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終章 手紙(苑)~外の世界で生きるルート~


 四月。


 都心に近いターミナル駅の広場の中央で、苑は他の多くの人々に混じって、改札口に目をこらしていた。

 改札口からは次々と人がやって来て、待ち人に手を振ったり抱きあって喜んだりしている。


 その光景を横目で見ながら、苑は先日送った手紙の内容を思い浮かべていた。



 ※※


 縁、元気ですか?


 引っ越しは無事に終わりました。

 紅葉と四央、七海と一颯も手伝いに来てくれたのですが、荷物が少なかったのでそれほど手伝ってもらうことはありませんでした。


 久しぶりにみんなで集まって、夜まで話しました。


 四央は、家を出てIT関係のベンチャー企業で働いています。

 毎日、深夜まで仕事をしていて死ぬほど忙しいって言っていましたが、とっても楽しそうです。

 将来は独立して、自分の会社を持ちたいと言っていました。四央は昔からバイタリティがあるので、たぶん近いうちにそうなると思います。

 一颯も国家試験に受かったので、四月から病院で臨床研修に行くと言っていました。

 どこの科に行くかはまだ決めかねているみたいです。

 以前は病理医になりたいと言っていましたが、精神科のほうにも興味があるみたいです。

 七海は仕事を辞めて、Vtuberになるって言い出しています。

 四央の会社でコラボを募集していて、その話で盛り上がっていました。少し前はお笑い芸人になると言っていたので、ちょっと心配です。

 一颯も心配していると思ったのですが、「駄目だったら俺が養うから、好きなことをやればいいよ」と言っていました。

 そう言われると、私も縁が何かやりたいことがあると言ったら、同じことを言うと思います。


 紅葉も夏からは東京に来ると言っていました。

 郁美さんが新婚だから親離れしないとと言っていましたが、お酒が入ったらずっとグチグチ言っていました。

 家森と郁美さんの仲をまったく知らなかったことに、まだ納得がいかないみたいです。

 紅葉はうちに泊まったんですけれど、ずっとその話をしていました。

 最後は寂しいって泣き出しちゃったので、慰めてあげました。甘えん坊になっていて、可愛かったです。


 縁も来れれば良かったのに。

 七海と四央は、縁が来たらすぐに会いたい、紹介しろって言っています。

 会わせるのが楽しみです。


 萌伯母さまとの話し合いは大変だったみたいですね。

 私もこの前電話で話したけれど、伯母さまは九伊家への思い入れが強いから色々と割り切れないみたいです。

 私が生まれる前の話やお祖父さまの話やお祖母さまの話、縁のお母さんの話まで出てきました。

 伯母さまには伯母さまの物の見方があるのだから仕方がないけれど、話を聞くのが大変でした。

 私が家を出たことについても何やかやと言われましたが、最後には納得してくれました。


 本家は、伯母さまの息子の薫が継ぐことになったみたいですね。

 薫は気が弱くて流されやすいところがあるから、ちょっと心配です。

 伯父さまがしっかりされたかただから、大丈夫だとは思うけれど。


 新しい家は駅まで歩くと十五分くらいです。

 駅に行くまでに畑や田んぼが残っている部分もあって、そこを歩くとそちらのことを懐かしく思い出します。

 自然が残っているので、縁もきっと気に入ると思います。


 私は四月から病院で働き始めました。

 右も左もわからないことばかりですが、少しずつ仕事に慣れていこうと思っています。


 縁。

 外の世界は、九伊家とも禍室ともまったく違います。

 色々なものが初めて見るもののように思えます。


 縁と一緒にこの世界で生きたいです。

 縁が来るのを、この世界で生きながら待っています。



 ※※


          

 苑は瞳を開いて、辺りの風景を見回した。


 改札口の向こう側が一段と騒がしくなる。

 たくさんの人が、改札機に殺到していた。


 その中に、苑は自分が探し求めている人の姿を見つける。

 いかにも電車の乗り降りに慣れていない、辺りを物珍しそうに見回しながらぎこちない動きをするその姿を、苑は眩しそうに見守る。

 改札を抜けて、その人が外に出てくる。


 生まれたときから理不尽に閉じ込められていた運命から、外の世界へ。


 苑は喜びで顔を輝かせ、自分にとってたった一人のその人を迎えるために、大きく手を振った。



(True end)        



 最後まで読んでくれたかた、ありがとうございました。

 全部、読んでくれたかた、大感謝です。


 生まれたときから牢獄に閉じ込められている、か弱いツンデレお姫さまヒロインを、お姫様に激惚れしている仲の悪いライバル同士の男女二人(足並みがそろわない)がどう救うか。


 お姫さまは女の子が好きだけれど、男に肉体的にも精神的にも依存している。

 二人ともお姫様にベタ惚れなので、この構図を受け入れてしまう。


 最初はこういう話を百合で書こうと思ったのですが、色々考えた末、お姫さまポジが男の娘になりました。


 このコンセプト(好きな人握手!)をもう少し前面に出したかった……けれど、とにもかくにも最後まで書けて良かったです。



 気に入っていただけたら、レビュー、感想、忌憚のない意見をいただければ嬉しいです。


 ここまで読んでいただいて、

 二人の恋の行く末を見守っていただいて、


 本当にありがとうごさいました。


 苦虫



★「疑似百合」作品の紹介★

本作と同じ「女×男の娘」の疑似百合(メイン異性愛でBL要素あり)を主に書いています。


「皇国の女帝ですが夫の寵姫(男の娘)を好きになったので、帝位を捨てて二人で駆け落ちしました。~レニ&リオ~」

https://ncode.syosetu.com/n3229id/

強くて元気な元女帝の女の子と優しくて献身的な従者の男の娘。二人が両片思い状態でイチャイチャしながら旅をする話。


「昼想夜夢 ~野心家の女貴族×姫君のような夫の夫婦愛の話~」

https://ncode.syosetu.com/n4624hp/

「女攻め・両片思い・BL要素有り・R15」がキーワードの恋愛モノ。


「魂恋」のような話が好きなかたには気に入っていただけると思います。

読んでもらえると嬉しいです。

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