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第70話 魂恋・1(縁)~二人でいたい~

(ルート開放条件)

 ・条件①②③④⑤が揃っている。


 子供のころから母親がする話は、大抵決まっていた。

「神さま」と自分たち「禍室」のおとぎ話だ。

 自分たち「禍室」は、「神さま」に身を捧げるために生きている。

 自分たちが犠牲になることで「神さま」は生きることが出来る。


「神さま」は私たちがいるから、神々しくいることが出来るの。

 私たちは「神さま」を存在させるために生きているのよ。

 選ばれた神女なの。


 うるさい。

 恍惚とした表情で何度も何度も繰り返す母親に、そう言ってやりたかった。


 そう言わずに我慢出来たのは、自分と一緒に母親の話をジッと聞いてくれる存在があったからだ。

 その存在は、不機嫌そうに黙り込む幼い縁の手を、母親の狂乱が治まるまで握っていてくれた。

 縁が僅かに手を握り返すと、縁の顔を見てニッコリと笑った。



 2.


「あんな女の話、聞く必要はないんだ。毎日毎日、同じ話をしやがって……嫌になる」


 縁は庭が見える縁側に腰掛け、足をブラブラさせながらそう言った。

 そうしながら、甘えるように隣り座っている存在に寄りかかる。


「苑、お前、よく聞いていられるな?」


 幼い縁と視線が合うと、苑は優しく微笑んだ。


「縁のお母さんがああいう話をするのは、私の家のせいだから」

「お前の家のせいであって、お前のせいじゃないだろう」

「そうね」


 苑は呟いて、自分に寄りかかる縁の黒く長い髪を撫でた。

 縁は心地良さそうな顔をする。


 苑は、縁が物心がついた時からいつも側にいる。

 最初は母親が「神さま」の話をする時にしか見えなかったが、徐々に「見える」時間が長くなった。

 苑は二十歳くらいの姿をしており、大人にしては小柄で茶色の優しい瞳をしていた。肩の下まである髪の毛に、花の形をした髪飾りをつけている。

 内気で物静かで口数が少なく、縁と目が合うといつも嬉しそうに笑う。

 同じ大人でも、母親とは随分違うなと思う。


「何で、お前の姿は俺にしか見えないんだ?」


 縁の言葉に、苑は微笑んだ。


「私が縁のことが好きだからよ」

「ふうん」


 よくわからない理屈だったが、苑に「好き」と言われるのは嬉しかった。


「お前があの女が言う『神さま』なのか?」


 縁の問いかけに、苑は瞳を伏せた。


「私は神さまじゃないけれど……縁のお母さんは、たぶん私のことを話している」


 苑の側にいて体に触れていると、まるで温かい陽射しをたっぷり浴びた布団にくるまれているような幸福を感じた。自分が愛情を注がれていて、守られていると感じることが出来た。

 苑は、縁のどんな我が儘でも甘えでも受け入れてくれた。どんなに理不尽で無茶な要求をしても、怒らず辛抱強く話を聞いてくれる。

 どんな時も側にいて優しい眼差しで見ていてくれる。


 母親がいなくなり、苑と二人でずっと一緒にいられればいいのに。

 苑が「神さま」なら、気恥ずかしくて口に出来ないこの願いを読み取って、叶えてくれればいいのに。

 そんな思いが伝わらないかと思いながら、いつも苑の手に捕まったり服の裾をつかんだりしている。


 廊下の奥から母親が歩いてくるのを目の端にとらえて、縁は口をつぐんだ。

 ハッとするほど縁に似ている美しい顔には、虚ろな笑みがたゆたっている。


「縁、お稽古の時間よ」


 母親の言葉に、縁は小柄な体をビクリと震わせた。

 母親は顔を上げようとしない縁の腕を捕らえ、強く引き、立たせる。


「ちゃんと覚えて、立派な禍室にならなきゃ。今日は覚えるまでやりましょう」


 縁は俯いたまま、僅かに苑のほうへ視線を向ける。

 涙が溜まった縁の瞳をジッと見つめたまま、苑は「待っているから」というように小さく頷いた。


 縁の小さな体は母親に引かれるがまま、廊下の奧へと消えていった。


★次回

神さまを信じるルート

「第69話 魂恋・2(縁)~俺のこと、わかれよ~」

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