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天道寺天真の陰陽終末戦線  作者: くろえ
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プロローグ



 そこは見慣れた街並みのはずだった。

 だが少年のいる場所から見える景色は、一様に色褪せた無彩色の世界。

 そして眼前に立ちはだかっているのは、黒く巨大な人型の何か。

 全身から赤黒い焔を迸らせ、紅く妖しく光る双眼。頭部はどこか鳥類に似ており、嘴のようなものが付いている。その大きさは全長にして二〇メートル以上はあるだろう。

 機械とも生物ともいえないその異形の姿は、見る者を怯えさせる十分な迫力と不気味さを兼ね備えていた。

 誰もが本能的に分かる。

 アレは人類にとって敵であると――

 少年がそんな巨大な敵性体と同じ目線に立っている理由は、彼もまた同等スケールの巨大人型兵器の操縦席に座しているからだった。

 家屋を踏み潰し、地響きを轟かせて敵がゆっくりと近づいてくる。

 そんなあまりに現実感の無い状況に在りながら、大地を通して伝わってくる震動が、そして自然と高鳴っていく鼓動が、握っていた操縦桿に力を入れさせた。


「来るぞッ!」


 一段上の後部座席に座る少女が、敵意をいち早く察し少年に警戒を促した。

 その直後、敵性体が緩やかな歩みから一転、急激に速度を上げ猛然と襲い掛かってきた。


「何をしておる!! さっさと避けんか!!」


 握った操縦桿を左へと捻り、回避行動に移った巨体が身を翻す。しかし、いや当然と言うべき未熟な操縦技術では完全に回避することができず、切り裂かれた機体の左腕部が宙を舞っていた。


「ちぃッ!」


 機体の左腕が失われてすぐ、少年の左腕もまた色を失い塵となって消えていく。


《左腕損傷。戦闘力21.3パーセント低下》


 男性の機械音声と共に、液晶ウィンドウに機体の損傷データが表記され、警告のポップアップがそこかしこで明滅している。


「あれくらい避けれんのか!」

「無茶を言うな。こいつはゲームより動きが鈍すぎる」


 少年は頭痛を堪えるようにして右手でこめかみを抑える。その間も彼の座るコクピットの後部座席では、桜色の髪をした少女がヒステリックに騒ぎ立てていた。


「損傷箇所の修復および再生は?」

《可能。ただし霊子残量を考慮した場合、相対的に継戦能力が低下する恐れ有り》


 陸橋を破壊してアスファルトへと落ちた左腕が、切断面からバチバチと火花を散らしながら転がっている。それを横目で確認した少年が目を眇めて舌を打った。


「ちっ、おまけに脆すぎるぞ」

《スペック面では目標を凌駕している》

反応速度(レスポンス)機動性(マニューバ)もあちらが上だ」


 荒廃した街並みに立つ敵ともう一体の巨人は、紺色と白銀を基調とした機体色に、日輪を想起させる黄金の輪を背負う巨大ロボット。頭部からはメインセンサーとなる一本の角を屹立させ、深紅の両眼(デュアルアイ)が禍々しい光を放っている。


 少年はこの色の無い世界で運命に抗わなければならない。

 戦う覚悟は疾うに決めた。だが戦わなければならない理由は知らずにいる。しかし理由は知らずとも、迫り来る死の恐怖の中で、不倶戴天の敵の姿からは一瞬たりとも視線を外すことはしなかった。


「とんだ厄日だ」


 そうボヤく少年の遥か上空には、彼の運命を地獄へと誘う赤き凶星が瞬いていた。


 時に西暦二〇二一年の日本国――

『因果調整律顕現体・災鬼』、通称・鬼と呼ばれる敵性体による侵攻を受け、人類は未曽有の危機に瀕していた。

 そんな忌敵を滅するべく造られた人類の最終兵器(リーサルウェポン)――。

 型式は『天刻(てんごく)』、冠する名は『オウガ』。

 『天刻のオウガ』と呼ばれる巨大ロボット兵器に選ばれ、世界の命運を握る鍵となったのは、一人の少年だった。

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