なんとかと天才ってやっぱり
結婚し実家を出て半年、久しぶりに兄から電話があった。用件は私宛の郵便が届いたけどどうするかという程度のもの。
話の流れで「あいてる日にゲームしよう」と兄からオンラインゲームに誘われ、今日は夫が出張で留守だし今ならできると言えば、そのまま通話しながらすることに。
「結婚生活どう?」
「楽しいよ」
「正道さん、出張とかあるんだな。研究所勤務って実験してるだけかと思ってた」
「私も」
「お前、馬鹿ばっかり言って呆れられてないか?」
「失礼な。それを言うなら正道さんの方が天然発言が多いから。まさになんとかと天才は紙一重って感じ」
「ひどい言い草だな。まぁ、その様子なら大丈夫か。っと、それよりお前やられすぎ。もっと集中しろよ」
「はいはい」
「そっちに一人隠れてる」
「どこ? ああ、柱の陰ね。あっ、やられた」
「そのくらい倒せよ。下手か」
「倒せそうだったけどなぁ」
「どこが」
「カリカリしないで楽しくやろうよ」
「そうだな。悪かった」
「おい、単独行動するな」
「あ、ごめん」
「お前は猪か。突っ込みすぎ」
「……うん」
「協調性ゼロだな」
「……ねえ。楽しくないんだけど」
「俺は楽しい」
「お兄ちゃんがモテないのはそういうとこだよ」
「ぐぬぬ」
と、喧嘩したり兄を苛めたりしながらなんだかんだとゲームは続き、気づけば23時。
「もうこんな時間か。解散だな」
「うん、また誘ってね」
「次は足引っ張んなよ」
「すみませんお義兄さん。次は貢献できるよう頑張ります」
「……今の声……正道さん?」
「はい。僕です」
「え? あれ?」
「ごめん。出張は嘘で本当は始めからいたの」
私が口を挟む。
「まさか」
「ずっとゲームをしていたのは正道さん。私は見てただけ」
電話の向こうでゴトンと何かが落ちる音。多分コントローラーを落としたのだろう。気持ちはわかる。
「お前それはナシだろ!」
「ごめんね。だって正道さん、自分が上達しないのは私が甘やかすからだって言い出して。忌憚のない意見を聞きたいって言うから、こんな機会を待ってたの」
「忌憚のないって……俺、暴言しか吐いてないけど!?」
「大変勉強になりました」
「いや勉強って――」
兄には気の毒だが通話終了をタップ
夫の表情を見る。気を悪くした様子はない。むしろ機嫌がいいくらいだ。
が、一応確認。
「怒ってる?」
「まさか。僕はこれを求めていたんだよ」
「……暴言を?」
「ようやく家族の一員になれた気がするんだ」
「ふうん……」
――やっぱり天才って……