表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リピート・ヴァイス〜悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜  作者: 黒川陽継
間章Ⅲ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/216

170# 再会

 私は生前、働いていた職場でオトナシという上司と関係を持ってしまった。


 学生時代に碌に恋愛をしていなかった事もあり、初恋の様なものだったと思う。


 上司が実は妻帯者であった事、そして遊ばれていた事を知って、私の初恋は最悪の形で終わりを告げた。


 上司が妻帯者である事を知っていた筈の同僚達も、それを私に伝える事はしなかった。


 それどころか、良い話の種が出来たと陰で噂に花を咲かせていたらしい。


 きっとそれは一部のみで、全ての同僚がそうではなかったのかも知れない。


 でも、そんな事はどうでも良い。


 私はオトナシの事も、同僚の事も信じられなくなって、職場の居心地が悪くなって退職した。


 その一件でやや人間不信気味になり、それ以降に勤めた職場も長くは続かず、職を転々としながら徐々に引きこもり気味になっていった。


 そんな折、結婚を期に九州に移り住んでいた兄夫婦が離婚し、地元に戻るという連絡を受けた。


 結婚するまでは仲が良かった兄。


 幼い頃からずっと一緒だった。


 学校は小中高同じ。


 兄は就職に有利だからと地元を出て東京の大学に行ってしまったので、その後を追うように同じ大学、学科に入ってついて回っていた。


 でも、兄は大学で彼女が出来た。


 それで兄と一緒に居る時間も減った。


 兄は大学卒業を期に、その彼女と結婚した。


 結婚が決まった時も、兄が取られてしまう様な気がして、私はただ一人激しく反対していた。


 そんな事もあって兄の彼女とは折り合いが悪く、そのまま兄は結婚を期に、妻の地元である九州に連れて行かれてしまった。


 後になって本当に大人気なかったと後悔したが、その時には既に兄はいなかった。


 或いは、上司と関係を持ってしまったのも、兄がいない寂しさを埋める為だったのかも——いや…いやいや、それはないか。


 それだとまるでブラコンみたいじゃないか。


 違う違う、東京の大学に行ったのも就職に有利だからだし、実家から出て一人暮らしがしたかったからだし。


 私の事を置いて彼女とよろしくやってる兄の事なんかどうでも良いし。


 今思えば、別に兄と仲良くなんてなかったし。


 そもそもあんな奴全然好きじゃなかったし。


 寧ろ嫌いだし。


 まあ、そんなこんなで兄とは疎遠になり、連絡も取り合わなくなった。


 でも、大学を卒業して春から内定をもらった会社に就職——そんな頃、兄から手紙が届いた。


 “就職おめでとう”と一言だけ書かれた手紙。


 封筒には手紙の他に、一枚の写真が入っていた。


 可愛らしい女の子の写真。


 兄と、その彼女の子供だった。


 その写真で、色々と察せられた。


 子供の年齢は3歳くらいだろうか。


 兄が結婚してから経った年数と同じ。


 そうか。


 あの女と結婚すると頑なだったのは、もうお腹の中にこの子が居たからだったのか。


 彼女の地元である九州に移り住んだのも子育ての環境を整える為。


「私が嫌な訳じゃなかったんだ…」

 

 とんだ一人相撲。


 兄は子供の為に環境まで変えたというのに、私は自分の事ばかり。


 本当に嫌になる。


 でもまあそれはそれとして、兄の子はめちゃんこ可愛い。


 小さな頃の兄の面影もあり、めんこい。


 取り敢えず待ち受けにした。


 リカちゃんというらしい。


 リカちゃんかわゆす。


 取り敢えず返事にリカちゃんの他の写真を要求しておいた。


 そこから兄との文通が始まった。


 メールでもSNSでもなく文通、この現代で。


 でも、これはこれで趣があって良かった。


 返事がくるのは一週間後か、それとも二週間後か。


 この長いわくわく感、これはボタン一つで電波に乗って距離をショートカットするメールでは味わえない。


 写真が送られてくる度、日に日に大きくなっていくリカちゃん。


 オトナシとの件で会社を辞めた時も、人間不信気味になって会社を転々とした時も、リカちゃんの写真を見ると元気が出た。


 いつしかリカちゃんの成長は、私の中で心の支えになっていた。


 転職活動も手に付かなくなり、引きこもり気味になった頃。


 兄とその彼女が離婚する事になったと知った。


 理由は彼女の浮気らしい。


 やっぱりなと思った。


 あの女は初めて会った時から何処か信用ならない感じがしたから。


 リカちゃんの親権も兄が勝ち取ったらしい。


 父方が親権を取るのは難しいと聞くけど、あの女は余程素行が悪かったのだろう。


 でも良い。


 兄がリカちゃんと一緒に帰ってくるらしい。


 やっとリカちゃんと会える。


 初めて会ったら叔母さんだよと笑って、休日には一緒にショッピングモールにでも行ってぬいぐるみやお洋服を買ってあげる…よく考えたら今の私は毎日休日だった。


 お金も兄に借りよう。


 そんな幸せな未来を思い浮かべながら過ごしていたある日の事、母から連絡が来た。


 兄とリカちゃんが乗った飛行機が墜落したと。


 私の世界は壊れた。


 もう元には戻らない位、ぐちゃぐちゃに。



 それから色々あった。


 現実から目を背けて人気ゲーム「ヴァイスストーリー」にどハマりしたり。


 通り魔に刺されて死んだり。


 かと思えば神様に拾われてゲームの世界に転生したり。


 そしてローファスと出会って——どういう訳か、そこにリカちゃんが居るという。


 どうやら私の世界は、まだ終わっていないらしい。


 だって私の生き甲斐である姪っ子(天使)が、この世界で元気にやっているというのだから。



 場所はライトレス家別邸、執務室。


 そこにはローファスとアベル——正確にはその肉体を借りたカナデ、そしてユスリカの姿があった。


 ローファスの計らいで引き合わされる形となったカナデとユスリカ。


 カナデはユスリカの姿をじっと見つめ、その目に涙を滲ませる。


「り、リカちゃん…うっ…リカちゃぁぁぁぁぁあ——へぶっ!?」


 出会い頭にユスリカ目掛けて突っ込んだカナデは、ユスリカが咄嗟に振るったワンドの下に沈んだ。


「あの…この方は?」


 強烈なワンドの一撃により容易く意識を刈り取られたカナデは床に倒れ伏せ、ユスリカは困惑した様子でローファスを見る。


 そりゃそうなるだろうとこめかみを押さえながら、ローファスは深い溜息を吐いた。


「…アベルという男の身体を借りた、ユズキ カナデ——お前の親族…らしい」


「私の親族…らしい、ですか…」


 説明が難しい事もあってか何とも歯切れの悪いローファスの返答に、ユスリカは訝しげに倒れ伏せるカナデを見下ろす。


「大変失礼かと存じますがローファス様、騙されておられるのでは…」


 そもそも全然私と似ていませんが…と眉を顰めるユスリカに、ローファスはなんと説明したものかと頬を掻く。


「いや…まあ、そう感じるのも当然だろう。だから話す機会を設けたのだが…いや、これはこいつが悪いな」


 見も知らぬ男に突然迫られれば拒絶するのは当然の事。


 仮にユスリカが何もしなければローファスがアベル(カナデ)を取り押さえていただろう。


「説明もせずに悪かったな。お前が怪しむのは当然だろうが、一先ず話を聞いてやってくれ。当然事情の説明もする。それと——」


 ついでに崩壊しかけている肉体の治療も、とローファスが続けようとした所で、執務室の扉がノックも無く開かれた。


 そこに立っていたのは、一人の暗黒騎士。


 突然の闖入者に、ローファスは眉を顰める。


「…何を勝手に入ってきている。入室を許した覚えはないぞ」


 怪訝そうなローファスの問いに、暗黒騎士は反応を見せない。


 ただじっと、床に倒れ伏せるアベル(カナデ)を見ていた。


「今、ちょっと扉越しに聞こえてきたんですが…カナデって言いました? ユズキ カナデって」


「その声…貴様シグか? だとしたらなんだ。そもそも何故貴様がここに——」


 ローファスの疑問にも答えず、暗黒騎士シグはよろよろとカナデに近付く。


 そしてわなわなと肩を震わせながら、そっとカナデに触れた。


「うそん…こいつカナデなの? マジで?」


 シグの、まるでカナデを知っているかの様な態度と呟きに、ローファスは眉を顰める。


 カナデの話が全て事実なのであれば、彼女はかなり特殊な形でこの世界に訪れた異質な存在。


 それを何故、暗黒騎士であるシグが知っているのか。


 ローファスは高速で頭を回転させるが、それでも理解が追いつかない。


 そんな中、シグに声を掛けられたカナデは目を覚ます。


 目の前にいたのは——フルプレートの漆黒の騎士。


 カナデはギョッと目を剥く。


「え。誰」


 当然の反応。


 しかしそんなカナデをシグは抱き起こし、兜越しにその顔をまじまじと見る。


「…お前、本当にカナデか? よりにもよって男に転生したのか?」


「え…」


 兜で顔は見えない。


 しかし、その雰囲気にカナデはどうしようもない懐かしさを覚えた。


 それは理屈ではなく、或いは血を分けた身内故か。


「まさか…兄貴?」


「マジか! 本当にカナデなのかお前!」


「うっそ…嘘嘘嘘! リカちゃんだけじゃなくて兄貴もこっちに!? なんで!?」


「こっちの台詞だ! なんで転生してる!? お前も死んだのか!?」


 予期せぬ兄妹の再会。


 それももう会えないと思っていた身内との。


「こんな所で会えるとは思わなかったぞ、カナデ!」


 興奮したシグは、感極まって兜を取って素顔を晒す。


 その顔を見たカナデは、眉を顰めた。


「え、誰…」


「シロウだわ! 姿が違うのはお互い様だろうが! 転生してんだぞ!」


「あーそっかー!」


 ツッコミを入れるシグに、あははと笑うカナデ。


 兄妹による漫才じみたやり取り。


 そんな雰囲気についていけず、そもそも訳の分からないユスリカはチラリとローファスを見た。


「ローファス様、これは一体どういう状況でしょうか」


「…こちらが聞きたい」


 状況についていけていないのはローファスも同じ。


 ユスリカの身内というからカナデを引き合わせる場を作ったというのに、どういう訳か突然乱入してきたシグとの再会を喜んでいる。


 本当にどういう事なのか、どういう状況なのか。


 どういう経緯でこんな状態にあるのか。


 さっぱり分からない——分からないが、だからこそ状況を整理しなければならない。


「おい」


 男二人で抱き合い再会を喜ぶ兄妹に、冷ややかなローファスの声が響く。


 シグとカナデはピタリと固まる。


「先ずは各々、経緯を言え。俺とユスリカが理解できるようにだ」


「「…はい」」


 ローファスに促される形で、シグとカナデはそれぞれが経緯を語り出した。



 ローファスとユスリカは、シグとカナデからそれぞれ事情と経緯を聞いた。


 シグとカナデは前世で兄弟であった事。


 そしてユスリカとシグは父と娘の関係であり、カナデとは姪と叔母の関係である事。


 それはユスリカからして、信じがたい事ばかり。


 当然、実感も沸かない。


 そしてどういった感情を向けて良いかも分からぬまま——ユスリカはカナデ——アベルの崩壊しかけている肉体に対して治癒魔法を掛けていた。


 アベルの崩壊寸前の肉体は、聖女フランによる治療が必要であった。


 しかしライトレス領には、聖女に比肩する程の治癒魔法の使い手であるユスリカがいる。


 元より引き合せる予定ではあった為、そのついでにユスリカが治癒魔法による再生を試みる事となった。


 治癒魔法を掛けながら、しかしユスリカの顔色は芳しくない。


 ひび割れたアベルの肉体。


 これは肉体の傷を癒す治癒魔法では効果が薄い。


 全く効果がない訳ではないが、完全な修復には至らない。


「やはり厳しいか」


「いえ、まだやれます。もっと出力を上げて…」


「無理はしなくて良い。元よりフランに見せる予定だったからな」


「しかし…」


 治癒術師としてのプライドか、或いはローファスから頼まれた事だったからか。


 ユスリカは意地でも治してみせると治癒魔法の出力を上げるが、それをローファスは止める。


「お前の治癒魔法で治せないなら、力押しでどうにかなるものではないのだろう。恐らくはもっと特殊な性質の力が必要だ。確か…フランに治してもらえ——そう光神が言っていたのだったか」


「うん、確かにそう言ってた」


 ローファスの問いに、カナデが答える。


 そしてやや落ち込み気味のユスリカを見て励ますように握り拳を作った。


「だから元気出して! 私なんかの為に落ち込まなくて良いからねリカちゃん!」


「断じて貴方の為ではありませんし、気安く呼ばないでください」


「ええっ、冷た!?」


 ガーンと床に両手を突いてオーバーな動作で落ち込むカナデ。


 とはいえユスリカからすれば、ローファスの手前真っ向から否定こそしないものの、自分と全然似ていない見知らぬ男から親族だと言われても信じられる筈もない。


 ユスリカにとってカナデ(アベル)は、妙な設定でローファスを騙して近付く女口調の気色悪い男に他ならない。


 それも自分を出汁にされているとなっては、良い感情など向けられる筈もない。


 しかしそういった感情を向けられる事すらカナデからすれば折込済みなのか、それともただ生きていてくれただけで嬉しいのか、落ち込んだ様子こそ見せつつもそこまで本気でもない。


 寧ろ冷たくあしらわれているのを楽しんでいるようにも見える。


 そんなやり取りをしていると、ふと中庭の方から衝撃が響いた。


 三人の視線が自然と窓へと向かう。


 中庭の修練場。


 そこでは暗黒騎士シグが、ローファスの使い魔である首無しの騎士を——ズタズタに斬り裂いていた。


「オイゴラァ! 妻子がいる身でうちの妹を誑かして遊んだ挙句、逆恨みして襲ったらしいなぁ!? うちの可愛い可愛い妹が、死んで男に転生してんじゃねえかふざけんなよテメェ! 暗黒騎士第九席舐めんなオラァ!」


 首無しの騎士はローファスにより動きを制限されている——とかそんな事はなく、肉体を切り裂かれようとも再生して反撃をせんと試みている。


 しかし再生した先から不可視の斬撃に切り裂かれ、細切れにされる。


 あまりにも容赦の無い一方的な戦闘に、ローファスはおろかカナデやユスリカも引き気味で見ていた。


 使い魔化により多少の弱体化があるとはいえ、相手は成熟したダンジョンのフロアボス。


 低く見積もってもダンジョンの守護者(ガーディアン)程度の実力はある筈なのだが、それでも反撃の余裕もなく一方的。


 あれでも暗黒騎士の頂点たる“序列持ち”、実力は確からしいなとローファスは肩を竦める。


「あー…なんかごめんね、うちの兄貴が。ローファスの使い魔をあんなにズタボロに…」


「あれは所詮影。外見が同じでも全くの別物なのだが…まあそれで気が済むのであれば好きにやれば良い。仇か何か知らんが、本来の首無しは俺が始末してしまったしな」


 言いながらローファスは、ここに集った異世界からの来訪者達の事について頭を巡らせる。


 シグは元の世界で死に、この世界で男爵の九男として生を受けた。


 カナデも元の世界で死に、神とやらに送り込まれる形でこの世界のアベルの肉体に憑依した。


 首無しの騎士の元の魂も、恐らくは元の世界で死んでこの世界のフロアボスに転生した。


 そしてユスリカは、元の世界で死にかけた所で何らかの要因によりこの世界に来た。


 全て、元の世界で関わりのある者達——より正確にいうならば、カナデを中心とした。


 異世界からの転移や転生、こんな事例はローファスが知る限り、少なくとも王国の歴史上無かった事。


 こういった異世界からの来訪者は他にもいるのか、或いはこれだけなのか。


 それにしても、ローファスを起点に集まっているというのも偶然にしては出来過ぎている。


 しかしそれ以上にローファスの中で噛み合わないものがある。


 それは——時系列。


 カナデがこの世界に訪れたのは約四年前。


 ユスリカが教会に保護されたのは約十五年前。


 そしてシグがこの世界に生を受けてから今年で二十五年。


 首無しの騎士が転生した時期は定かではないが、それにしても年代がバラバラである。


 カナデから話を聞く限り、カナデが元の世界で通り魔に襲われて死んだのは、兄と姪であるシグとユスリカが事故に遭い帰らぬ人となってから二年後の事。


 どう考えても時間の辻褄が合わない。


 そもそも世界を隔てている以上、考えるだけ無駄な事なのかも知れないが。


 ともあれ、カナデがアベルに憑依する事となった一件には何らかの存在——神なる者の介入があるのは間違いない。


 そして恐らく、その存在もこの世界のハッピーエンドとやらを望んでいる。


 敵か味方か、或いはそのどちらでも無いのか。


 いずれにせよ、警戒するべき対象であるのは事実。


 全容こそ見えないが、事は既に六神と《闇の神》の代理戦争なんて単純な話では収まらない。


 誰かも分からぬ何者かの思惑が複雑に絡み合っている——そんな印象をローファスは受けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ