「気づき」
君は平成十二年と聞いて何を思い起こすだろうか?
コンピュータが誤作動をおこし世界が崩壊するかもしれない。
バスがネット掲示板利用者によってハイジャックされる。
考古学者が石器を捏造した。
やはり二十世紀から二十一世紀への移り変わりで世界がざわめいた。
その中には未だに解決していない事件も多々あったと思う。
君の記憶の片隅に置いておいてほしいんだ。
『夏暁郷百鬼夜行事件』を忘れないで。
-平成十二年-
セミの鳴き声が聞こえ夏を実感する。
一階で母親が自分を呼ぶ声がする。昼食だろうがどうせ素麺なんだろう。
飯を食べる気にもならなれなかった。
夏休みで浮かれていたのもつかの間だった。一週間後に来たのは「暇」という感情だった。
数少ない友達の8割は旅行。2割は宿題が忙しい。
夏休みがあるのは自分だけなのでは、とさえ感じる。
プールに行くか。隣町まで行かないとだけど。
旅行に行くか。貧乏だけど。
勉強するか。頭良くないけど。
あと3習慣もある夏休みの予定は、考えても虚しくなるだけだった。
その時家のチャイムが二階まで聞こえてきた。
自分の特技を一つ、君に教えてあげよう。
自分はチャイムの音で誰が来たかわかる。もちろん今まであったことのある人のみだけど。
このビーという長いけど切れがある、ハキハキとした元気のある音。
この音は「郷長」だ。間違いない。
自分が住んでいるこの土地、「夏暁郷」が変わってるのは名前だけじゃない。
まず国の呼び方だと「夏暁郷村」だ。
ただお偉いさん達の考えだとこの村は歴史的何かがあるらしく、
夏暁郷(村)じゃなくて夏暁(郷)と分けるのが正しいらしい。
自分からしたらどっちでも良いのだがこの国の命名騒動でかなり問題になったらしい。
まぁ夏暁郷がそれだけ重要にされているのは嬉しいことなのだが……
つまり村長って呼び方はしない。郷長って呼び方をしないと本人に怒られてしまう。
そんなことを考えているとまた下から自分を呼ぶ声がした。
「お~い! 郷長さんがお前を呼んでるよ!」
どうせ親との用だろうと思っていたが違うようだ。どうやら自分に用があるらしい。
急ぎ足で階段を降りる。玄関へ行くと郷長のおっとりとした顔がそこにあった。
「いやぁすみませんねェ、急に及びしちゃって」
汗をハンカチで拭きながらしゃべる男はまさに村長って感じの顔だ。
「どうしたんです? 外は暑いですからとりあえず中に入ってください」
「いえいえ、大丈夫ですよ。今日はあなたにこの郷を紹介しようと思って来たんです」
こんな感じで頼んでないのに来てくれる。普段はかなり優しいんだが、怒るとかなり怖い。
退屈していた自分にとって用があるというのがどれだけ素晴らしいことか知っている。
「はい! 紹介してください!」
急に元気になった自分をみて郷長さんは笑顔を浮かべた。