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アキアカネの逝く夏に  作者: ONEth Action
傲慢編
4/5

「変化」

あれからは何事もなかった。村紗は近くの公園で待っていてくれたし、学校には遅刻ギリギリだったけど出席できた。

しかも今日は強制参加夏期講習だ。昼までには終わる。ただ秋茜が気になって仕方がなかった。初対面の人にあれほどまで不快に接されたのは初めてだ。

村紗の方をジーっと見ながら考えていると、こちらの気配を察したのかチラチラとこちらを見るようになった。その時口をモゴモゴと動かしていた。

何かを小声で喋っているようだった。

「こ……っ……ち……み……る……な……?」

まずい、流石にやばいか。そう思いごめんと口の形だけで言葉を送る。村紗は耳にペンをかけ窓の外をみた。セミの鳴き声がうるさかった。

窓を開けたら先生の声が聞こえなくなるから窓は締め切った状態だった。エアコンもないので扇風機だけでどうにか凌いでいた。

その後は勉強に集中しできるだけ村紗の方は見ないようにした。

数学は難しくて何も頭に入ってこなかった。フェルマーの最終定理だとォ? わかるわけがない。

チャイムが鳴り下校の時間になる。もう一週間は学校に来ることはない。忘れ物が無いかチェックし村紗と一緒に帰ろうと誘う。

「なぁ、村紗。一緒に帰らないか? 暇ならでいいよ」

「ごめんよォ。実はこのあと塾があるんだァ。数時間で終わるけどね」

「そっか……」

と素っ気なく断られてしまい、一人でトボトボ帰ることになった。

帰る途中だった。またあの秋茜とかいうやつに会いたくなかったので別の道を歩いていった。

人通りの少ない昼間でも暗い道を歩く。昼間でもそこそこ怖い道だが夜はかなり怖い。お化けなんて比じゃない。

速歩きで足場の悪い道をあるき続けると視界の奥の方に気になるものが目に入った。

『村紗』だった。

何をしているんだ? 村紗が通っている塾の方向とは真反対のはず。近づいて見てみることにした。

誰か大人の人と話しているようだったが郷長ではなかった。俺の知っている人じゃなかった。

まさか誘拐とかじゃないだろうな? 最近物騒だし。

でも顔を見る限り笑っていたので誘拐ではないだろう。村紗になにもないことを祈りながら家へ向かう。

歩きなれていない道なので流石に迷う。道を間違えながらもどうにか家についた。

玄関で靴を揃えていると台所からこちらへドタドタと大きな足音をたてながら誰かが歩いてくるのがわかった。

「ちょっとォ! 私のプリン食べただろ!」

「た、食べてないよ!」

「ウソつけェ! だって冷蔵庫に置いてたはずなのにないんだぞ!」

信じてくれないだろうが、本当に俺は何も食べてない。食べたのは納豆ご飯だけ。それ以外は胃の中に入っていない。

「もう一度冷蔵庫を探してみてよ」

「一時間は探したわ。でもないの」

どうにかして母を説得しようとするが、結局俺が犯人ってことになって近くの店に買いに行くことになった。

本当に食べてない……本当に食べてないのに……

何も信じてくれない母に憤りを感じ渡されたお金を地面に叩きつける。

「クソッ! なんで信じてくれないんだよ!」

小銭が地面を転がり側溝の部分へ移動する。走って落ちるのを阻止しようとしたが無理だった。百円は暗くて見えない穴へと落ちてしまった。

何も買わずに帰るとガミガミ言われるので自分のお小遣いから払うことにした。

プリンもどれを買えば良いのかわからなかったから適当に安いのを買った。

店からの帰り道。見慣れた服装の人間が見えた。あぁ、秋茜だ。

無視して横を通り過ぎようとしたがやっぱりそいつは俺に話しかけてきた。

「どうもどうも、また会いましたねナドゥさん」

「今は……ほっといてくれ……」

「あれあれ? どうかなさったんですかァ?」

「…………親と喧嘩したんだよ………」

「ハハハッ。 それは災難ですことォ」

他人事のように笑い飛ばす秋茜にまた怒りが湧いてきた。舌を噛み切りたいほどに放つことの出来ない怒りが蓄積していった。

そいつはまだなにか話したげにしていたが、無理やり横を走り抜けて家へ帰った。今日は本当に最悪の気分だ。

村紗からは拒絶されるし、親とは喧嘩するし、秋茜とかいうやつに出会うし。今日みたいな日はもう懲り懲りだ。

息切れしていることにさえ気づかず、いつの間にか家の前まで来ていた。

「遅かったわね。プリンは買えたかしら?」

「………………」

母は俺から買い物袋を取り上げ中を見る。その瞬間にしかめっ面になった。

「……ちがう……」

「……違うじゃない! 私が買ってきてほしかったのはタイショーのプリン! これは焼きプリンじゃない!」

「……知るかよ………知らねえよ!」

ついに怒りは爆発し母を無理やりどかし二階の方へ走る。母は鈍い音をたてて豪快にこける。ザマァと声に出すのをどうにか抑えてベッドに潜り込む。

どうせ俺のせいにしてもう一個買わせるために騙したんだ。絶対に許さん。親孝行なんてバカバカしい。絶対にするもんか。

と、気づけば寝ていた。泣き寝入りってやつだ。今何時かと時計をみる。もう夜の九時だった。今日は夜ふかしすることになるだろうなぁと呑気なことを考えていた。

いつの間にか母に対する怒りも消えていた。一時的な怒りだった。こうやって冷静になれば俺が悪かったのかもしれないと思ってきさえする。

一回の電気はついているようで母は起きているようだった。一応喧嘩中なので気付かれないようにそっと階段を降りる。

いつもはソファの上で座るなり寝ていたりする時間なのだが姿はなかった。おかしいなと思い母を探すがどこにも姿はなかった。

買い物に行っているのだろうか。そう思い玄関へ足を運んだその時だった。視界には鮮血に染められた地面が広がりそこには母が倒れていた。

長い髪で顔は見えなかった。どこからどう見ても生きているようには見えなかった。

「なぁ、母さん……冗談はよしてくれよォ……」

肩を揺さぶるが反応はない。それどころか呼吸の音も聞こえない。

まずい……まずいぞ……マズイマズイマズイマズイ……どうしようどうしよう……どうすればいい?

誰もいないのに誰かに問いかける自分の姿は客観的に見ると非常に滑稽で頭のおかしい人にしか見えなかった。

「やばい……まずい………コロシタ……実の親を……マズイマズイ……………」

その間にも急にスッっと起きるのではと思い肩を揺さぶる。もちろん息を吹き返すことはなく『ソレ』は1ミリたりとも動かなかった。

あぁ。もう逃げるすべなんてないんだな。そう悟った。そして一つの環状が自分の中を支配する。

「コレを隠さなきゃ………」

もうソレを親とは呼ばなかった。ただの親子喧嘩がここまでに発展したこと、原因がプリンであることが最高に馬鹿らしくて涙を流すどころか笑っていたと思う。

気づくとソレの足を持って押し入れの中に入れる。最近太ったんじゃないかと、ソレに話しかけるほど余裕があった。俺は今まさに人をコロシタ。

人を殺すってのは人間がやってはいけない禁じられた行動だ。ソレを今オレは成し遂げたんだ。つまりだ。『俺は人間じゃなくなったんだ』人間以上の存在。つまり神になったんだ!!!

そう考えた途端、今まで以上に笑いがこみ上げてくる。顔が元の形を留めぬほどに口は裂け汗が流れ眉は釣り上がり、目は笑っているのか怒っているのか悲しんでいるのか感情が読み取れなかった。

「ハハハハッ!!!!! ザマァ見やがれ!! 今までのツケが回ってきてさぞ嬉しいだろうな! ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

ソレを押入れに詰め込みすべてを終わらせた。無理やり詰め込んだのでソレの骨は何本か折れただろうがそんなこと全然気にならなかった。

その時玄関でチャイムが鳴った。まさか……バレた……? そう思い心臓がバクバクと跳ね上がる。ただ疑惑は必要のないものであることがすぐに分かった。

チャイムの音から察するに玄関の先にいるのは村紗だ。でもなんで今村紗が……? もう時刻は十時。 俺らみたいな中学生が夜道を歩いていい時間じゃない。

まさか、本当に………バレたのか………? 顔が引きつり恐怖を隠せなかった。まてよ……もう俺は人間を越えたんだ。何も怯えることはないじゃないか。

気さくに話しかければ何も感づかれないさ。と自分に言い聞かせ玄関の扉を開ける。部屋も十分に掃除してある。ルミノール検査キットでも持ってない限りこの部屋に血がついていたなんてばれないさ。

玄関のドアノブに手をかける。ドアチェーンをかけた状態でドアを開けるとやはりそこには村紗がいた。

「あっ、ごめんねェナドゥ。夜遅くにお邪魔しちゃって……」

「………どうしたんだ…?」

「いやァ。親と喧嘩しちゃってね…… それでナドゥんちに来たってわけヨ」

ここで無理に断ると何か勘付かれるかもしれない。村紗も状況が今の自分と似ていて謎の同情を感じていた。似ているだけで規模がぜんぜん違うのに。

「まぁとりあえず入れよ……」

「ありがとうゥ!」

夜の十時とは思えない元気な声で家の中に入ってくる。田舎なので数百メートル周辺には家がない。これだけ大声を出しても迷惑にならないわけだ

チェーンロックを外し村紗を中に招き入れる。そして年のために『チェーンロックを再度かけておく』

「あれェ? お母さんは?」

「か……買い物だよ」

「こんな夜遅くにィ?」

「……俺が間違えてプリン食べたんだよ。ソレを買いに行ってるんだ」

そう言うと村紗は納得した。村紗が俺に疑いの目を向けてきた……? 信じてたのに、村紗だけは俺のすべてを受け入れてくれるって……

「なっ……なぁ。村紗。もし俺が母親を殺したらなんていう?」

「…………へ?」

「だから、俺が母親を殺したら………村紗はなんて思うかな……って」


「すぐに警察に突き出す」


…………やっぱりか…………

村紗の声には感情がこもっておらず、目も死んだ魚のような目をしていた。ネタとして言っているようには見えなかった。

はぁ、チェーンロックをかけておいて良かったぜ。村紗だけは俺のことを信じてくれるって、だから俺は村紗を信じたんだ。村紗が世界を否定すれば俺だって否定するさ。

それぐらい信じていたんだ。なのに村紗は、俺を裏切った。もう涙を流す元気も、笑う元気も、何かをする元気は残っていなかった。

でも、『人一人殺すぐらいはできる』

「村紗、夕飯は食べたか?」

「ん?食べたよォ?」

「じゃぁお茶入れるからそのソファで座っていてくれ」

そう言って台所に行く。村紗はおとなしくソファに座っているようだった。台所で包丁を取り出しゆっくりとソファへ近づく。

目を覚ませば病院のベッドの上にいることだろう。あたかも犯人Xがいるかのように見せる。コレで警察の目は少なくとも一ヶ月はごまかせる。

小学校の時に書いた自由研究ノートを取り出す。コレは小学3年生のときに書いた夏休みの自由研究だ。テーマは『完全犯罪』

確かPTAが動くほどの騒ぎになったっけ? 精神病院にも連れて行かれたさ。サイコパスなのかもしれないって。

結果は何だったと思う? 思春期特有の自己愛性人格障害。つまりはやめの中二病ってやつだ。

まさかその研究が役に立つとは夢にも思わなかった。二十一ページ「完全犯罪 - その6」を開く。

村紗を殺したあとは警察に電話する。そして自分の右胸に包丁を刺す。心臓は左側にある致命傷は避けられるはずだ。

アリバイはこうだ。

――

①犯人Xは母と口論になり暴行。その際に頭を壁に打ち外傷性ショック死。

②犯人Xは俺と遊んでいた村紗を刺殺、その後俺は警察に通報

③警察に通報中後ろから刺されるが死に至らず気絶

④犯人Xは逃亡

――

何もかもが完璧だァ! コレで思う存分村紗を殺せる!

「アバヨ! ムラサァァァァ!!!!」

「やっぱりだったのね。ナドゥのお母さんはナドゥが殺したんだねェ」

「………?!」

「私見てたの。カーテン空いてたから。そしたらね、見ちゃったの。ナドゥがお母さんを押し入れに詰め込むところ」

「………うるさい………ウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!!! お前は死ぬんだ! 別に知られたってどうってこたねぇ!!!!」

俺はソファの後ろから手を回し村紗の心臓に包丁を刺す。村紗は叫び声を上げることもなく胸から血を流す。

次に瞬きをしたときには村紗は目から光を失っていた。即死だった。あれ、俺ってなんで村紗のこと殺したんだっけ?

そりゃ母親を殺した友達がいたら警察に通報する、当たり前だ。もしかして俺が今までやっていたことって、

『ただただ自分のエゴを他人に押し付けていただけなのか?』

流したくもない涙が急に流れてくる。どれだけ涙を流しても村紗は息を吹き返さないのに、ただただ悲しくて涙が出てくる。

もう体内に流せるような水分は残ってないはずなのにただただ涙が出てくる。頬をつたい血に塗れた床へ流れ落ちる。

もうダメだ。俺の人生おしまいなんだ。どうせ少年院に入れられてクソみたいな人生を送るだけなんだ。

でも体は勝手に動いていた。壁に包丁をセットする。体が柔らかくてよかった難なく固定できた。そのまま後ろに勢いよく下がり背中に包丁をぶっ刺す。

シャツが血に濡れていくのがわかる。最後の力を振り絞ってどうにか電話を取り番号を押す。

「こちら……警察署です。事件ですか?事故ですか?」

「あ……の……、今………背中を刺されて……!」

残った力で最大限に演技をする。途中で意識は途切れてしまった。

「大丈夫ですか……?! 大丈夫ですか?! 今パトカーと救急車をそちらに向かわせます! 気をしっかり持って!」

自由研究ノートの件は古畑任三郎を参考にしています。

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