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第17話 夢想・5(縁)~再会~

1.


 九伊の娘と初めて会った時から一年ほど月日が経ったとき、彼女が再び来ると告げられた。


 彼女が自分にもう一度会いに来る。

 それが本当のことだと信じることが出来なかった。

 来たらどうしようか。

 頭の中で幾度となく、その時のことを空想した。

 そんな風に思う自分を抑えつけ、嘲笑おうとした。

 今度こそ思いきりなじり、悪意をぶつけてやるために考えているだけだ、そう自分に言い聞かせたが、そんな虚勢は実際に「彼女が来る」と告げられたときに吹き飛んだ。


 朝から落ち着かず、いつも以上に入念に部屋の掃除をする。

 少女を案内するために、色々な場所を見て回った。

 もしかしたら外には出たがらず、部屋の中で話をしたいと言うかもしれない。

 その時に、喉が渇いたと言うかもしれない。お腹が空いたと言うかもしれない。

 色々な飲み物や食べ物を用意した。

 寒いと言われたらこうしよう、暑いと言われたらこうしようと準備をした。


 禍室の恰好をするのが、いつも以上に苦痛だった。こんな奇妙なやり方ではなく、普通に少女を迎えたかった。

 準備が終わると、少女が来るまでの時間が、とてつもなく長く感じた。


 まず、何を話そうか。

 何故、来なかったのか聞いてもいいのだろうか。

 そんなことを聞いたら嫌がられるだろうか。


 それすらもよくわからなかった。



 2.


 いよいよ少女が部屋の中に入って来たとき、縁は目をわずかに伏せ、少女の小柄な体をちらちらと見やった。

 一年前よりも体が丸みを帯び、女性らしい体つきになっていた。

 内気そうな恥ずかしげな表情は変わらないが、顔つきや所作が何となく落ち着いて大人びたように見える。

 縁が口上を述べると、少女も前と同じようにたどたどしく口上を返す。


 その後、室内には沈黙が下り、シンと静まり返った。

 縁はあちこちに視線をさまよわせ、何とか口を開こうとした。

 あれほど色々と繰り返し考えたことが嘘のように、頭の中は真っ白だった。


「……元気、だったか?」


 縁は少女を一瞥して、声をかける。

 少女がわずかに身をすくませたところを見ると、思ったより鋭い目つきをしてしまったらしい。

 耳に入る自分の声も、いかにも面倒臭げな素っ気ないもので、「何をしに来たんだ」と言わんばかりだ。

 こんな風に話したら、ますます彼女の足が遠のいてしまうではないか。

 内心では焦っているのに、表情は氷のように冷たいまま変わらない。


 少女はわずかに首を頷かせて、「そっちは?」というようなことを小さな声で尋ねてきた。

 大きな瞳でジッと見られると、自分の心の中が見透かされそうな心地がして、縁は関を切ったように話し出した。

 意外とやることが多く忙しく過ごしており、日々が目まぐるしく過ぎていくこと。

 そういえば、少女が来るのが一年ぶりだということも、ついさっき気付いたと、声を大きくして強調した。

 一体なぜ、自分がこんなことを懸命になって喋っているのか、よくわからなかった。


★次回

神さまに恋するルート

「第19話 夢想・6(縁)~夢で恋をする~」

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