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第6章(その4)

 そう言ったハリエッタに対して、パルミナスは手にした書状の文面をちらりと指し示す。

「この逮捕状と一緒に僕のところに届けられた報告書によると……王都で、架空の投資話でとある貴族から財産を巻き上げたという男が逮捕されたそうで。マルケス・エーロンという男なんだけど、こいつが尋問の中であなたの名前を挙げたそうですよ、ガレオン殿。あなたからその貴族を破産させたいと、名指しで指示を受けたって」

 その貴族というのが……と書面を目で追いながら、パルミナスは読み上げる。

「……グスタフ・クリム侯爵、とここには記載がある」

「お父様が? いったいどういうことなの?」

「クリム家が破産すれば領地であるクレムルフトを頼るに違いない、という目算があったんだろうね。一文無しで昔懐かしい所領に帰ってきたところで、金を積んで家名を買い取るなり、君たち三姉妹の誰かの婿養子になるなりして、彼自身が貴族になりたかったんじゃないかな」

 悔しそうにわなわなと身を震わせるガレオン。図星なのか、何の反論も出来なかった。

「……彼の父親は荘園を治める領主代行という話だったけど、肝心のクリム家が領地に不在だというのなら自分の父親がその土地では一番の権力者ということになる。なのに、仮に世襲でその地位を継いだとしても、その土地の一切合切が自分のものになるわけではない。僕が彼の立場なら、そこに何かしら思うところがあるんじゃないのかな。……でしょ、ガレオン殿?」

「ということは、私たちは……」

「クリム家が抱えていたという負債のうち、無効と認定されるものがいくつかは出てくるだろうね。すべてが、というわけにはいかないかも知れないけど、住んでいた家屋敷ぐらいは戻ってくるんじゃないのかな」

「それじゃ、私たちは王都に帰れるのね?」

 よかった、と胸を撫で下ろしたハリエッタだが、その喜びを告げようとして初めて、さっきまでそこにいたはずの人狼がどこにもいないことに気づいた。

 ガレオンは王国軍の兵士たちにその場で身柄を取り押さえられた。配下の手下たちが多少は難色を示すかと思われたが、残念ながらそういう忠義者がいないところに、あるじの人望の程が窺い知れた。

 ハリエッタはパルミナスとエヴァンジェリンとともに、バルコニーに戻ってみる。けれどそこにも、謁見の間にも、人狼はおろか伯爵の姿も無かった。あらためて階上の寝室に行ってみると、眠れるエナーシャの姿さえもそこから忽然と消えてしまっていた。

 死せる兵士たちは砂塵に帰ったとは言え、それらしき砂や土くれはその場にそのまま残されており、伯爵家も怪異も何もかも痕跡も残らなかったわけではないが、少なくとも伯爵家の一同の姿は、それきり誰も見たものはいなかった。



(次章につづく)

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