第85話 魂恋・16(苑)~あなたを見つけた~
1.
部屋の扉を開けると、外界は薄暗く静寂に包まれていた。
まるで世界中の全ての生物が死に絶えてしまったかのような静けさだ。生まれ育った館のはずなのに、別世界のように思える。
視線を暗い廊下の先に向けると、小柄な人影が闇に吸い込まれるように走り去っていく。
苑は慌てて後を追いかけた。
廊下は静かで暗く、どこまでも続くように思えた。
この廊下はこんなに長かったろうか?
こんなに暗かっただろうか?
慣れ親しんだ館ではなく、そこを模した悪意に満ちた夢の回路のように感じられた。
ようやく視界の先で、人影がひとつの部屋の中に入った。
苑は扉の前で立ち竦む。
この部屋は、苑が子供の時からこの家を出るまで使っていた部屋だった。
苑はしばらく黙ってその扉を眺めていたが、やがて意を決したようにノブに手を掛けて、ゆっくりと扉を開いた。
2.
部屋の中は真っ暗だった。
どこにも光源がなく、ただ深い闇だけが上下も左右もなくどこまでも広がっている。
黒々した闇の中に、誰かが座っていた。
苑の脳裏に懐かしい記憶が甦る。
顔に化粧を施し、髪を綺麗に結い上げ、質のいい着物を纏った美しい姿。
「穢れ払い」で禍室を訪れて、初めてその姿を見たとき、この世ならざる者のような神秘的な美しさに、ただ言葉を失い目を奪われた。
精巧に作られた人形のように動かない姿を見た瞬間、苑の瞳から涙が溢れた。
「縁……」
それは苑が初めて出会ったときの十五歳の縁だった。
★次回
あなたを迎えに行くルート
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