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リピート・ヴァイス〜悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜  作者: 黒川陽継
間章Ⅲ

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193# 竜王祭

 聖竜国首都、聖大闘技場(ジガンテ・コロッセオ)


 それは数ある闘技場(コロッセオ)の中でも最大規模のものであり、聖竜国最大の建造物。


 中央のメインドームと、それに付随する形で四方に連結された四つのドーム。


 五の闘技場(コロッセオ)が一つの建造物の中に内包されたものこそ、聖大闘技場(ジガンテ・コロッセオ)


 《竜王祭》大剣闘大会の本戦が開かれる舞台。


 三ヶ月もの期間を掛けて行われた予選であったが、本戦は一日で全てが終わる。


 予選は大量の参加者の振い落とし。


 それに勝ち抜いた選りすぐりの強者こそが、本戦に出場できる。


 本戦に参加できる剣闘士は、国内外含めてたったの七名。


 そして特別枠として、同盟国たる王国より代表の戦士が参戦しての計八名の、トーナメント勝ち抜き方式。


 年に一度の大健闘大会、その開会式はメインドームで行われる。


 開会の言葉を述べるのは、壇上に立つ姫巫女タチアナである。


 タチアナがその姿を見せただけで、会場は凄まじい声援に包まれた。


 その美しくも威風堂々たる立ち振る舞いは、万人を魅了する。


 歴代の姫巫女の中でも、タチアナはその美貌と強さから国民より圧倒的な人気を誇る。


 その姿を一目見ようと国内外より人が集まっており、その数は定員数五万人のメインドームだけでは収まりきらない程。


 四方のドームでは同盟国たる帝国産の巨大スクリーンが設置されており、壇上に立つタチアナの美しい姿がリアムタイムで中継されている。


 メインドーム、四方のサブドーム含め、国内外より集まった総勢二十万人の観客がタチアナを見ていた。


 マイクを手に、タチアナは口を開く。


『——皆、今日はよく集まってくれた』


 たった一言。


 その力強く凛々しい声に、観客は暴動でも起きたのかという程の歓声に包まれた。


 二十万人もの熱量を一身に受けながら、タチアナは優美なる所作を崩さず、堂々たる佇まいで言葉を続けた。


『知っての通り、《竜王祭》は我が聖竜国の建国と、かつて我が祖が打ち倒した“邪なる竜王”の御霊を鎮める為の祭りじゃ。邪なる竜王——《邪竜》は、恐ろしく強く凶悪で、世を混沌に陥れたと云う。これを鎮める儀式は、災難を退け、未来の平和への祈祷の意味合いもある』


 タチアナの言葉に、民衆は静かに耳を傾ける。


『闘争を重んじる聖竜国の姫巫女が平和を願う、おかしいと思う者もおるじゃろうな。弱肉強食が自然の摂理。闘争とは己の存在を賭けて行われるもの。だからこそ美しい。だからこそ花がある。妾はこの儚くも美しい花をこよなく愛しておる』


 じゃが、とタチアナは続ける。


『食うにも困らぬ者が、戦いを仕掛ける事がある。闘争を望まぬ民を巻き込み、支配と略奪を目的とした闘争——これを戦争という。戦争は、弱肉強食という自然の摂理から反したもの。平和からかけ離れた愚かな行為じゃ。知っておる者も多かろうが、八ヶ月ほど前、我らが同盟国の二国の間で諍い(・・)があった』


 それは王国と帝国との間で起きた紛争——規模だけでいうなら、十分戦争と呼べるものであった。


『この二国は、古くより諍いが絶えなんだ。永きに渡り戦争と停戦を繰り返してきた。しかし、明けぬ夜がないように、この二国——王国と帝国の凍てついた関係に終止符を打つ時が来た——雪解けじゃ』


 ニヤリと笑い、タチアナは宣言する。


『本日の《竜王祭》をもって、王国、帝国、聖竜国は対等なる同盟を締結する! 史上初となる大陸三大国の同盟——《三国同盟》である! これより先千年の戦争無き平和な世界を、聖竜国姫巫女たるタチアナ・アヴァロカンドが約束しよう!』


 天に打ち上がる花火、大地を揺がす程の大喝采。


 タチアナの力強い演説は民衆の心を掴み、これからの平和を夢想して胸を熱くした。


 もっとも——会場に来ている同盟国、王国と帝国の要人達は拍手こそしているものの皆一様になんとも言えない顔をしている。


 それもその筈。


 八ヶ月前の王国と帝国間であった紛争。


 この二国からすれば、戦闘が実質的に終了した後にいきなりしゃしゃり出てきて我が物顔で取りまとめ役を始めた聖竜国という構図である。


 確かに聖竜国は、元より二国と同盟国であり、クッション役としては適任であろう。


 しかし構図が構図なだけに、漁夫の利を狙いに来たように見えなくもない。


 そして王国と帝国の間で話し合いながら進めていた同盟という話に一枚噛ませろと便乗してきた挙句、あたかも喧嘩を始めた二国を諌めて平和に導いたのは聖竜国だと言わんばかりの演説をされれば微妙な顔になるのも当然の事。


 実質的に聖竜国は、大した労力もなく良い所取りをして平和の立役者という名声を掻っ攫っていった事になるので漁夫の利というのもあながち間違いではない。


 《三国同盟》の宣言を持ってタチアナの挨拶は終わり、大会MC(進行役)の甲冑姿の大男——《千人長(キリアルケース)》マーズが壊れた人形の如く煩いくらいに拍手してマイクを握る。


『素晴らしいお言葉! ありがとうございました我が姫巫女様(マイクイーン)!』


 がばっと90度のお辞儀をし、マーズはその顔をぐいっと王国側の貴賓席へ向ける。


『続きまして! 来賓の挨拶です! 先ずは王国より! 王女アステリア様がおいでくださいました! 知っての通り我らが姫巫女様が幼い頃からの付き合いのご友人! 詰まる所幼馴染! 羨ましい…実に羨ましい! 我だって姫巫女様と幼馴染が良かった! そしたら我にだってワンチャン…うおあ!? な、何をするおのれら——』


 目を血走らせて何やら私情を口走り始めたマーズを、姫巫女の側近数名が取り囲んで壇上から引き摺り下ろした。


 そんな一幕がありつつも巨大モニターの場面は変わり、王国の要人が座る貴賓席が映される。


 王国国王の代理としてこの場にいる第一王女アステリアは、珍妙なやり取りに呆気に取られつつも貴賓席から一人立ち上がりマイクを取った。


 同盟である以上、聖竜国だけの宣言では意味合いが薄い。


 大陸中の各国の要人が集うこの場で、三国それぞれの立場ある者が口にしてこそ重みがある。


『え、えっと…紹介いいただきました、王国第一王女アステリア・ロワ・シンテリオです。先ずは姫巫女、タチアナ殿下にこの記念すべき催しへ招待頂いた事に心より感謝を。この同盟を機に、末永い平和が築ける事を王国は望みます。争いの無い世界を目指して、そのきっかけとなる事を心より祈ります』


 端的に王国の意向を述べ、一礼して着席するアステリア。


 タチアナ程ではないが、盛大な拍手が送られる。


 因みにアステリアは聖竜国でも比較的印象が良い存在である。


 姫巫女タチアナの幼馴染であり友人、そして同盟国たる王国の姫君。


 そういった背景から聖竜国民からのウケも良く、此度の《竜王祭》への出席に選ばれた理由の一つである。


 アステリアの挨拶が終わり、再びMCのマーズがマイクを取る。


 その煌びやかな甲冑はボロボロになっており、余計な事を言わせない為か、左右からは姫巫女の側近達に刃を向けられている。


 相当怒られたのか、マーズは肩を落としつつ、テンションを落とし気味に帝国側の貴賓席を見た。


『えー…アステリア王女、ありがとうございました。続きまして帝国の使者様の挨拶です。どうぞー…』


 凄まじくテキトーなバトン回し。


 帝国側の貴賓席にて、例の如く駆り出された国防長官のオウセンは、それはMCとしてどうなんだと思わなくもないが、文句を付ける気にもならず溜息を吐く。


 そもそもなんで国防の長である筈の自分がこんな外交の場にいるのか。


 最近、以前にも増して面倒事が舞い込んで来ている気がする。


 それもこれも、少人数で攻め入った上で帝国軍を撃破した死神の孫(ローファス)というバチクソやばい相手となんやかんやで交渉ができてしまった為である。


 帝国寄りの姿勢を見せるレイモンドを交渉役に指名するだけで不治の病である《魔紋病》を治療する手段を残していってくれるという快挙。


 偶然か、はたまた狂人の気紛れか、当時の交渉が下手に良い方向に転がってしまったばかりに、帝国政府では難しそうな仕事はオウセンに任せれば何とかなるという風潮になってしまっている。


 お陰でオウセンは寝る間もない程に馬車馬の如く働かされていた。


 なんか給料も倍くらいに増えたものの、それでも疲れるものは疲れる。


 退職したくてもできず、というかさせてもらえる訳もなく、最近は半分本気で亡命を考えていたりするオウセンは、今日も今日とて命令遂行に勤しむ。


 挨拶だったな、と死んだ目でマイクを取ろうとした時——横から現れた手がするりとマイクを掠め取った。


「——? は、はあ…!? な、なぜ…貴方は…」


 訝しげに顔を上げたオウセンは、マイクを横取りした男の顔を見てギョッと目を見開く。


 男はオウセンの肩を優しく叩く。


「酷い顔だね、オウセン国防長官。そんな顔で平和を解いても説得力に欠けるだろう。少し休んでいると良い。来賓の挨拶なら、私が代わりにしようじゃないか」


 にっこりと笑う男の顔を、オウセンを含む帝国の要人達は幽霊でも見るかのようにあんぐりと口を開けていた。



 王国側の挨拶を終えたアステリアは、ほっと息を吐いて席に座った。


「お疲れ様」


 温かくも盛大な拍手が響く中、隣に座るアベルが労いの言葉を掛ける。


 観客の数に圧倒されていたアステリアは、疲れたように肩を落とした。


「もー無理。大体私、人前に立つの苦手なのよ…」


「王女様が何言ってんのさ」


 人の前に立つのが仕事みたいなもんじゃん——と、王女の付き人の一人として後ろに座るリルカが揶揄うように笑った。


 アステリアは恨めしそうに半目で睨む。


「…苦手なものは苦手なの。元々器じゃないのよ。私にはタチアナみたいなカリスマ性もないし」


「そうなのか? でも魔物の討伐とかして王都の人達から好かれてるだろ」


 付き人の一人として参列しているフォルが首を傾げた。


 確かにアステリアは、王国民より一定の支持を集めている。


 それは魔物被害の対応に率先して参加し、国民に寄り添う姿勢が高く評価されての事。


 因みにフォルは、アステリアのこの活動に同調して王都に滞在していた五ヶ月の間に魔物討伐に同行したりしていた。


 しかしそれが、王女としての役割ではない事をアステリアは自覚している。

 

「魔物の討伐は…私が個人的にしてるもので王女としての仕事ではないわ。寧ろ私の護衛だったりで騎士団には迷惑掛けてる位だし」


 仰る通り、とでも言うかのように、日々アステリアの護衛として駆り出されていた魔法師団筆頭のメイリンはこくこくと頷く。


 それをむすっと睨みつつも、この何気ないやり取りにかつての記憶を思い出し、アステリアは懐かしさから微笑む。


 この場にフランは居らず、ファラティアナとメイリンに当時の記憶はない。


 それでもかつての仲間達と再会し、破滅の未来を回避する為にやり直す事ができている。


 かつての経験は決して無駄ではない。


 今度こそはきっと——と、そんな決意を胸に顔を上げた瞬間、巨大モニターが移り変わり、帝国側の貴賓席が映し出された。


「え…」


 それを見たアステリアは、血の気が引いたように顔を青くする。


 アベルは険しい顔で立ち上がり、フォルは目を丸くし、リルカは口元を震わせた。


「嘘、なんで…あいつは、ロー君が倒した筈じゃ…」


 モニターに映し出されていたのは、白衣を着た細身の男。


 その目には狂気を宿し、画面越しながら、まるでアベル達を直接見るかのように口元をにやつかせた。


『やあ、諸君。帝国代表として挨拶をさせてもらおう。私は帝国科学部門の最高責任者——テセウスだ』


 ローファスとテセウスが同盟を組んだ事を知らされていないアベル一行は、事情を把握できていないメイリンを除いて武器に手を掛けた。



『聖竜国では私の顔を知らない者も多いだろう。私が何者なのかを端的に言うと、そうだね…この巨大モニター。これを作ったのが私だ』


 おお、と会場は沸いた。


 聖竜国はここ数年、帝国との貿易を盛んに行なっており、一部富裕層などは連絡手段にタブレットを使用する事もある。


 聖竜国の主要都市では、広場などで巨大モニターが設置されており、帝国のニュースやドラマ、果てはアニメなどが無料公開されている。


 今や帝国製造の巨大モニターは、聖竜国民の娯楽の一つとして親しまれていた。


 家庭への普及はまだ先にはなりそうであるが、その他電子機器や帝国産の家具など、その多くが高価ながらに頑丈で便利なものもして聖竜国に馴染んでいる。


 そんな聖竜国産の代表的な電子機器が巨大モニターであり、その開発者となればタチアナやアステリア程ではないにせよ多くの関心を集める。


『タチアナ殿下、並びにアステリア殿下が掲げだ世界平和——実に素晴らしい。人と人は争い合う為に生まれたのではない。手を取り合い、助け合う…それこそが帝国の本懐。先の王国との諍いも、帝国(我々)からすれば本意ではなかった。《三国同盟》は正しく、帝国が追い求めていた理想そのものだ』


 聞く者が聞けば、まるで聖人の如き言葉。


 しかしこの科学者の邪悪さを知っているアベル達からすれば、どの口が言っているのかと怒鳴りたい程である。


 半世紀ぶりの王国対帝国の戦争を引き起こした黒幕が、平和を説くなど質の悪い冗談にしか聞こえない。


 テセウスは人を人とも思わぬ非道な人体実験を指揮していた張本人であり、帝国の闇そのものといっても過言ではない男。


 そんなアベルらの憤りを見透かすように、そして嘲笑うようにテセウスは言葉を続ける。


君達(王国)とはまあ色々(・・)とあったが、今後は同盟国(良き隣人)として共にある事を願おう。争いの無い世界の為に、ね』


 爽やかな営業スマイルでひらひらと手を振るテセウスに、民衆は盛大な拍手を送り、それとは対照的に王国貴賓席は葬式のような雰囲気に包まれた。


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