


「別に許せとは言ってない。しかし悪かったとは思っている」

「……くっ、フザけんな! 急にしおらしくなるんじゃねえよ! 気色悪いんだよボケが」


 そのままブツブツと愚痴を吐きながら景虎は去って行った。


「随分と嫌われておるな」

「……それだけのことをしたからな」


 生徒指導室の戸を開くと、中には京子と顎髭をたくわえた壮年の男がいた。

 凛音は中に入ると、ソファにどかっと座り二人と向かい合う。


「天真、あなたもそこに座りなさい」

「あぁ」


 髭の男は咳払いをひとつ入れ、天真に声を掛ける。


「テンマボーイ、玄さんの通夜で一度顔を合わせているが覚えているかね?」

「いや覚えているも何も……アンタここの校長だろう」

「御門校長は陰陽連の総司令でもあるのよ。言葉使いに気をつけなさい」

「ははっ、構わんよ。お飾りのロートルというだけで、そんな大層なもんじゃない」


 好好爺といった権造は、どことなく雰囲気が玄真に似ていた。ただ陰陽連という組織名を聞かされただけで、天真は一種の条件反射的な忌避感を抱いていた。


「こやつはもう戦わないらしいぞ。のう?」


 凛音が腕を組み、瞑目しながら言う。

 天真に同意を求めてきたのは彼女なりの嫌味であり挑発のつもりだった。それを理解していた天真は強い口調で凛音の言葉を肯定する。


「あぁ、俺の知ったことじゃない。どうしても戦いたいなら、隣のお子様ランチと陰陽連だけでやってくれ。善良な一般市民かつ、凡庸な一高校生を巻き込まないでもらいたい」


 悪態をついた天真と凛音の視線が交錯し、再び視えない火花を散らす。

 二人の関係は水と油で、どこまでも平行線だった。


「御前、あなたには天真の監視と説得を頼んだはずですが?」


 京子が不服そうな態度で凛音に問う。


「本人が乗りとうない言ってるんじゃ、仕方なかろう。それとも暴力や薬でも使って、無理矢理にでも乗せるかや? 妾は別に構わんぞ」

「俺は構う」

「それじゃあ起動はできても、戦闘などできませんよ」


 こうして話を聞いていると、天真は自分がつくづく子供なのだと思い知らされた。しかし覚えた恐怖を、一朝一夕で拭い切れるほど容易いわけはない。なにより彼には戦いたくない理由があった。


「それより、京子ちゃんに聞きたいことがある」

「何かしら?」

「鬼が現れたことを学校の皆はなぜ知らない。いや学校だけじゃない。世界中の誰も話題にしていないのは不可解だ」


 天真の問いに、その場にいた残りの三人は一瞬固まった。


「報道に厳重な規制を敷いている。鬼に関する情報の漏洩は一切ない」


 淀みなく言い切った京子に対し、天真は疑念の眼差しを向ける。


「そんなこと――」


 天真がさらなる追求をしかけた直後、京子の端末に通信が入った。


「…………わかった」


 静かに通信を切った京子が権造を見やり、無言で頷いた。それが何を意味するのか、権造と凛音には分かっていた。


「――司令、新たな鬼が接近中です。一時間後にはゲートを抜けてくる計算です」

「なっ……!?」


 戦慄が走り、心臓が大きく跳ねた。

 前回の戦いから僅か三日。そんな短い間隔で次の敵が来るとなれば、一度その恐怖を刻まれた天真が動揺するのも無理からぬことだった。


「もう少し猶予をくれぬものかな」

「こちらの都合など敵は考えてはくれませんよ」


 凛音、権造、京子の三人が一斉に立ち上がる。


「司令所へ戻ろう。テンマボーイはどうするかね?」

「俺は……行かない」


 頑なに拒む天真に対し、京子は目を伏せ、凛音は大きく溜め息を漏らした。


「権造、京子、行くぞ。命を懸けた戦に弱卒は要らぬ」


 そして三人は生徒指導室を出て行き、天真だけがその場に残された。


「くそ……っ」

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