第13話 夢想・1(縁)~もし、神さまが来たら~
1.
「縁、僕は、神さまのお婿さんになるかもしれないよ」
里海の言葉に、縁は僅かに視線を動かした。
里海は、縁の反応を探るかのような眼差しをしていた。
「結婚するのか?」
「ショック?」
「別に」
反応を期待するかのような里海の言葉に、縁は肩をすくめる。
縁の素っ気ない対応に里海はわずかに落胆したような顔をしたが、気を取り直して話を続けた。
「本家の一人娘の婚約者として、白羽の矢を立てられたんだ。少し内気だけれど、なかなか可愛い子だったよ」
縁は特に関心を示さずに聞いていた。
だが、里海の次の言葉に思わず振り返る。
「婚約が決まったら、彼女は君のところに来るよ」
視線が合うと、里海が言葉を続ける。
「知っているだろう? 婚礼前の『穢れ払い』。本家の娘ともなれば、丁寧に払わないとね」
「神が、俺のところにやりに来るのか」
縁は悪意に満ちた笑いを浮かべた。
2.
「穢れ払い」は、禍室が行う儀式だ。
「穢れ」を払いたい人間を「客」として、禍室に迎える。「客」は禍室に迎えられると「神」となる。
禍室は「神」を降ろす神女であると同時に、「神」の荒ぶる魂を収める肉体、「室」となる。そうなることで、「神」から穢れを受け取り鎮める。
「神」の本体と禍室は元々は一体であるため、禍室に「穢れ」が集まるほど、九伊本家の「神」は荒ぶらず、正常で在ることが出来る。
遥か昔から形態を変形させながら続く、九伊の一族の信仰だ。
里海は、神事と売春が近かった時代に「客」を取るために生まれた方便ではないかと言っていた。
方便で、今の時代に一族抱えの娼妓のようなことをさせられている自分のほうこそいい面の皮だ。
「神」である娘が来たら、どうしてやろう。
縁は半ば暇潰しに、半ば深刻な憎悪から生まれた残酷な気持ちから夢想する。
どうせ何も知らない小娘だろうから、今まで想像も出来なかったような辱めを加えてやろう。
もし暗い世界にハマれば、自分が男たちから加えられた屈辱を、そっくりそのまま返す奴隷にしてやろう。
そんな未来を想像して笑いながら、目を閉じた。
次に目を開くと、目の前に、見知らぬ娘が座っていた。
★次回
神さまに恋するルート
「第15話 夢想・2(縁)~こいつが神か~」