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第1章(その6)

「姉さま!」

 ハリエッタは慌てて助けに駆け付けようとするが、彼女や父親の周りもまた、無数の兵士たちに取り囲まれていた。このままリリーベルを助けに戻ったら、三人ともがまた囚われの身になりそうだった。

 父を守るハリエッタと、一人取り残されたリリーベルとの間に屍の兵士たちが大挙してなだれ込んできて、両者は徐々に引き離されていく。リリーベルの姿が群れ集う兵士たちの影で見えなくなってしまうに至って、ハリエッタは苦渋の決断を下した。

「お父様、走って!」

 ハリエッタは意を決して、後方ではなく彼女らの行方をふさぐ前方の兵士に向かって剣をふるった。

 父だって歳も歳だから、早くは走れない。とにかく迫りくる兵士たちを薙ぎ払いながら進んでいくと、前方に上りの階段があるのが分かった。彼女は父の背を押して一気に石段を駆け上り、中庭に出た。

 そのまま一気に城門を目指して走っていく。彼女達を取り押さえようという屍の兵士達が、中庭の石畳の上ににょきにょきと姿を形どっては、追いかけて走ってくる。幸いなことに、骨だけの彼らは老いた父グスタフと比べても相応にのろくさく、前方に出現した分についてもハリエッタの剣の一閃でなぎ倒すことが出来た。

 無論、兵士たちはどこからでも勝手に姿を見せていたから、町の廃墟の往来を走って逃げているさなかにもあちこちから襲い掛かってくる。その頃には父もただおろおろと逃げ惑うだけではなく、道端で拾い上げた棒切れを振り回して、どうにか兵士たちを遠ざけようと奮闘した。

 こんなことならミューゼルを連れてくればよかった、と後悔しつつもどうにか外側の城壁の城門が見えてくるところまで、二人は息を切らして駆け通した。

 さすがにエヴァンジェリンも城壁の内側で起きている異変に気づいていて、城門の向こうからこちら側の様子を不安そうに眺めていた。

「早く! ふたりとも早くこっちへ! ……リリーベル姉さまはどこ?」

「それはいいから、あなたも逃げて!」

 そのままもつれるようにして、三人は城門の外へと飛び出していった。

 その頃には死せる兵士たちもその数を倍増させ、堰を切るように一家のすぐ近くに肉薄しつつあったが、城門を一歩出てみると、それ以上は彼らは追いかけては来なかった。後ろから押されるようにして城門の外側に一歩はみ出してしまった兵士は、その場で砂になって崩れ落ちてしまった。その有様に怯えるわけでもなかっただろうが、ハリエッタたちに届かないと知ると、兵士たちは城門から一歩距離を置いたまま、彼らを恨めしそうにじっと見ているのだった。

「どうして城門の外まで追いかけて来ないのであろうか?」

「それこそ、彼らは呪われた者ども故に、呪いの効力の聞き及ぶ範囲にしか立ち寄ることが出来ないんじゃないかしら? どうやら、ここから一歩でも出て来ることは、彼らには無理のようね……」

 ともあれ……本当に彼らが城門から外へとなだれ出て来ないと言えたものかどうか、じっと座して観察しているようないわれはない。それ以上屍たちとにらみ合いを続けていても仕方が無かったので、ハリエッタ達は馬と馬車に乗って、取り敢えずはその場所から離れることにしたのだった。



(次章につづく)

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