ミニチュアづくり
結局その日は美亜とは別々に帰って、そしてその夜、文化祭の中止が決定した連絡が学校からメールで来た。
次の日。
僕は一応ミニチュア部の部室に向かった。
美亜がいた。
「先輩、こんにちは。あの、もうこのミニチュアも、特に作る必要、なくなっちゃいましたね」
もうほぼ出来上がっている、家のミニチュアを美亜は少し雑めにいじった。
「美亜」
「なんでしょう、先輩」
「あのさ、ミニチュア、作ろう」
「え、文化祭ないんですよね。もう先輩もそしたらやることないから引退……」
「したくない」
「あ、そうなんですか」
「そうなんです」
「まあ……そうなんでしょうね」
微妙に雑な美亜。ミニチュアの家の扱いと似た扱いを受けている僕。
そんな僕は、美亜に言った。
「この部室もどこかほかの部の部室か空き部屋になるでしょ。僕が引退して、ミニチュア部がなくなったら」
「ですね」
「だからさ、僕は、最後に、この部室のミニチュアを作りたい」
「なるほど。それ、面白そう」
美亜は普通に感情ではなく論理的に感心してくれていた。
それが良かったのかはまだ僕にはわからない。
けど、僕は、やっぱり最後、あと何か作らないと、この部活を去れないのだった。
「先輩、ちゃんと持っててくださいよ」
「はいはい」
まずは美亜と頑張って、部屋の寸法を測る。
そしてそれを20で割って、それをミニチュアの大きさとする。
美亜と設計図を書いていく。
どんな材料を使うかも話し合っていく。
そんな作業を二人でしているうちに僕は思った。
僕はどうして、美亜に恋しなかったのだろうか。というか、恋していないのだろうか、本当に。
そして部室のミニチュアができたのは、本来文化祭があったはずの日だった。
ただの普通の授業の日になってみんなさぼるかわめくか寝るかおとなしく授業受けるかだったけど、僕は部室で美亜とハイタッチしてしまっていた。
二人とも授業さぼってるのはどうでもよくて、一番大切なのは、すごくリアルな部室のミニチュアが、手元にあるということだ。
「いやー、楽しかったです。これで、なんか終わりでもいいかなって」
「……そうだな」
僕はうなずいた。
ほんとは嫌だったし、やっとわかった。
僕は美亜と、ただこうやって好きなことを一緒にやるだけがよかったんだ。
なんか色々気を遣ったり、デートしたり、あとキスとか……まあ、あと色々としたこととかは、したくなかったんだな、と思った。
だからこれはやっぱり恋ではなく。恋でなくてよかったと僕は思った。
だけど、美亜はそうは思っていないみたいだった。
「先輩って、こうして、ずっと一緒に、授業さぼってまで一緒にいても、私のこと好きになってくれないんですねー」
「あ、いや好きだけど、恋ではない。ごめん」
「なるほど」
この部室のミニチュアを作りたいと僕が言った時と、同じような納得の仕方を、美亜はした。
そして美亜はつづけた。
「……私は、先輩を、好きでいるので。……先輩、何年もたって、想いが届くってこともあるんですよ。だから油断しないように! 私に惚れちゃいますよ?」
精一杯積極的なことを言った美亜は、言い終えた後、恥ずかしそうに笑って、部室のミニチュアの机をいじっていた。